TBS深夜が攻めている「世界のどっかにホウチ民」「クレイジージャーニー」演出家が語る衝撃の「裏」1
かつてTBSテレビといえば「報道のTBS」「ドラマのTBS」なんていわれていたものだが、最近ではバラエティ番組もスゴイ!
何かと話題を呼んでいる『水曜日のダウンタウン』をはじめ、「ゴールデンタイムにこんな人を!?」という攻撃的なキャスティングの『マツコの知らない世界』や『櫻井有吉アブナイ夜会』などなどネットで話題になることも多い。さらに今年4月の改変では、長らく『水戸黄門』や『大岡越前』などのドラマが放送されていた月曜20時台が59年ぶりにバラエティ枠に変わったことでも話題となった。
そんな、イキオイに乗っているTBSテレビのバラエティ番組の中でも、今、最も注目されているといえるのが深夜の「テッペン!」枠。
タレントたちが、いきなり知らない国に連れて行って放置されたらどうなってしまうのか!? を観察する『ナイナイの海外定住実験バラエティー 世界のどっかにホウチ民』(水曜23:53〜)や、あるジャンルにのめり込み過ぎて少々クレイジーになってしまった旅人たちと世界を巡り、銃密造の現場や、注射器がゴロゴロしている現場など、ヤバ過ぎる場所に潜入してしまう『クレイジージャーニー』(木曜23:53〜)など、とがりすぎていて見ているこっちが「大丈夫か!?」と心配になってしまう攻めすぎな番組たちが話題だ。
果たしてTBSテレビのバラエティはどこへ向かっているのか? こんな番組をどうやって成立させているのか!? 『ホウチ民』の演出・井上整、『クレイジージャーニー』の演出・横井雄一郎の両氏に、各番組の裏話を訊いた!
──TBSのバラエティ番組が調子いいということで、深夜の「テッペン!」枠で話題となっている『世界のどっかにホウチ民』『クレイジージャーニー』を演出をされているおふたりに集まってもらいました。同時期に「海外」がテーマとなっている番組がスタートしたわけですが、なぜ「海外」だったんでしょうか?
横井 『クレイジージャーニー』演出の横井です。海外は僕自身が好きっていうのがもともとあって、学生時代にはバックパッカーをやっていたり、社会人になってからも海外旅行に定期的に行っていたんですね。それで、上司と企画の話をしている時に「お前の好きな物を形にしてみろ」ということになり、海外の、いつもだったら見られないスラム街の裏通りを見てみたいなとか、そういう気持ちを企画に詰め込んだらこういう番組になったんですよね。
井上 『ホウチ民』の井上です。こっちも横井くんと似ているんですけど、もともとバックパッカーとかをやっていて、『地球の歩き方』のメインじゃないコラム欄みたいなものが好きだったので、ナインティナインさんで深夜に新しい番組を作るにあたり、そういうものを見せられる番組がやれないかな……と思ったんですよね。それで、海外を旅したり観光したりするんじゃなくて、「放置する」という形がいいかなと。そんな感じで去年の秋口くらいから海外を軸に企画を考えていたんですけど、お正月の特番で『クレイジージャーニー』をやられちゃって、4月からたまたま同時にレギュラーで番組がはじまることになって……正直「かぶった!」って思いましたね(笑)。
横井 お互いに、「あっちより後にはじまるのはイヤだな」とかいう話になっていましたけどね。結果的に僕の方が(放送曜日は)後だったんですけど。
──でも特番は『クレイジージャーニー』の方が先ですよね。
井上 そうですよ! 先にやられちゃって、こっちはこっちで「海外ネタはやめた方がいいんじゃないか……」なんてブレそうになったりもしましたから(笑)。とにかく、海外のプロジェクトを組もうということで2番組を立ち上げたわけではなくて、出来上がってみたらどっちも海外だったという感じですね。逆にそこでチャンスをもらえてよかったと思いますけど。
──同じ海外をテーマにしていますが、片や海外のプロフェッショナルにスポットを当てて、片や右も左も分からない人たちを海外に連れて行くという対照的なスタイルですが、同行するスタッフさんは海外に詳しい人たちを選んでいるんですか?
