身長が低くなる「ラロン症候群」の患者は、成長ホルモンの分泌が阻害され、がんや糖尿病になりづらい。(写真=時事通信フォト)

写真拡大

■高身長の人ほど「大腸がん」になりやすい

性格とは無関係である一方で、がんが体形と関係することはわかっている。世界がん研究基金の報告書によると、「身長の高さ」によって、大腸がん、閉経後の乳がんはリスクが「確実」に高くなり、膵臓がん、閉経前の乳がん、卵巣がんはハイリスクの「可能性が高い」と分析されている。

高身長とがんの影響では、現在、成長ホルモンの働きに注目が集まっている。成長ホルモンには発達を促進するだけでなく、細胞の「アポトーシス」を阻害する働きもある。アポトーシスとは「細胞が自ら消滅する」ことを意味する言葉で、がん細胞の始まりとなる細胞の多くはアポトーシスされるので、人はがんにならない(それを逃れたら、がん細胞となっていく)。成長ホルモンが多く分泌される人は、アポトーシスが阻害されるため、がん細胞が増殖しやすい、と考えられている。

興味深いことにこの現象を逆さまに証明している人々がいる。低身長で知られる「ラロン症候群」の人々である。彼らは遺伝子異常で成長ホルモンの分泌が少ないため、成人しても身長が120センチ程度までしか伸びない。その一方で、がんになる人が極端に少なく、糖尿病になる人もほとんどいない。

身長以上に病気との関係をよく指摘される体形は、肥満である。肥満の人は、がん、心筋梗塞、糖尿病にかかるリスクが高いことは周知の通りである。しかし誤解されがちなのは、「やせすぎ」も問題が多いことだ。むしろ標準よりも若干肥満のほうが死亡リスクは低くなることがわかっている。

■長生きするのは「ちょいデブ」

国立がん研究センターが35万人以上のデータを定量評価したところ、男性の死亡リスクではBMIが25〜27のカテゴリーで最低だった。BMIとは肥満度を表す体格指数で、「体重(kg)÷身長(メートル)の2乗」で計算する。日本肥満学会では「22」を標準としており、25以上を「肥満」と定義している。この研究結果によれば、男女ともに死亡リスクが有意に高くなったのは、「肥満」よりも「やせ」で、全体の傾向としては「逆J型」だった。

BMIが「22」の標準体重とは、身長170センチなら約64kgという計算になる。死亡リスクが最も低い「25〜27」では、同じ170センチで体重が72〜79kgであるから、標準よりも10kg以上も太った「ちょいデブ」のほうが、長生きという観点では望ましいといえる。

多くの日本人が「ダイエット」に励んでいるようだが、健康のことを考えれば、「太りすぎ」と同様に「やせすぎ」にも注意が必要だ。

----------

東北大学大学院 医学系研究科 教授 辻 一郎
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野教授。1957年、北海道生まれ。83年東北大学医学部卒業。2002年より現職。著書に『健康長寿社会を実現する』(大修館書店)、『病気になりやすい「性格」』(朝日新書)などがある。

----------

(東北大学大学院 医学系研究科 教授 辻 一郎 構成=山田清機 写真=時事通信フォト)