8日にマルセイユのホームで行なわれたチャンピオンズリーグ(CL)チェルシー戦。両チームともすでに決勝トーナメント進出を決めて順位も確定しているこの試合、サポーターのお目当てはチェルシーのFWディディエ・ドログバだ。マルセイユを去って6年半にしてようやく実現した“凱旋”にヴェロドロームが沸いた。

 先発したものの、マラリアの高熱に苦しんで1ヶ月のブランクがあったドログバは、マルセイユ・サポーターの前でかつての姿を再現できなかった。それでも62分に交代を告げられてベンチに下がるときには、文字通り総立ちのオベーションを受けた。

 ドログバは試合後、中継局TF1のマイクを通じて「胸が熱くなった。僕はここで素晴らしいシーズンを過ごした。こんな歓迎を受けてうれしい」と熱烈な声援に答えた。「まるで引退試合だったね。仲間に冷やかされたよ。感動のあまり思うようにプレーできなかった」とも明かす。

 ユーロスポーツ局のマクシム・デュピュイ記者は、同じくマルセイユからビッグクラブへと巣立ったリベリやナスリでもこれほどの歓迎は受けなかっただろうと語る。

 ドログバがマルセイユのサポーターにかくも愛される理由については、ドログバ在籍当時のマルセイユ会長、クリストフ・ブシェ氏が解説している。「ディディエは情の深い男。たんなる助っ人ではなかった。人に多くを与える男で、それが周囲にも感じられる」。

 ブシェ元会長はまた、「チェルシーから誘いが来たときも、給料が3倍になるのに本人は残りたがった。結局、3500万ユーロ(現在のレートで約38億8000万円)という巨額のオファーがあったため、株主の意向で手放さざるを得なくなったが、彼はほんとうに悲しんでいた」とドログバ売却のエピソードを紹介した。

 「彼がビッグになることは最初から確信していた。売却は悪夢だった」と振り返るブシェ氏。しかしドログバは、自分を売る決断を下した元会長を恨むことはなかった。「最近で最後に会ったのはアフリカ。彼は遠くから私の姿を認めるとすぐに近寄ってきて私に抱きついた。こんな男は彼のほかにはもうサッカー界に存在しない。誰かが彼に投資すれば、彼はそれを返してよこす。受けた恩は決して忘れないんだ」と人間・ドログバに最大級の賛辞をおくった。