横井 『クレイジージャーニー』は、海外ロケの経験があるくらいで、とりたてて海外に強いということはないです。
──ゲストさんの方が海外に詳しいから、連れて行ってもらうという感じなんでしょうか?
横井 そうですね。邪魔にならないようについていくという考え方です。
井上 『ホウチ民』の方も、同行するスタッフはカメラマン兼ディレクターでひとりなんですけど、ほとんど海外経験がない人ばっかりですね。海外ロケ経験があるくらいで、特にその国に詳しいとかはないです。
──滞在する国の言葉がしゃべれるわけでもなく?
井上 はい、英語すらしゃべれなかったりします。
──ええーっ!? タレントさん含め、本当に右も左も分からない2人が海外で生活しているという状態じゃないですか。
井上 「知らない国に放置される」という企画の性質上、何が起きるか分からないというところが一番売り出したかったところなんで、スタッフも含めて何が起こるか分からない状況にしたかったんですよね。おかげで現地からハプニングが次々報告されて来てます。想定外のことばっかりですよ、ホントに!
──最近のテレビはコンプライアンスに厳しくて、リスクがある企画は通りづらいというイメージがありますけど、どうやってこの「何が起こるか分からない」企画を通したんですか?
井上 まあ『ホウチ民』に関しては、放置するとはいっても、テロが起きるとか、紛争地域だとか、そういう危険なエリアは避けるということさえ守っていてば、やっていることは危なっかしいかもしれないですけど、命に別状はないだろう……っていうのは確信として持っていますね。その点、やっぱり危ないのは『クレイジージャーニー』の方じゃないかと。
横井 まあそうですね(笑)。とはいえ、別に危ないところに行きたくてやっているわけではないんですけどね。たまたまそういうところになっちゃったというだけで。実は企画を通す段階では、そんなに危険なところに行くということは考えていなかったんですよ。その後、ロケに行った先で「こんなことがあった」とか「こんなのが撮れちゃった」みたいな。結果的に危険な映像が撮れちゃったという。それを、そのまま放送していいかどうかという部分では、色々と理解をしてもらっていますね。
──「危ない映像が撮れちゃったから出すのはやめよう」ではなく。
横井 この場所では現実として、こういうことが起こっているんだと。「それを切り取ってきたから放送したい」ということに関しては寛大な判断をしてもらっていますね。たとえばルーマニアの「マンホールタウン」に潜入してみたら、中でガンガン注射打ってた……みたいなのは、行ってみてはじめて分かったんで。「でもこれが現実だから」という話をしたら結構オッケーになったり。とりあえず、あえて危険なところに行こうと思っているわけでもなくて、行ってから驚くことが多いですね。
──その国に行くに当たって、どの程度リサーチをしていくものなんでしょうか?
井上 そうですね。行ける国の数も深夜番組の予算ということで限られていたので、その中で国の種類に色はつけたいと思っていたんですね。事前に岡村さんと相談して国を決めたんですが、世界の大都会・ニューヨーク。世界一標高が高いところということで、南米・ボリビア。動物がいるところでアフリカのザンビアとか……。それぞれの国で、ある程度リサーチはしたんですが、そこで実際に暮らしたらどうなるのかっていうのは、やったことがある人があまりないのでリサーチできなったんですよ。
──不動産が簡単に借りられるかどうか、とかも調べていないんですか?
井上 暮らしていくに当たって家を探すにしても、なんとなくニューヨークくらいなら方法が分かるじゃないですか。住んでいる日本人も多いですし。でも、ボリビアとザンビアに関しては「不動産があまりない」という情報が入ってきたくらいなんで、「じゃあどうやって住むところを探すんだろうね?」とかいいながらはじまったんですよ。
──どうやって住むところを探したらいいか分からないけど行かせてみようと!?
