アラブ諸国の民主化運動が一段落した現在でも、唯一シリアの混乱は収まっていない。国連によれば、アサド大統領による反体制派への弾圧で、これまで7500人以上が死んだ。だがシリアで続く反体制派蜂起は、どれだけ民意を反映しているのだろうか。

 アメリカをはじめとする国際社会はアサド政権に対して非難を強めている。今年2月初め、国連安全保障理事会はアサドに退陣を求める決議案の採決を行った。

 しかし、この決議案はシリアと歴史的に関係の深いロシアと中国の拒否権行使で否決される結果となった。拒否権を行使したロシアのラブロフ外相は、アサド政権が崩壊すればシリアは内戦に陥ると主張する。自国の人権問題も非難されているロシアだが、この主張はあながち間違いではないかもしれない。

国民の55%がアサドを支持

 今年1月、昨年末にシリア国民など1000人を対象に実施された世論調査の結果が公表された。この調査の実施主体の背後には、シリアに対して厳しい態度を取るカタール政府がいた。だが、その結果は意外なものだった。シリア国民の55%はアサドを支持していることが分かったのだ。

 しかもアラブ諸国のほとんどはアサドが退陣すべきだと考えているのに対して、シリア国民の多くはアサドに対して退陣を求めていなかった。理由は、アサド政権が崩壊して国内が内戦状態に陥ることを危惧しているからだという。

 一方で、アサドが権力の座に残ることを望む人たちは、彼に公正な選挙を実施することも求めていた。

 サンプル数が少ないとの批判もあるが、この調査結果はシリア国内でくすぶる懸念を反映している。シリアは、イスラム教シーア派の一派とされ国民の12%ほどを占めるアラウィ派のアサドが統治する国だ。他方で、反政府デモを引っ張るスンニ派が国民の70%を占める。

 そんなシリア国内で、例えば国民の10%を占め、過去40年以上アサド家に守られてきたキリスト教徒たちは、アサド政権が崩壊してスンニ派からの迫害が始まることを恐れている。アラウィ派の大半ももちろん同じ思いだ。

メディアが生むイメージのギャップ

 シリアでは、欧米メディアが自由に入国して取材できない状況が続き、ジャーナリストが死亡する事件も相次いでいる。外国メディアは欧米政府やシリア国外で活動する反体制派、人権団体が発信する情報に頼らざるを得ない。だが、それが国全体の現実をどこまで反映しているかは分からない。

 レバノンに逃れた反体制派の中には、政府軍とデモ隊の衝突で巻き添えになった市民の残酷な写真や映像を集めて外国メディアに提供する組織も存在する。それを報じるメディアも、信憑性は分からないと前置きをした上でこうした情報を報道する。その結果、アサド政権の残忍なイメージが広く世界に伝わっている面もある。

 多くの国民が政府部隊との衝突で命を落としているのは間違いない。ただそれが、必ずしもシリア全体の民意を反映しているとは限らない。

[2012.3.14号掲載]

山田敏弘(本誌記者)