小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」第124号(2013年01月04日配信号)より抜粋※

(c)Ichiro Ozawa



 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
 
 日本でサッカージャーナリストの仕事をしていると、年末年始の「お正月気分」に浸れるはずもなく、30日に開幕した第91回全国高校サッカー選手権大会の取材に追われている。加えて、今年(年末年始)は弊社アレナトーレが『サッカークリニック』の連載や指導書でお馴染みのアスレチック・ビルバオの育成コーチ、ランデル・エルナンデス氏を招いて指導者講習会やクリニックを主催しているため、その手伝いとしての通訳業務も数回担当中。
 
 今回の選手権については、開幕前から神奈川県代表の桐光学園推しで、取材会場もニッパツ三ツ沢球技場に絞っていた。理由は2つ、ざっくりピッチ内外で1つずつかあるのだが、間違っても「優勝候補だから」、「プリンス関東1部を制して、来季プレミア昇格を決めているから」といったチームとしての評判や目先の結果によるものではない。
 
 今季はプリンスリーグ関東1部の2試合とプレミア参入戦の初戦であるジュビロ磐田U−18戦を取材したが、佐熊裕和監督のチーム・組織作り、サッカー観に共感し、「結果を出してその考えが取り上げられることが日本サッカー界のプラスになる」と確信しているからだ。
 
 まずピッチ内では、「サッカーの目的はゴールである」という本質、原理原則に則った戦術でありチームコンセプトであることが理由。選手権での桐光学園のサッカーを見てもらえればわかる通り、多少雑でミスもあるが、基本的にはチーム全体、11人の選手全員がゴールに向かって前向きにプレーしている。
 
 近年は高校サッカーの舞台においても、FCバルセロナやスペイン代表のサッカーとその成功事例の影響を受けて、ポゼッション型のパスサッカーがブームとなっている。中にはそれ自体が目的化してしまっているようなチームも見受けられるが、桐光学園にはその気配は全くない。
 
 プロ入りする選手はいないものの、高体連のチームとしては非常に個の能力とその集合体としての総合力が高く、佐熊監督のさじ加減一つで華やかなパスサッカーもできるとは思うが、今年の桐光については、「ポゼッションはあくまでゴールを奪うため、ゴール前にボールを運ぶためのツールに過ぎない」というこれまた当たり前の原理原則が周知徹底されている。
 
 また、これはピッチ内外で関係することだが、下の監督コメントで私が質問しているように、高校年代でのフィジカルベース作りの重要性を認識して、プロのトレーナーを雇い、フィジカルトレーニングを施している。足下のテクニックやパスワークに溺れるようなチームも散見される中、佐熊監督からは「技術、戦術のベースと同じく、フィジカルベースがなければ次のステージ(大学、プロ)で通用しない」という考え方を覗き見ることができる。
 
 31日は1回戦の高知と仙台育成の試合を取材すべく埼玉スタジアム2002に足を運んだのだが、「パスサッカー」を謳い大会前の評判としては悪くなかった高知は、全国という舞台で戦うためのチームとしては非常に“軟弱”に映る軽量級のチームだった。
 
 一昔前のような非科学的なフィジカルトレーニングはもはや無用の長物だとは思うが、スピード、アジリティ、運動量を高めるためのフィジカルや体幹のトレーニングは特に日本のような世界と比較した時に「軽量」になってしまう選手には必要不可欠な要素で、私個人としては「高校年代から導入すべき」だと考えている。
 
 もちろん、方法論としてそれがボールを使ったフィジカルでもいいわけで、指導者はもう少しカテゴリーや国境を超えた視点で選手育成をすべきだろう。選手権で小柄のみならず、線の細い選手ばかりが並ぶ姿を見ていると、そもそも日本の育成年代における指導で「食べること」の重要性がしっかりと躾けられているのかどうか怪しく感じる。
 
 31日は、現在来日中のアスレチック・ビルバオの育成コーチであるランデル・エルナンデス氏と一緒に高知対仙台育成戦を観戦したのだが、試合が始まった直後の彼の第一声は「まともにボールを蹴れない選手ばかりだね」だった。

小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」第124号(2013年01月04日配信号)より抜粋※