井上 そうですねー。
横井 (笑)
──『クレイジージャーニー』の場合は、ゲストさんが持っている情報でリサーチするという感じですか?
横井 基本的に「ゲストさんの行きたいところに同行させてもらう」というスタイルでやっているので、ゲストさんたちも行ったことがないから、厳密には現地がどうなっているのか分からないんですよ。だから、ある程度はネットで調べたり、ゲストさんの持っているコネクションで情報を入手してから行くという感じですね。ただ、そういうところって結局ネットでもあまり情報が出てこないんで……。
──それでも、ゲストさんはその手の危険なエリアに慣れているからいいですけど、スタッフさんは大変ですよね。言葉も分からない、何が起こるか分からないで。
横井 その辺は、ゲストさんにスタッフの面倒もある程度見てもらっている部分もあって、「ここから先はやめましょう」みたいな判断をした場合には従っていますね。
──コーディネーター兼出演者みたいな感じなんですね。
──各国に行くに当たってスタッフさんや出演者さんに指示していることはあるんですか?
井上 『ホウチ民』は放置された人たちが、その国でどうやって生活していくのかっていう実験をしている番組なんで、僕らがリサーチして「この国にはこういうものがあるよ」って提案しても、そこに行くかどうかっていうのは、彼らの生活の中での流れ次第なんですよね。たとえば、ボリビアにはウユニ塩湖っていう有名なキレイな湖があったりして、この時期に行ったらいい画が撮れるんだろうな……とは思うんですけど、まだ家を探していたり、仕事を探していたりで、結局行けずじまいで過ぎていますから。最低限のルールとして指示しているのは、本人とスタッフは基本的にしゃべらないっていうことですね。
──あ、そうなんですか?
井上 タレントさんを本当に放置して、起きたことを遠巻きに撮影して、撮れた素材をひたすら電送で送ってもらって、こっちで編集するというやり方ですね。
──気になっているのが、スタッフさんも当然泊まるところ、食べる物って必要じゃないですか。タレントさんは撮影の中で家を探したり、食事をしたりできますけど、スタッフさんはどうしているんですか?
井上 スタッフはタレントさんの行く5日前くらいに現地に入って、コーディネーターさんに手取り足取り教えてもらいながら住むところなんかも探しておくんですよ。たとえば、ニューヨークに放置されているゆりやんレトリィバァさんは、今シェアハウスで生活していますけど、実はスタッフも別のシェアハウスに住んでいるんですよね。そこで、一晩中編集をしていたりするもんで「いつまで電気つけてるんだ」ってルームメイトに怒られたりしているみたいですけど。放送じゃ使われない部分で、スタッフも大変ですよ。
──一方、『クレイジージャーニー』ではゲストさんとスタッフさんが、かなり密接に行動していますけど。決めているルールなどはあるんですか?
横井 何が起こるか本当に分からないドキュメント的な部分も多いので、場所によっては通訳をお願いしたり、裏のボスに話を通しておいて安全に廻らせてもらう、みたいなことはやっています。それでも現地でもめたり、ピリッとする場面ってあるじゃないですか。そういうところを一応、全部記録しておいて欲しいんですよ。カメラは向けられなくても、音声だけでも録っておいてくれと。それだけは指示していますね。最悪、行こうと思っていたところに行けない可能性もあるんで、それでも番組は作らなきゃならないから、音声だけでも録れていればリアルなピリピリ感っていうのが伝えられるじゃないですか。
──指示する方はいいですけど、現地のスタッフはキツイですよ! 殺されるとしたら、まずカメラを持ってる人でしょう。
横井 そうなんですよね……。「さすがにコレは無理だ」って場合は現地の判断に任せますけど、「無理だ」っていう臨場感はがんばって記録しておいて欲しいと。映像は撮れなくても、カメラの電源だけは切るなと!
──2つの番組に共通している点として、完全なドキュメンタリーにするのではなく、常にワイプでスタジオの映像を入れているという点があると思いますが、あれはどういう効果を狙ってのものなんでしょうか?
