最終ホールでバーディを決め、トップと1打差でフィニッシュした宮里。たった一つのミスが明暗を分けた (Photo JJ.Tanabe)

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 全米女子プロ選手権の最終日を首位タイで迎え、今季3度目の最終組でプレーする宮里藍が優勝できるかどうか。そのカギを握るのは、風だと思っていた。ブルロックは距離的にタフなコース。ロングヒッターが有利だ。だが、風が吹けば、飛ばすほど風による曲がりは大きくなる。そうなれば、優勝候補の筆頭ミシェル・ウィーは、風に泣き、ラフに泣くことになる。逆に、フェアウエイとグリーンに着実に捉える宮里は、飛ばないがゆえに風の影響を最小限に抑え、有利になる――そんな予想をしていた。

 スタート前。そのウィーは極度に緊張していた。母親ボーに背中をさすってもらい、「大丈夫、大丈夫」と励まされて1番ティに立った姿は、男子プロの大会や男子の全米オープン地区予選に挑戦し、堂々とプレーしていたウィーではなく、16歳の女の子だった。出だしからボギー。風云々というより、ウィーのつまづきは「メジャー優勝」「初優勝」がもたらした緊張が原因だった。

 一方、宮里も「初優勝」のプレッシャーを感じていたはずだが、3度目の最終組だったせいか、リラックスした表情でスタートしていった。3番で早々にバーディを獲得。優勝は十分ありえると思わせるプレーぶりだった。しかし、彼女のショットは乱れ始めた。6番ではティショットがラフへ。7番パー3ではグリーン左の土手下にティショットを外し、深いラフからの脱出に失敗してダブルボギー。11番でもティショットを左ラフに入れ、右のフェアウエイバンカー、右のガードバンカーとトラブル続きでボギー。その後、13番、16番、18番とバーディを奪い返して盛り返し、最後の最後で3位タイに食い込んだが、6番から11番までに見られたショットの乱れは何が原因だったのか。風のせいか。それとも?「自分のミスです。スイングがしっくりしなかったミスです」

 宮里はショットが乱れ、順位を落としながらも、最後には盛り返して3位タイに食い込んだ今日のラウンドに満足している様子だった。「自分を見失わずにプレーできた。すごく大きな成長。今後につながる」と、すがすがしい表情で語った。確かに、過去2回の最終組でのラウンドは、悔し涙に暮れるほどの展開だったり、13位タイに終わる結果だったりで、不満の残るものだった。しかし、「前々回より前回、前回より今回」と彼女が言う通り、少しずつステップアップしている。しかし、「自分のミス」が呼んだショットの乱れは、宮里自身に自覚があるかないかはさておき、やっぱり「メジャーの最終日最終組」「初優勝」「メジャー優勝」を心のどこかで意識した緊張が原因だろう。

 優勝した朴セリは、スランプからの復活を目指していた。プレーオフで負けたカーリー・ウエブはクラフト・ナビスコ選手権に続くメジャー2連勝を目指していた。この大会で絶対に勝つぞという執念を2人ともギラギラと燃やしていた。宮里が勝つためには、彼女たちの執念を上回る勝利への渇望が必要だった。しかし、宮里が目指していたものは「絶対に勝つぞ」ではなく、「自分のゴルフに集中すること」。ルーキーで20歳の宮里が米ツアー12戦目で目指すものは、それで十分なのかもしれないし、実際、「集中できた」という手ごたえをつかんだことで喜びの表情を見せた。

 結局、勝利のカギを握ったものは、風ではなく、飛距離でもなく、勝ちたいという気持ちの強さだった。宮里よりウエブより、朴の勝利への渇望が強かったのである。

 最終日最終組で回りながら、またしても勝てなかったという声が聞こえてきそうだけれど、宮里は宮里なりに着々と前進している。それはそれで、拍手を送るべきことだ。彼女の初優勝は、やがて必ず訪れる。「父からも焦るなと言われた」。ファンもメディアも、焦らずに藍ちゃんを見守ろうではないか。

[写真]宮里藍、ミシェル・ウィー −全米女子プロ選手権