日本企業の生産性を劇的に上げる“デジタルトランスフォーメーション経営”とは何か
耳の痛い話だが、日本は「特にサービス産業のの生産性が低い」「イノベーションを起こすのが苦手」と言われている。
日本生産性本部のデータによれば、2015年の日本の労働生産性の順位は世界20位。これはG7中最下位クラスであり、順位は過去6年間ほとんど変化がないという。
一方で、生産性向上のツールは急速に発展している。昨今のテクノロジーの進歩は目を見張るものがあるが、企業全体でIT技術の導入に取り組むことが、生産性向上、そしてイノベーションを生み出す風土作りを促進することに間違いはない。
そんな今、ビジネスの世界を席巻しているのが「デジタルトランスフォーメーション」だ。
これはスウェーデンの大学教授によって2004年に提唱された概念で、「IT(情報技術)の浸透が、人々の生活のあらゆる面でより良い方向に変化させる」という未来を明示したものである。
この概念が提唱されてから10数年が経ったが、我々は今やIT技術なくして生活もビジネスもできないところに至っており、その変化から生産性の飛躍的向上を実現したり、革新的なビジネスもいくつか生まれている。
しかし、いまだ「デジタルトランスフォーメーション」へ適応できていない企業は多い。
そこで、改革のヒントをもたらしてくれるのが『デジタルトランスフォーメーション経営 生産性世界一と働き方改革の同時達成に向けて』(ダイヤモンド社刊)だ。
本書は日本の独立系コンサルティング会社であるレイヤーズ・コンサルティングによって書かれており、1983年の創業以来、蓄積してきたコンサルティング経験を踏まえ、デジタルトランスフォーメーションの最新潮流に沿ったビジネスモデル変革と、生産性向上のための具体的な施策が説明されている。
本書では、圧倒的生産性向上を実現するためには、「需要サイド」と「供給サイド」という2つの側面からのアプローチが必要だとしている。
ここでは、自社のサービスをデジタルトランスフォーメーションに適応し、サービスの需要を高めるためのカギとなる、 “「ぶっ飛んだ」ビジネスモデル改革”について触れよう。
■「ぶっ飛んだ事業戦略」を立てるべき理由
「ぶっ飛んだ」と聞くと少々俗っぽく感じるが、確かに生産性を飛躍的に向上させるには、確かに抜本的な改革が必要だろう。
本書では、ビジネスモデル改革を実行するには「ぶっ飛んだ事業戦略」を立てることが大切だとされている。それは、今までのビジネスのやり方の延長線上ではなく、まったく新しいベクトル、異なる発想で生み出される事業戦略だ。
この「ぶっ飛んだ事業戦略」によって生み出され、定着しつつあるサービスの例としては、配車サービス「Uber(ウーバー)」や、民泊ビジネスの旗手となっている「Airbnb(エアビーアンドビー)」などがあげられる。前者は「車は自分で買って乗るもの」という常識を、後者は「旅先ではホテルや旅館に宿泊するもの」という常識を根底から覆した。しかも、いずれもIT技術の発展がなければ事業は成立しなかったはずだ。
あくまで技術は変革を促すための“道具”や“手段”にすぎないが、“ぶっ飛んだ”ビジネスを創造する上で、技術が発展した今こそ最大のチャンスである。
ところが、日本企業の多くは「ぶっ飛んだ発想」を苦手としている。そこには、常識を阻む5W1Hで構成される「6つの壁」があるというのだが、成功している企業はどのように壁を打ち破っているのだろうか? 本書の内容を簡潔にまとめてみた。
(1)When(時間の壁)
「すぐに欲しい」という市場のニーズに対して、リードタイムを短縮するには限界がある。しかし、その課題を「デジタルトランスフォーメーション」で改善したアイディダスと繊維メーカーのセーレンの事例は大変興味深いものだ。
(2)Where(場所の壁)
流通ビジネスにとって、仕入先や販売先を地理的に広げることは重要課題だが、そこには「場所の壁」が立ちはだかっていた。その壁を壊して世界規模に成長したのがアマゾンであり、世界中でトップスクールの講義を受けられる「Udacity(ユーダシティ)」である。
(3)Who(顧客の壁/提供者の壁)
ここには2つの壁が存在する。顧客の壁を打ち破った好例としては、純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」がある。マーケティング活動の結果、若者や女性に日本酒ファンを増やした。もう一つの「提供者の壁」は先述した「Uber」や「Airbnb」があげられるだろう。誰もが提供者になることができるようになった。
