府立大塚高等学校(大阪)【後編】
前編では短いスペースの中、工夫している様子や、打撃強化の1つとして、ウエイトトレーニングの後に打撃練習を行う方法を紹介した。後編では大塚高校独自のトレーニング法をさらに迫り、チームのエースと主将に夏へ向けての意気込みを伺いました。
新たに加わった大塚独自のトレーニング法とは?技術練習の前に行われるのはウエイトトレーニングだけではない。鉄棒で自重を利用しながら行う「懸垂」も大塚では大切なトレーニングメニューだ。「懸垂がたくさんできるということは自分の体をきちんとコントロールできることの証だと思っています。うちのチームでは一日50回、下に降りる反動を使わないように注意しながら行い、その後にすぐさまバッティングやキャッチボールといった技術練習に移っていきます」と室谷 明夫監督。
15キロの砂袋を抱えての3段飛びトレーニングの様子(府立大塚高等学校)
トレーニングの直後にボールを投げることに関しては「肩ひじの故障につながるかも…」という懸念が当初はあったそうだが、実際に導入してみると故障者はむしろ減少。「チーム全体の遠投力の向上」という嬉しいプラス効果も生じた。既成概念にとらわれない発想に筆者が感服していると、室谷監督はさらに続けた。
「昨秋からは新たなトレーニング法を加えてみたんです。校舎の中庭に3段の石段があるんです。そこで15キロの砂袋を抱きかかえながら、下から一段ずつスクワットの姿勢からジャンプし、上がっていく。上に上がったらすぐさま1段目まで駆け足で下りてくる。これを10回繰り返すだけで相当の全身運動になりますし、心肺能力も向上する。継続して行うことで下半身も相当どっしりしてきた感がありますね」
大塚では補食にも力を入れている。練習後にはマネージャーが握った2個のおにぎりとプロテインを各自で速やかに補給するのが日々の慣例だ。「トレーニングだけでは身体は大きくなりません。補食のゴールデンタイムと言われている『トレーニング後30分以内にエネルギーを体に取り込む』べく、グラウンドですぐに補給できる環境を作っています」
前脇は開けたって構わない理想のトップの形を実演する室谷 明夫監督(府立大塚高等学校)
「一人ずつ筋肉のつき方も異なりますし、背も体形も異なるので、『こうしろ!』と押し付けることはできない。うるさく言うのはトップを作った際のバットの角度くらいです」打撃指導の際に心がけていることを室谷監督に訊ねた際に返ってきた答えだ。
「トップの際のバットの角度は投手側から見て地面に対し45度。その時にバットの先端が頭の中央よりも投手側に入らないようにすること。ここだけは選手全員に口酸っぱく伝えている部分です」
[page_break:エースと主将が語った2015年夏の抱負]室谷 明夫監督は「『投手側の前脇は絶対に開けてはいけない』と強く思い込んだ状態で入学してくる選手が思いのほか多いんです」と続けた。「投手側の脇を開けちゃいけないと思いすぎるあまり、後ろのヒジの通り道がなくなり、窮屈なダウンスイングになってしまっている新入生が多いんです。それでは力強い打球を打つことはなかなかできない。そんな子たちには『前脇を開けた状態でスイングを開始したらいいんだよ』と伝えるようにしています。脇を開けていいと言うだけで、後ろヒジの通り道が生まれ、懐の深い、投球を線で捉えることが可能なレベルスイングが身についていくものです」
大塚の高い打撃力の根拠をまたひとつ発見できた気がした。
エースと主将が語った2015年夏の抱負最速143キロを誇る村林 一輝投手(府立大塚高等学校)
「うちのディフェンス面の軸はエースの村林です」室谷監督は今夏のキーマンとして、最速143キロを誇る右腕、村林 一輝投手の名を挙げた。
今春は府予選の2回戦で大阪の公立の雄、大冠に勝利した大塚。それは村林が投手として覚醒した試合でもあった。「あんなキレキレの村林、見たことなかったです。緊迫した試合を楽しんでましたね。プロも注目する大冠の吉田 大喜くんに投げ勝ったことは大きな自信になったと思います」
室谷監督のはからいで練習中の村林投手に話をうかがうことができた。「昨年の夏、連戦の中で自分の投球を展開するだけのスタミナがないことを痛感したので、新チーム結成以来、投げる体力をつけることをテーマに頑張ってきました。一冬超えて、体重は7キロ増え、130キロ台中盤だったストレートも143キロまで出るようになった。スタミナもかなりついた感覚があります」
――持ち球を教えてください。
「ストレート、カーブ、スライダー、縦スライダー、シンカー、フォークです。一番自信があるのはストレート。コントロールにも自信があります」
――夏に向けての意気込みをお願いします。
「春の準々決勝で履正社と対戦できたことで、大阪のトップクラスのレベルを体感できたことは大きかったです。結果はコールド負けでしたが、点差程の差は感じなかったし、歯が立たないことはない、という感覚も選手たちの中に芽生えました。要所での守備のミスを防ぎ、いい投手と当たった時に好機でタイムリーが打てるようになれば、ベスト8の壁を突破できるのではないかと思います。うちのチームの良さである、明るさ、元気の良さを前面に押し出し、最後の夏に臨みたいです」
堺原 仁輝主将は言う。「相手がどこであろうが、負ける気はさらさらないです。目の前の試合をひとつひとつ、うちらしく戦っていけば、創部初のベスト4、そして優勝が見えてくると思っています」
大阪制覇を狙える位置まで駆け上がってきた大塚の、元気一杯の戦いっぷりが今から楽しみでならない。
(取材・文=服部 健太郎)