井上 『ホウチ民』に関しては、人が急に見知らぬ国で3ヵ月間暮らせっていわれたらどうなるんだろう……という「実験観察バラエティ」なので、それを観察する人間というのが欲しかったんですね。そこでナインティナインさんが常に見ていて、「ああ、1ヵ月経ったらスペイン語がこんなにしゃべれるようになるんだ」って驚いたり、ぼったくられたり、ハプニングが起きたら「こういうことって起きるよね〜」と。あくまで観察しているという視点が欲しかったので、ワイプを常に入れるということは意識していますね。
横井 僕は松本人志さんがずっと好きだったんですけど、松本さんって好奇心が旺盛なんだけど、飛行機が嫌いで海外にあまり行かないということを聞いていて、そんな松本さんに、僕が好きな海外の路地裏とか、そういうものを見せてビックリさせたいというのがあったんですよね。「そういうものを見せれば絶対独特な解釈をするな」っていうのがあったんで。そのリアクションを見るためにワイプを入れています。
──ある意味、松本さんの面白いトークを引き出すための素材をどんどん提供しているみたいな。
横井 この現実を見たら松本さん、何ていうだろう? どこでビックリするかな……というのを楽しんでいますね。
──他の番組ではなかなか見られない映像ばっかりですからね。
横井 あとは、キツイ映像であっても、ワイプでスタジオの画が入っていれば最低限「バラエティ番組」という枠には収まるじゃないですか。そのおかげで見やすくなってるんじゃないかなっていう。それに、どっちの番組もワイプがなかったら、ただの知らない人がテレビにずっと出ているっていう状況になっちゃうんで(笑)。最低限のルールとして指示しているのは、本人とスタッフは基本的にしゃべらないっていうことですね。
井上 現場で起きているハプニングって、結構「ボケ」みたいな部分があるんで、その時に的確に突っ込んでくれる人がいるというのは重要ですよね。
横井 「ここは笑ってもいいことろだよ」っていうガイドになりますからね。
(北村ヂン)
後編につづく
何かと話題を呼んでいる『水曜日のダウンタウン』をはじめ、「ゴールデンタイムにこんな人を!?」という攻撃的なキャスティングの『マツコの知らない世界』や『櫻井有吉アブナイ夜会』などなどネットで話題になることも多い。さらに今年4月の改変では、長らく『水戸黄門』や『大岡越前』などのドラマが放送されていた月曜20時台が59年ぶりにバラエティ枠に変わったことでも話題となった。
タレントたちが、いきなり知らない国に連れて行って放置されたらどうなってしまうのか!? を観察する『ナイナイの海外定住実験バラエティー 世界のどっかにホウチ民』(水曜23:53〜)や、あるジャンルにのめり込み過ぎて少々クレイジーになってしまった旅人たちと世界を巡り、銃密造の現場や、注射器がゴロゴロしている現場など、ヤバ過ぎる場所に潜入してしまう『クレイジージャーニー』(木曜23:53〜)など、とがりすぎていて見ているこっちが「大丈夫か!?」と心配になってしまう攻めすぎな番組たちが話題だ。
果たしてTBSテレビのバラエティはどこへ向かっているのか? こんな番組をどうやって成立させているのか!? 『ホウチ民』の演出・井上整、『クレイジージャーニー』の演出・横井雄一郎の両氏に、各番組の裏話を訊いた!
出来上がってみたらどっちも海外だった
──TBSのバラエティ番組が調子いいということで、深夜の「テッペン!」枠で話題となっている『世界のどっかにホウチ民』『クレイジージャーニー』を演出をされているおふたりに集まってもらいました。同時期に「海外」がテーマとなっている番組がスタートしたわけですが、なぜ「海外」だったんでしょうか?