(4)What(製品技術の壁)
「物を作って売る」しかビジネスモデルがなかった製造業は、製品だけではない幅広いサービスを求められるようになった。建機大手のコマツはM&Aによって、モノの販売から鉱山事業全体を支援するソリューションビジネスに守備範囲を広げていく方針をとっている。
(5)Why(ニーズの壁)
現代は「所有」よりも「使用」に対する満足感が高い時代だ。コストパフォーマンは厳しく評価される。月6800円の会費でブランドバッグ使い放題のサービス「Laxus(ラクサス)」は、まさに現代だからこそ支持を得ているサービスだ。
(6)How(提供方法の壁)
これは販売チャネルの拡大という方法で壁を打ち破れる。例えばユニクロはオンラインで購入した商品を主要コンビニエンスストアで24時間受け取れる仕組みを構築した。また、メガネのネット販売会社「オーマイグラス」は、ユーザーが自宅でメガネの試着・注文・購入できる仕組みを構築することに成功している。
6つの「常識の壁」と、それを打ち破ってきた企業やサービスをまとめたが、いずれも根本からの発想の転換が必要だ。しかし、日々の業務をこなすことで手いっぱいな現場に、「常識の壁」を崩すことは難しい。そもそも、この壁は現場の日々の発想や行動の積み重ねから築き上げられたものばかりだからだ。
そのため、「ぶっ飛んだ」ビジネスモデル改革の策定と実行は、トップマネジメント主導で行う必要がある。
◇
しかし、生産性の飛躍的向上は、「ぶっ飛んだ」ビジネスモデル改革だけではまだ足りない。もう一つの軸となる「供給サイド」も、デジタルトランスフォーメーションに適応する必要がある。
こちらでは、「クラウド」や「New ERP(新世代の基幹業務システムパッケージ)」、「ロボット」、「AI(人工知能)」、「IoT(モノのインターネット)」などの最新テクノロジーを経営やバリューチェーンに組み入れ、労働時間短縮と労働力を向上させるための「超効率経営」の実現をはかる。
詳しくは本書を手に取ってほしいが、実績のあるコンサルティングファームによって執筆された本だけに、分かりやすく、再現性は高い。
マネジメントの抜本的な意識改革がなければ今後の変化についていけなくなるのは明らか。今後のビジネスとマネジメントを考える上で、大いに参考になる一冊だ。
(新刊JP編集部)
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一方で、生産性向上のツールは急速に発展している。昨今のテクノロジーの進歩は目を見張るものがあるが、企業全体でIT技術の導入に取り組むことが、生産性向上、そしてイノベーションを生み出す風土作りを促進することに間違いはない。
これはスウェーデンの大学教授によって2004年に提唱された概念で、「IT(情報技術)の浸透が、人々の生活のあらゆる面でより良い方向に変化させる」という未来を明示したものである。
この概念が提唱されてから10数年が経ったが、我々は今やIT技術なくして生活もビジネスもできないところに至っており、その変化から生産性の飛躍的向上を実現したり、革新的なビジネスもいくつか生まれている。
しかし、いまだ「デジタルトランスフォーメーション」へ適応できていない企業は多い。
そこで、改革のヒントをもたらしてくれるのが『デジタルトランスフォーメーション経営 生産性世界一と働き方改革の同時達成に向けて』(ダイヤモンド社刊)だ。
本書は日本の独立系コンサルティング会社であるレイヤーズ・コンサルティングによって書かれており、1983年の創業以来、蓄積してきたコンサルティング経験を踏まえ、デジタルトランスフォーメーションの最新潮流に沿ったビジネスモデル変革と、生産性向上のための具体的な施策が説明されている。
本書では、圧倒的生産性向上を実現するためには、「需要サイド」と「供給サイド」という2つの側面からのアプローチが必要だとしている。
ここでは、自社のサービスをデジタルトランスフォーメーションに適応し、サービスの需要を高めるためのカギとなる、 “「ぶっ飛んだ」ビジネスモデル改革”について触れよう。
■「ぶっ飛んだ事業戦略」を立てるべき理由
「ぶっ飛んだ」と聞くと少々俗っぽく感じるが、確かに生産性を飛躍的に向上させるには、確かに抜本的な改革が必要だろう。
本書では、ビジネスモデル改革を実行するには「ぶっ飛んだ事業戦略」を立てることが大切だとされている。それは、今までのビジネスのやり方の延長線上ではなく、まったく新しいベクトル、異なる発想で生み出される事業戦略だ。
