【湘南】「�弔気鵝△匹Δ砲�してくれ！」「俺にばかり頼るな」――山田直輝が語ったJ２降格の要因とは
「１分でも、10秒でも、時間さえあればすぐに立ち上がって戦うつもりだった」
90＋５分。「人数をかけていて、高さのない僕が混み合っているなかに入ってもダメ」と大外で待ち構えていた山田直輝の元に、高山薫のクロスが飛んできた。
自身のヘディングシュートが枠から外れ、主審が試合終了を告げる笛を鳴らすと、山田はその場にうずくまった。「ただ、そこに少しだけ止まっていた時間があっただけ」。そう話した彼の胸中は察するに余りある。
たとえゴールしていたとしても、同点にしかならなかった。同時に、J１残留が絶たれる意味も持っていた。勝点３獲得以外に生き残る道はない。それでも……。
追い付いてのJ２降格と、敗戦でのJ２降格では大きな隔たりがあるはず。「決めなきゃいけない気持ちが強くて、少し焦りが出てしまった」のは、その差を理解していたからだろうか。
振り返れば、来季の戦うステージをひとつ下げなければならないのは、多くの黒星を重ねてしまったからである。特に、第２ステージ３節・鳥栖戦から12節・福岡戦までの10連敗は痛恨だった。
山田も、良いトレーニングが良い結果につながらないジレンマを抱えていたことを吐露している。
「馬入ではできていることが、試合になるとできなくなる。公式戦のプレッシャーだったり、勝てていないこと、負け続けていることがプレッシャーになっていたんじゃないかなと。
その期間（５節・仙台戦から12節・福岡戦まで）に僕は休んでいたし、外から眺めていて、『サッカーを楽しまないといけない』とみんなに伝えられればいいと思っていた。
少しずつ伝播した気がするけど、その時には時すでに遅しという感があった。もっと早く気が付いて、チームで『公式戦でも楽しまないと』という雰囲気が出ていれば……。それが今季の成績に直結したのかな」
勝利が遠ざかることでプレッシャーが強くなり、勝ち星はさらに掌からこぼれ落ちていく。まさに悪循環のなかにチームは立たされていた。J１残留のノルマは、真綿のようにジワジワと自分たちの首を絞める。
「勝たないといけないから、『ボールを失いたくない』『自分がミスをしたくない』という気持ちが出ていた。者さん（者貴裁監督）は『馬入でやっていることを出せばいい』と言っていた。
でも、それとは反対に、選手たちは“湘南スタイル”を体現できていなかった。ただボールを蹴って、闇雲に走る。それを拾われてしまい、カウンターを受けてしまう」
負のスパイラルは、チームの脱出を許さない。また、選手たちに執拗に絡みつくことで自主性をも奪い取ってしまっていた。山田の言葉を続けよう。
「正直、みんなが自分の意思でサッカーをやっていなかった時期があった気もする。あまりにも“湘南スタイル”を出そうと思い過ぎていた。
選手一人ひとりの考えや良さがあってこそのチーム。そこにプラスして独自のスタイルを出せるからこそ、良い結果が付いてくると僕は思っている。どちらかに偏ると、上手くいかなくなる」
誤解を恐れずに言えば、者監督という存在が大き過ぎただけに、選手は苦しさを自分たちで解決することを放棄してしまったとも言える。困難にぶち当たった際に、円陣を組むのではなく、ベンチに目を向ける。策を求めてしまう。
「結果が出なくて、『者さん、どうにかしてくれ！』って気持ちになっていた。でも、そのことに者さんは気付いていたんですよ。だから、『俺にばかり頼るな』『自分で判断してプレーしなきゃいけない』ということもあった」
だが、そうした状況も徐々に変化を見せていると山田は言う。
「少しずつ変わり始めてはいた。ボールを蹴らないで、しっかり後ろからもつなげるようにもなってきた。だから、これからなんです。確かに今季のJ１残留を懸けた戦いは終わってしまった。
でも、それだけ。まだまだ先はあって、リーグ戦は２試合残っているし、天皇杯だって勝ち上がっている。そこでどれだけベルマーレらしさを出せるかですよ」
最後まで諦めないのが、このチームのスタイルだ。選手はもとより、サポーターも可能性がゼロになる瞬間まで、声を枯らし続けた。そうやって戦い抜いた事実がクラブの歴史となり、新たなる展開を生み出す原動力となるはずだ。
「緑と青の勇者湘南。さぁ、今日も行こう。勝利目指して」――。踏まれても、屈辱にまみれても、クラブも監督も選手も、そしてサポーターも歩みを止めることはない。その先には、最高の勝利が待っていると知っているのだ。
取材・文：古田土恵介（サッカーダイジェスト編集部）