横井 『クレイジージャーニー』演出の横井です。海外は僕自身が好きっていうのがもともとあって、学生時代にはバックパッカーをやっていたり、社会人になってからも海外旅行に定期的に行っていたんですね。それで、上司と企画の話をしている時に「お前の好きな物を形にしてみろ」ということになり、海外の、いつもだったら見られないスラム街の裏通りを見てみたいなとか、そういう気持ちを企画に詰め込んだらこういう番組になったんですよね。
井上 『ホウチ民』の井上です。こっちも横井くんと似ているんですけど、もともとバックパッカーとかをやっていて、『地球の歩き方』のメインじゃないコラム欄みたいなものが好きだったので、ナインティナインさんで深夜に新しい番組を作るにあたり、そういうものを見せられる番組がやれないかな……と思ったんですよね。それで、海外を旅したり観光したりするんじゃなくて、「放置する」という形がいいかなと。そんな感じで去年の秋口くらいから海外を軸に企画を考えていたんですけど、お正月の特番で『クレイジージャーニー』をやられちゃって、4月からたまたま同時にレギュラーで番組がはじまることになって……正直「かぶった!」って思いましたね(笑)。
横井 お互いに、「あっちより後にはじまるのはイヤだな」とかいう話になっていましたけどね。結果的に僕の方が(放送曜日は)後だったんですけど。
──でも特番は『クレイジージャーニー』の方が先ですよね。
井上 そうですよ! 先にやられちゃって、こっちはこっちで「海外ネタはやめた方がいいんじゃないか……」なんてブレそうになったりもしましたから(笑)。とにかく、海外のプロジェクトを組もうということで2番組を立ち上げたわけではなくて、出来上がってみたらどっちも海外だったという感じですね。逆にそこでチャンスをもらえてよかったと思いますけど。
「これが現実だから」結構オッケー
──同じ海外をテーマにしていますが、片や海外のプロフェッショナルにスポットを当てて、片や右も左も分からない人たちを海外に連れて行くという対照的なスタイルですが、同行するスタッフさんは海外に詳しい人たちを選んでいるんですか?
横井 『クレイジージャーニー』は、海外ロケの経験があるくらいで、とりたてて海外に強いということはないです。
──ゲストさんの方が海外に詳しいから、連れて行ってもらうという感じなんでしょうか?
横井 そうですね。邪魔にならないようについていくという考え方です。
井上 『ホウチ民』の方も、同行するスタッフはカメラマン兼ディレクターでひとりなんですけど、ほとんど海外経験がない人ばっかりですね。海外ロケ経験があるくらいで、特にその国に詳しいとかはないです。
──滞在する国の言葉がしゃべれるわけでもなく?
井上 はい、英語すらしゃべれなかったりします。
──ええーっ!? タレントさん含め、本当に右も左も分からない2人が海外で生活しているという状態じゃないですか。
井上 「知らない国に放置される」という企画の性質上、何が起きるか分からないというところが一番売り出したかったところなんで、スタッフも含めて何が起こるか分からない状況にしたかったんですよね。おかげで現地からハプニングが次々報告されて来てます。想定外のことばっかりですよ、ホントに!
──最近のテレビはコンプライアンスに厳しくて、リスクがある企画は通りづらいというイメージがありますけど、どうやってこの「何が起こるか分からない」企画を通したんですか?
井上 まあ『ホウチ民』に関しては、放置するとはいっても、テロが起きるとか、紛争地域だとか、そういう危険なエリアは避けるということさえ守っていてば、やっていることは危なっかしいかもしれないですけど、命に別状はないだろう……っていうのは確信として持っていますね。その点、やっぱり危ないのは『クレイジージャーニー』の方じゃないかと。
横井 まあそうですね(笑)。とはいえ、別に危ないところに行きたくてやっているわけではないんですけどね。たまたまそういうところになっちゃったというだけで。実は企画を通す段階では、そんなに危険なところに行くということは考えていなかったんですよ。その後、ロケに行った先で「こんなことがあった」とか「こんなのが撮れちゃった」みたいな。結果的に危険な映像が撮れちゃったという。それを、そのまま放送していいかどうかという部分では、色々と理解をしてもらっていますね。
──「危ない映像が撮れちゃったから出すのはやめよう」ではなく。
横井 この場所では現実として、こういうことが起こっているんだと。「それを切り取ってきたから放送したい」ということに関しては寛大な判断をしてもらっていますね。たとえばルーマニアの「マンホールタウン」に潜入してみたら、中でガンガン注射打ってた……みたいなのは、行ってみてはじめて分かったんで。「でもこれが現実だから」という話をしたら結構オッケーになったり。とりあえず、あえて危険なところに行こうと思っているわけでもなくて、行ってから驚くことが多いですね。
──その国に行くに当たって、どの程度リサーチをしていくものなんでしょうか?
