慰安婦像「合意では全く言及されていない」 事実と食い違う朴大統領「発言」が招いた大波紋
いわゆる従軍慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」したとする日韓の合意をめぐり、朴槿恵(パク・クネ)大統領が韓国メディアを相手に発言した内容が大きな波紋を広げている。
日本政府はソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像の撤去を繰り返し求めているが、朴大統領は「合意が少女像とリンクしているなどと言うが、合意では全く言及されていない」などと発言。撤去をめぐる議論で「扇動すべきではない」とも述べた。この発言は合意内容と食い違っている上、「移転反対」の韓国世論を「扇動」の一言で一蹴したとも受け止められた。そのため、日韓双方のメディアから非難される事態になっている。
「撤去」が10億円拠出の「前提」かは曖昧なまま
2015年12月28日に発表された日韓合意は、韓国側が元慰安婦の女性の支援を目的とした財団を設立し、その財団に日本政府の予算から約10億円を拠出することが骨子。慰安婦像については
「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」
と記述されている。日本側は慰安婦像の撤去を求めているが、像の撤去が拠出の前提になっているかは曖昧なままだ。
朴大統領の発言が出たのは、16年4月26日に青瓦台(大統領府)で開かれた韓国メディア各社の編集・報道局長との懇談会。聯合ニュースなど複数の韓国メディアによると、朴大統領は
「合意が少女像とリンクしているなどと言うが、合意では全く言及されていない。そういったことで扇動してはならない」
「(こういった議論は)被害者の助けにならない」
などと述べ、
「先送りは良くない。今も多くの遅れが出ている」
と、早期に合意を履行すべきだとの考えを示したという。
上記の合意内容からすると、朴大統領の「言及されていない」という発言は明らかに事実と異なる。
こうした背景には、16年1月上旬に韓国で行われた韓国ギャラップによる世論調査で、慰安婦像について「合意内容を日本が履行するかに関わらず、移転すべきではない」が72%に達し、「日本が履行すれば移転してもよい」は、わずか17%など、韓国世論が「撤去絶対反対」になっていることがあるとみられる。
そのため、日韓両方のメディアから、
「朴氏はわすか4か月で国際公約を破ろうとしている」(日本・夕刊フジ)
「国内世論を『扇動』で片付けている」(韓国・京郷新聞)
と、それぞれ方向の違う批判を受ける事態になっている。
萩生田官房副長官「韓国側も国民説明に努力をしている段階」
現時点では日本側の反応は抑制的だ。萩生田光一官房副長官は4月27日午前の会見で、上記の合意内容を参照しながら、
「(撤去が)『合意の前提か』ということになれば、そういった細かいことを逐条的に確認しあったわけではなく、やはり、この問題を最終的かつ不可逆的に次世代に引き継がない、お互いに日韓で新時代の新しい関係を築いていこうということが日韓合意の大きな意義でありますから、そういう意味では、細かいことのひとつとして、そういうことに含まれていると私は認識している」
と述べた。これは、明示的に撤去が前提だと合意したわけではないが、日本側は撤去されると思っている、という意味のようだ。その上で
「韓国側も国民説明に努力をしている段階なので、両首脳間で確認したとおり、日韓それぞれが今回の合意を責任を持って実施することが重要だと考えている」
と述べ、韓国政府が世論の説得に難儀していることにも一定の理解を示した。
菅義偉官房長官は同日午後の会見で、
「両首脳間で確認しており、その合意に基づいて両国が責任を持って実施をしていくことが一番大事」
と、これまでの認識を繰り返した。