Web2.0現象加速 業界再編成が起こる!<br />-野村総合研究所 山崎秀夫氏 インタビューVol.1-
2006年は「Web2.0」という言葉がほんとうによく使われた年でもあった。「Web2.0」が加速化する2007年に起こる現象とは一体どんなものなのか。ネット業界に詳しい野村総合研究所の山崎秀夫さんに、J-CASTニュースが聞いた。
――06年は「Web2.0」という言葉がなんだかすごい勢いで使われた年でした。「Web2.0」 がもたらす最大の衝撃。これは何でしょう。
山崎 一番大きいのは、パラダイムシフト(時代の大きな枠組みの変化)ですね。私が注目しているのは、あんまり誰も言わないのですが、経済から考えるとどうなるのかということです。1つ目のポイントは、大量のボランティアが参加して、いろいろ情報発信し、社交をするということ。そして、2つ目は、マスメディアからインターネットへの広告費のシフト。この2点に支えられた無料経済、ある意味で福祉の経済、「電網共産主義」と私は呼んでいますけど、Web2.0で起こっているのは、こういうことなのかなと。ここで、問題はスピードがどれほどいくのかな、という点です。とりわけ、広告費のシフトがどこまでいくのか、これがかなり大きな問題になると思います。
――現在、インターネットの広告費は、雑誌並ですよね。広告費のシフトはやはりインパクト(影響)がかなりあることでしょうか。
山崎 そこはやはり、大きいですよね。もし日本のマスコミで、(インターネット広告が)全体の広告費の3割を占めることになれば、明らかに業界再編成が起こるだろう、と思います。極端に言えば、石炭から石油への移行を例に取ると、今は石炭産業はほとんど生き残っていません。企業の世代交代がこのように完璧なかたちで行われるのか。そうじゃなくて、恐竜が哺乳類に代わったみたいに生き残っていくのか。どっちになるかはまだ分かりませんが、業界再編成は起こるでしょう。
著作権の代わりに、広告料で稼ぐという革命が起きる
――どういった業界がこの影響を受けると思いますか。
山崎 マスメディアとかですね。それに、広告関係の業界、もっといえば情報系のサービス・商品を提供している業界。例えば、携帯電話とかですね。音楽業界、映画、ビジネスソフト、書籍を提供している業界。情報系のサービスを提供している業界がインパクトを受けるのではないでしょうか。
――マスメディアは広告がなければやっていけないのはあきらかですが、情報系のサービスを提供している業界の場合どのように影響がでてくるのでしょう。
山崎 YouTubeがGoogleに買収された、その前後に起こったことが代表的な例だと考えています。これまで著作権(ライセンス)で稼ぐといわれてきたレコード会社が、一部著作権を明らかに放棄してます。YouTubeと組むと、いったん購入したライセンスをつかって、自由に消費者が情報発信ができる(マッシュアップ・リミックス)。そのかわりレコード会社は、著作権を一部放棄する代わりに、広告費の一部をYouTubeとシェアするというようになる。
例えば、バブル前の銀行は金利で稼いでいたが、バブルが終わった銀行は金利で稼げない。今は、手数料で稼ぐんですね。それと一緒で、レコード会社が著作権の代わりに、広告料で稼ぐというのは十分ありうることです。米国の電話関係の業界でもそういった議論がされていて、サービスフィーで稼ぐのではなく、広告費で稼ぐという風になってきている。ソフトバンクの孫さんはそこを狙っているのではないかと思っていますが、そういう意味でのビジネスモデルの転換がありそうです。
――動画配信は最近すごいですよね。著作権侵害の問題は深刻で、現在、日本のテレビ界では「とにかく削除しろ」といった雰囲気です。著作権に非常に厳しい団体もあるし、一方で、テレビでは、著作権を放棄するのに構造的にいろいろ難しい問題もあります。それでも著作権を放棄して、広告費で稼ぐ、という動きは進むとお考えでしょうか。
山崎 環境が変わりますから、進むと思います。ポイントになるのは地上波のデジタル化、つまりアナログ放送を全部やめるということです。そうなりますと、放送が終わったら一週間ぐらい番組は自動的にビデオオンデマンドになるだろうと思います。結局、それに対する準備をどうするかということになります。米国でのデジタル化は09年2月で、日本は11年ですから、おそらくこの転換の行方は2008年の北京オリンピックの頃にはっきりするだろうと思います。
【山崎秀夫(やまざきひでお)プロフィール】
野村総合研究所社会ITマネジメントコンサルテイング部上席研究員。1986年野村総合研究所入社。ナレッジマネジメント、ネットコミュニティ論、ソーシャルネットワーキング研究などが専門。著書に「ソーシャル・ネットワーク・マーケティング 21世紀型―『コミュニティ・マーケティング』と『顧客クラブ』」(ソフトバンク出版)「SNSマーケティング入門 上客を育てる23の方法」(インプレスR&D)など