井上 そうですね。行ける国の数も深夜番組の予算ということで限られていたので、その中で国の種類に色はつけたいと思っていたんですね。事前に岡村さんと相談して国を決めたんですが、世界の大都会・ニューヨーク。世界一標高が高いところということで、南米・ボリビア。動物がいるところでアフリカのザンビアとか……。それぞれの国で、ある程度リサーチはしたんですが、そこで実際に暮らしたらどうなるのかっていうのは、やったことがある人があまりないのでリサーチできなったんですよ。
──不動産が簡単に借りられるかどうか、とかも調べていないんですか?
井上 暮らしていくに当たって家を探すにしても、なんとなくニューヨークくらいなら方法が分かるじゃないですか。住んでいる日本人も多いですし。でも、ボリビアとザンビアに関しては「不動産があまりない」という情報が入ってきたくらいなんで、「じゃあどうやって住むところを探すんだろうね?」とかいいながらはじまったんですよ。
──どうやって住むところを探したらいいか分からないけど行かせてみようと!?
井上 そうですねー。
横井 (笑)
──『クレイジージャーニー』の場合は、ゲストさんが持っている情報でリサーチするという感じですか?
横井 基本的に「ゲストさんの行きたいところに同行させてもらう」というスタイルでやっているので、ゲストさんたちも行ったことがないから、厳密には現地がどうなっているのか分からないんですよ。だから、ある程度はネットで調べたり、ゲストさんの持っているコネクションで情報を入手してから行くという感じですね。ただ、そういうところって結局ネットでもあまり情報が出てこないんで……。
──それでも、ゲストさんはその手の危険なエリアに慣れているからいいですけど、スタッフさんは大変ですよね。言葉も分からない、何が起こるか分からないで。
横井 その辺は、ゲストさんにスタッフの面倒もある程度見てもらっている部分もあって、「ここから先はやめましょう」みたいな判断をした場合には従っていますね。
──コーディネーター兼出演者みたいな感じなんですね。
映像は撮れなくても、電源だけは切るな!
──各国に行くに当たってスタッフさんや出演者さんに指示していることはあるんですか?
井上 『ホウチ民』は放置された人たちが、その国でどうやって生活していくのかっていう実験をしている番組なんで、僕らがリサーチして「この国にはこういうものがあるよ」って提案しても、そこに行くかどうかっていうのは、彼らの生活の中での流れ次第なんですよね。たとえば、ボリビアにはウユニ塩湖っていう有名なキレイな湖があったりして、この時期に行ったらいい画が撮れるんだろうな……とは思うんですけど、まだ家を探していたり、仕事を探していたりで、結局行けずじまいで過ぎていますから。最低限のルールとして指示しているのは、本人とスタッフは基本的にしゃべらないっていうことですね。
──あ、そうなんですか?
井上 タレントさんを本当に放置して、起きたことを遠巻きに撮影して、撮れた素材をひたすら電送で送ってもらって、こっちで編集するというやり方ですね。
──気になっているのが、スタッフさんも当然泊まるところ、食べる物って必要じゃないですか。タレントさんは撮影の中で家を探したり、食事をしたりできますけど、スタッフさんはどうしているんですか?
