Photo by Keisuke KOITO/PHOTO KISHIMOTO

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 ゲームが止まり、メインスタンド側のベンチ前で給水をとりながら、言葉を交わす日本選手たち。しかし、たったひとり逆サイドのタッチライン付近を歩き、再開のときを待ちながら、彼は何を考えていたのだろうか?左サイドで手を上げて、何度ボールを要求しただろう。しかし、チームメイトからのパスは届かない。イメージ通りのプレーは何ひとつできなかったかもしれない。試合終了の笛が鳴ったとき、彼、本田圭祐の胸中にはどんな感情が沸き起こったのだろうか?悔しさ、苛立ち…言葉では説明できない様々な熱を帯びた思い。そして寒々しい空しさを抱いたかもしれない。

 08年1月オランダへ移籍。2部へ降格したもののMVPに輝く活躍でチームを1部へ昇格させた。そして、今季は開幕戦からゴールを決め続けてきた。ビッククラブへの移籍も噂され、意気揚々と日本代表へ合流したはずだ。マスコミもそんな本田に注目し、連日「本田」の見出しが紙面を飾った。

「俺はリスクを負って前に行くタイプ。オレは1対1を仕掛けることを日々やっているけど、明日はその一日で変わりはない。自分のよさをチームの勝利のために出すだけ」

 試合前日も自信たっぷりにそうそう語っていた本田だったが、岡田監督はオランダ戦の先発に本田を起用しなかった。その決断は理解できる。監督就任後初めて、世界のトップ10以上のチームとの対戦。ワールドカップへ向けた最初の一歩で確認すべきは、「日本サッカーがいかに戦えるか」ということだったはずだ。現代表は攻守にわたり“連動性”“組織力”が生命線となるチーム。チーム構成を変更して挑んでは、わかるものもわからなくなる。本田というカードは魅力的なカードだが、それを先発で起用する試合ではなかったということなのだろう。

「テストしたかった」という岡田監督の意向のもと、後半から投入された本田は、最初は左サイドでプレーし、69分の1失点後、中村憲と興梠が交代するとトップ下でプレーすることになる。

 この時間帯、日本の足は止まっていた。スピードアップしたオランダの攻撃、疲労のため、前半は高い集中力と緊張感のもと成立していたプレスが、効かなくなる。加えて「新しい選手が入って、全員が意識して連動できなくなった」と中村俊が語るような状況にも陥り、失点を重ねてしまった。
 
「本田の起用で日本が崩壊した」というような報道もあるが、3−0の理由はそれだけではないだろう。「向こうはトップクラス。パワーもあり、個人技術も高い。そのうえで組織としても戦える。でも、個人で劣る俺らはそれ以上の組織力でゴールまで行かなくちゃいけない」と中村俊輔。

 オランダという国を相手に、日本代表の現時点での限界というものが露呈した試合だった。日本のプレスが利いていた前半、オランダは自陣でボールを廻し続け、攻撃チャンスはあまりなかった。チャンスを作れなかったのか、意図的に作ろうとしなかったのかはわからない。逆にそういう時間帯に有効な攻撃をする余裕が日本代表になかったことも事実だ。

 チームとして見えた課題、掴めた手ごたえ、選手個々が抱いた思いをどう進化のきっかけにするか?敗戦の意味はこれからの彼らの姿が作っていくだろう。

 絶好のアピールの場だという思いを強く試合に挑んだものの見せ場すら与えられなかった本田の姿に、07年秋のスイス戦の松井大輔のことを思った。新しい代表で存在価値を見せたいと心に秘めてピッチに立った松井は、「とにかく一発を狙いたかった」と何度も何度も裏への飛び出しを見せ、自身の武器であるドリブルでの勝負に拘った。そして、得点となるファウルを得ることに成功する。