日本大学鶴ヶ丘高等学校(東京)

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 西東京を代表する名門・日大鶴ヶ丘。1990年に甲子園初出場。2010年には西東京大会準決勝で日大三を破って決勝進出を果たすも敗退。それでも、2014年には見事、6年ぶりとなる甲子園出場を決めた。しかし今年のチームは、秋はブロック予選敗退。春は本大会で初戦敗退と、目立った成績を残すことが出来なかった。それでも、ポテンシャルの高い選手が揃い、夏の西東京では、怖い存在になることは間違いない。

打撃練習からガチンコ勝負

声を出す選手たち(日本大学鶴ヶ丘高等学校)

 昨夏、甲子園出場を決めたチームは、春の都大会でも4強入りを果たすなど、一見、実力が高かったように感じるが、萩生田 博美監督曰く、「夏に入るまで甲子園に行ける手応えは全くなかった」と振り返る。

 甲子園に行くことができた要因の一つに、春の大会では主力でなかった選手が夏の大会で活躍したということもある。例えば、春まで登板がなかった右腕・小林 晃大。小林は、夏4回戦の都立東大和戦で3安打完封、準々決勝では都立小平を相手に1失点完投。さらに、決勝の東海大菅生戦でも好投を見せて甲子園出場に大きく貢献した。

 春まで出場機会がなかった選手が夏に台頭する背景としては、例年、積極的にゲームを組んで競争を促していることが関係しているだろう。「A、B、Cと3つに分けたチームに、練習試合をどんどん入れていきます。Bチームで結果を出せば、すぐにAチームに。そうやっていくと、選手もやりがいが出てきますよね。また、Aチームで結果が残せなければすぐにBチーム行き。そうやって競争原理を生ませています」(萩生田監督)

 そのため、練習試合のメンバーが固定されることはあまりないようだ。練習試合の結果や普段の打撃練習の内容によって変動していく。ちなみに打撃練習は、打ちやすいコースに投げるフリー打撃ではない。投手はサインを出して、インコースも突き、変化球も織り交ぜるなどまさにガチンコ勝負。目的は実戦感覚を養わせること。日大鶴ヶ丘は専用のグラウンドがあるとはいえ、最終下校が19時と決まっている。打撃投手もやりながら、別の時間でブルペンで投げるという時間的な余裕はない。

 それならば打者を置いて投球練習をしながら、打者、投手ともに実戦感覚を養った方が効率が良い。そうやって投手、打者の実戦力を養い、各選手の能力の底上げを図ってきた。

[page_break:昨年の経験者に頼らないチーム作り]昨年の経験者に頼らないチーム作り

西田 賢太選手(日本大学鶴ヶ丘高等学校)

 今年は春の本大会で早々に敗退しただけに、そこから夏、勝ち続けるには、春からどれだけの選手が台頭できるかが重要視される。萩生田 博美監督は新チームスタート時、今年のチームについて昨夏のレギュラーが西田 賢太と山岸 哲也の2人しかいない現状を見て、選手たちにこう伝えていた。

「甲子園を経験している西田や山岸が中心になるチーム状態では、絶対に勝てない。西田、山岸の2人が、1番や2番、6番、7番を打つぐらい底上げしないと勝てないと伝えてきました。しかし、秋も春も、3番山岸、4番西田でした。結果を見れば分かるように、秋はブロック予選敗退、春は都大会初戦敗退です。経験者に頼るチーム作りは本当に強くならないんです」

 競争をしながら、選手の全体的な底上げを図っている。その中で伸びてきたのは2年生の羽根 龍二、服部 大輝、井上 洸喜の2年生野手。3人とも長打力があり、一発を打てる選手へ成長。

 今では、西田も1番、2番を打つようになり、目的である野手陣の底上げはできている。西田も、「みんな伸びてきて、自分も、あっやばい!と思えるぐらいうまくなっているのを感じます。だから負けていられないという気持ちになります」と危機感を覚えるようになったという。萩生田監督の方針通り、夏を前に全体的な底上げは進んでいる。