井上 スタッフはタレントさんの行く5日前くらいに現地に入って、コーディネーターさんに手取り足取り教えてもらいながら住むところなんかも探しておくんですよ。たとえば、ニューヨークに放置されているゆりやんレトリィバァさんは、今シェアハウスで生活していますけど、実はスタッフも別のシェアハウスに住んでいるんですよね。そこで、一晩中編集をしていたりするもんで「いつまで電気つけてるんだ」ってルームメイトに怒られたりしているみたいですけど。放送じゃ使われない部分で、スタッフも大変ですよ。
──一方、『クレイジージャーニー』ではゲストさんとスタッフさんが、かなり密接に行動していますけど。決めているルールなどはあるんですか?
横井 何が起こるか本当に分からないドキュメント的な部分も多いので、場所によっては通訳をお願いしたり、裏のボスに話を通しておいて安全に廻らせてもらう、みたいなことはやっています。それでも現地でもめたり、ピリッとする場面ってあるじゃないですか。そういうところを一応、全部記録しておいて欲しいんですよ。カメラは向けられなくても、音声だけでも録っておいてくれと。それだけは指示していますね。最悪、行こうと思っていたところに行けない可能性もあるんで、それでも番組は作らなきゃならないから、音声だけでも録れていればリアルなピリピリ感っていうのが伝えられるじゃないですか。
──指示する方はいいですけど、現地のスタッフはキツイですよ! 殺されるとしたら、まずカメラを持ってる人でしょう。
横井 そうなんですよね……。「さすがにコレは無理だ」って場合は現地の判断に任せますけど、「無理だ」っていう臨場感はがんばって記録しておいて欲しいと。映像は撮れなくても、カメラの電源だけは切るなと!
ワイプがなかったら、知らない人がテレビに出ているだけ
──2つの番組に共通している点として、完全なドキュメンタリーにするのではなく、常にワイプでスタジオの映像を入れているという点があると思いますが、あれはどういう効果を狙ってのものなんでしょうか?
井上 『ホウチ民』に関しては、人が急に見知らぬ国で3ヵ月間暮らせっていわれたらどうなるんだろう……という「実験観察バラエティ」なので、それを観察する人間というのが欲しかったんですね。そこでナインティナインさんが常に見ていて、「ああ、1ヵ月経ったらスペイン語がこんなにしゃべれるようになるんだ」って驚いたり、ぼったくられたり、ハプニングが起きたら「こういうことって起きるよね〜」と。あくまで観察しているという視点が欲しかったので、ワイプを常に入れるということは意識していますね。
横井 僕は松本人志さんがずっと好きだったんですけど、松本さんって好奇心が旺盛なんだけど、飛行機が嫌いで海外にあまり行かないということを聞いていて、そんな松本さんに、僕が好きな海外の路地裏とか、そういうものを見せてビックリさせたいというのがあったんですよね。「そういうものを見せれば絶対独特な解釈をするな」っていうのがあったんで。そのリアクションを見るためにワイプを入れています。
──ある意味、松本さんの面白いトークを引き出すための素材をどんどん提供しているみたいな。
横井 この現実を見たら松本さん、何ていうだろう? どこでビックリするかな……というのを楽しんでいますね。
──他の番組ではなかなか見られない映像ばっかりですからね。
横井 あとは、キツイ映像であっても、ワイプでスタジオの画が入っていれば最低限「バラエティ番組」という枠には収まるじゃないですか。そのおかげで見やすくなってるんじゃないかなっていう。それに、どっちの番組もワイプがなかったら、ただの知らない人がテレビにずっと出ているっていう状況になっちゃうんで(笑)。最低限のルールとして指示しているのは、本人とスタッフは基本的にしゃべらないっていうことですね。
井上 現場で起きているハプニングって、結構「ボケ」みたいな部分があるんで、その時に的確に突っ込んでくれる人がいるというのは重要ですよね。
横井 「ここは笑ってもいいことろだよ」っていうガイドになりますからね。
(北村ヂン)
後編につづく