中日ドラゴンズはこのほど、落合博満監督が今季限りで退任し、後任にOBで、1992年から4年間監督を務めた高木守道氏が就任すると発表した。
 22日に行われた会見で、佐藤良平球団代表は、「新しい風を入れたい」と交代の経緯を説明。そのうえで、高木氏には将来の指導者育成も期待した。

 落合監督は2004年に監督に就任。チームを3度のリーグ優勝に導いた他、2007年には1954年以来53年ぶりの日本一を成し遂げた。今季は野球殿堂入りを果たした他、22日現在もスワローズに次ぐリーグ2位につけている。
 突然の監督交代会見に新聞各紙は、落合監督の勝利至上主義の采配を理由に挙げている。 落合監督は就任以来、「勝つことが最大のファンサービス」と公言。守り勝つ野球を徹底して来た。

 象徴的だったのが、2007年の日本シリーズ。ドラゴンズが王手をかけて臨んだ第5戦で、ドラゴンズ先発の山井大介は8回まで、打者一人の出塁も許さない完ぺきな投球を見せていたが、9回に落合監督はクローザーの岩瀬仁紀にスイッチ。はたしてチームは勝利し、半世紀ぶりの日本一に輝いたが、この非情とも言える采配には、今も疑問の声が挙がっている。
 この他にも、マスコミへのリップサービスの少なさシーズンオフに行われるファン感謝デーの欠席などを、新聞各紙は指摘している。

 そんな指揮官にファンは不満を覚えたのか、2005年の実数発表以降、観客動員数は2008年の243万人をピークに減少。2010年は219万人で、今季も微減の見込みだ。

 たしかに、落合監督は通好みする監督だが、プロ野球がビジネスである以上、もう少し営業面で球団に協力してもいいのでは、と思うことが多々ある。せめて、マスコミを通じファンに情報を発信していたら、このようなことは回避できたかもしれない。

 だが、そのことを差し引いても、シーズンが佳境にさしかかったこの時期の発表には疑問が残る。

 米デトロイト・タイガースジム・リーランド監督は2009年シーズン開幕前、選手たちに「われわれが出来ることは、全力でプレーをすること。それこそが、最大のファンサービスだ」と話した。

 2009年と言えば、リーマン・ショックの直後。自動車工業の町、デトロイトは、全米で最も甚大な影響を受けた地域だ。
 メジャーリーグの30球団は、ファンサービスの充実、スポンサーやメディアとの放映権の複数年契約などで未曾有の不況を乗り切ったが、リーランド監督は、全力プレーこそ、グラウンド上の自分たちができる最大限のファンサービスであると強調した。
 ドラゴンズもタイガースと同様に、自動車工業の町を本拠としている。不況の影響は小さくないが、そんな中で落合監督は2004年の就任以来、勝利に執念を燃やし、3度のリーグ優勝、半世紀ぶりの日本一で地元ファンを元気づけてきた。
 そんな功労者を、球団は契約終了の10月31日を待たずして、切り捨てたのだ。

 むしろ、非難されるべきは、球団の営業ではなかろうか。スポーツビジネスの世界では、球団やクラブは、チームの調子に左右されずに収益を確保できる体制作りに全力を注いでいる。球場周辺のボール・パーク化もその一環だが、これは、「チームの調子」を「監督の采配」に置き換えても、十分に通じる。
 今回の突然の監督交代発表が、落合監督の采配が理由ならば、球団が観客動員数の減少について責任を落合監督に押し付けたことに他ならない。球団の無能さを、世間に公表した形だ。

 球団はさらに、「落合監督は球界の宝。(他球団への移籍は)当然あると思うし、中日が縛ることはない」と、 事実上、落合監督との縁を切ることを認めた。

 自らの無能さを棚に上げ、球団史上最大の功労者を、形だけの敬意で追いやった中日ドラゴンズ。いつから、こんなにつまらない球団になってしまったのか。