山岸 哲也選手(日本大学鶴ヶ丘高等学校)

 また、主将も西田から若生 裕太に代わった。若生は何かを変えようと、ある改革を行った。「多くの人に元気がないと言われて、選手たちと話し合ってそこで決めたのは、『全部員が声を出すこと』。腹から声を出して活気ある練習にしようと」

 練習中では、レギュラー陣だけではなく、声出しを行っている1年生も腹から声を出していて、非常に活気溢れる雰囲気となっている。それまでは全く声が出ていなかったというから驚きである。今では淡々とプレーするチームも増えているが、あえて全部員が声出しを行う理由。この理由について萩生田監督が語る。

「声を出さなくても、それぞれ目的意識を持って取り組めるチームはあります。ただ声を出さないようにすると、周りの部員が外を向いてしまって、チームが一つになっていないのを、このチームだけではなく多くの部員がいるチームを見ても感じました。部員が多くて強いチームの練習を見ると、周りの部員も活気があるし、試合中の応援も、ベンチにいる選手とスタンドにいる選手が一体となっているんですよね」

 練習を見ると、それぞれ声を出し、ダメなところがあればしっかりと指摘しあう。指揮官の考えは選手たちに伝わっているのを感じる。全部員が気持ちを一つにして向かっていかないと強豪校に勝てないということを、秋と春の二度の負けから実感しているからだろう。

[page_break:全部員134人が団結し、2年連続夏の甲子園出場を狙う]全部員134人が団結し、2年連続夏の甲子園出場を狙う

 選手たちは自覚も出てきて、少しずつ意識も変わってきている。あとは甲子園経験者が、自身の夏の経験で培ってきたことを選手たちにどう共有ができるか。主将の若生 裕太は常に昨年の先輩たちと比較しながら、仲間たちに話をしている。「昨年の先輩たちは今よりも選手同士で指摘しあっていましたし、声も出していました。そしてノックも正確に捕球できていました。比べるとまだまだです」

 また、昨年の夏の甲子園を経験している西田 賢太は、夏本番に備えて、ストレッチの重要性を選手たちに伝えていた。「夏は特に終盤になると体が動かなくなるので、そういう経験からストレッチは欠かさず行っていますし、みんなにも伝えています。僕はストレッチと体幹トレーニングをしながら、柔軟性と筋力をつけて、夏に耐えられるスタミナを身につけています」

 そんな西田の提案の下、多くの選手が帰宅後の自主練習では、体幹トレーニングとストレッチを欠かさず行っているようだ。「僕たちは下手くそな集団なので、公式戦でも勝てていないですけど、だからこそ団結をして、一勝を目指す大切さを伝えていきました」と語る山岸 哲也。

 この夏は、7月5日に都立杉並と初戦を戦う。また、同ブロックには日大三もいる。若生は「先輩たちは甲子園初戦で負けたので、甲子園一勝を目標にして夏に臨んでいきたいと思います」と意気込みを語った。

涙をこらえながら話を聞く3年生たち(日本大学鶴ヶ丘高等学校)

 そして部員134人の結束が固まったのが、6月29日に行われた国士舘との引退試合。ベンチに入れない3年生が出場し、7対3で勝利した。最後は3年生たちが涙を流しながら、円陣を組んだ。これで一気に結束は固まった。「ベンチに入れなかった3年生も気持ちは一つになったと思います。彼らの思いを胸に感謝の気持ちを持ってプレーしたい」(若生主将)

「夏の大会は出場している選手だけではなく、周りの方々の協力で試合ができているので、その方へ感謝の気持ちを忘れずに戦いたい」(西田)

 3年生たちの自覚は十分。あとは134人の思いを乗せて、選手たちはグラウンド上で全力で戦い抜き、2年連続夏の甲子園出場を狙う。

(取材・文=河嶋 宗一)