この「ぶっ飛んだ事業戦略」によって生み出され、定着しつつあるサービスの例としては、配車サービス「Uber(ウーバー)」や、民泊ビジネスの旗手となっている「Airbnb(エアビーアンドビー)」などがあげられる。前者は「車は自分で買って乗るもの」という常識を、後者は「旅先ではホテルや旅館に宿泊するもの」という常識を根底から覆した。しかも、いずれもIT技術の発展がなければ事業は成立しなかったはずだ。
あくまで技術は変革を促すための“道具”や“手段”にすぎないが、“ぶっ飛んだ”ビジネスを創造する上で、技術が発展した今こそ最大のチャンスである。
ところが、日本企業の多くは「ぶっ飛んだ発想」を苦手としている。そこには、常識を阻む5W1Hで構成される「6つの壁」があるというのだが、成功している企業はどのように壁を打ち破っているのだろうか? 本書の内容を簡潔にまとめてみた。
(1)When(時間の壁)
「すぐに欲しい」という市場のニーズに対して、リードタイムを短縮するには限界がある。しかし、その課題を「デジタルトランスフォーメーション」で改善したアイディダスと繊維メーカーのセーレンの事例は大変興味深いものだ。
(2)Where(場所の壁)
流通ビジネスにとって、仕入先や販売先を地理的に広げることは重要課題だが、そこには「場所の壁」が立ちはだかっていた。その壁を壊して世界規模に成長したのがアマゾンであり、世界中でトップスクールの講義を受けられる「Udacity(ユーダシティ)」である。
(3)Who(顧客の壁/提供者の壁)
ここには2つの壁が存在する。顧客の壁を打ち破った好例としては、純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」がある。マーケティング活動の結果、若者や女性に日本酒ファンを増やした。もう一つの「提供者の壁」は先述した「Uber」や「Airbnb」があげられるだろう。誰もが提供者になることができるようになった。
(4)What(製品技術の壁)
「物を作って売る」しかビジネスモデルがなかった製造業は、製品だけではない幅広いサービスを求められるようになった。建機大手のコマツはM&Aによって、モノの販売から鉱山事業全体を支援するソリューションビジネスに守備範囲を広げていく方針をとっている。
(5)Why(ニーズの壁)
現代は「所有」よりも「使用」に対する満足感が高い時代だ。コストパフォーマンは厳しく評価される。月6800円の会費でブランドバッグ使い放題のサービス「Laxus(ラクサス)」は、まさに現代だからこそ支持を得ているサービスだ。
(6)How(提供方法の壁)
これは販売チャネルの拡大という方法で壁を打ち破れる。例えばユニクロはオンラインで購入した商品を主要コンビニエンスストアで24時間受け取れる仕組みを構築した。また、メガネのネット販売会社「オーマイグラス」は、ユーザーが自宅でメガネの試着・注文・購入できる仕組みを構築することに成功している。
6つの「常識の壁」と、それを打ち破ってきた企業やサービスをまとめたが、いずれも根本からの発想の転換が必要だ。しかし、日々の業務をこなすことで手いっぱいな現場に、「常識の壁」を崩すことは難しい。そもそも、この壁は現場の日々の発想や行動の積み重ねから築き上げられたものばかりだからだ。
そのため、「ぶっ飛んだ」ビジネスモデル改革の策定と実行は、トップマネジメント主導で行う必要がある。
◇
しかし、生産性の飛躍的向上は、「ぶっ飛んだ」ビジネスモデル改革だけではまだ足りない。もう一つの軸となる「供給サイド」も、デジタルトランスフォーメーションに適応する必要がある。
こちらでは、「クラウド」や「New ERP(新世代の基幹業務システムパッケージ)」、「ロボット」、「AI(人工知能)」、「IoT(モノのインターネット)」などの最新テクノロジーを経営やバリューチェーンに組み入れ、労働時間短縮と労働力を向上させるための「超効率経営」の実現をはかる。
詳しくは本書を手に取ってほしいが、実績のあるコンサルティングファームによって執筆された本だけに、分かりやすく、再現性は高い。
マネジメントの抜本的な意識改革がなければ今後の変化についていけなくなるのは明らか。今後のビジネスとマネジメントを考える上で、大いに参考になる一冊だ。
(新刊JP編集部)
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