試合前日から、中村俊をはじめチームメイトと会話を重ね、コミュニケーションを深めた。自分のプレーを発揮するために必要な信頼関係を築く作業に時間を割いたのだ。

 海外でプレーする選手は、言葉の壁を越えた信頼関係を生むことに心を砕く。そのためコミュニケーション能力は自然と高まるはずだ。相手に受け入れてもらうためには、相手を受け入れる必要がある。オランダでプレーしている本田とて、そのことは十分に理解しているはず。そういう作業を重ねなければ、自分のプレーもできず、生き残れないのは代表も同じはずだ。
 
「相手にとって脅威になりたい」と本田は言う。

 そのために必要なことは何か?それは味方からのパスだ。ボールが来なければシュートも打てはしないのだから。

 かつてのジーコジャパンのときのように、チーム内の対立関係を書きたてるマスコミもあるだろう。トップクラスの選手が集まる代表はプライドとプライドのぶつかり合いがあるのは当然のこと。しかし、意識の高い選手はチームのため、チームのサッカーに徹する能力も強いはずだ。そうでなければ、試合には出続けられない。

 明確な“チームコンセプト”がある岡田ジャパンはジーコジャパンとは違う。

 戻るべき出発点、歩み寄るべき軸はある。
 
 クラブで求められている仕事と代表でのやるべきことに違いがあるのは、どの選手でも同じこと。“チームコンセプト”の理解度を選手に強く求める監督のもとでプレーするには、個の力をアピールするよりも、いかに組織の歯車の1枚として機能するかに評価基準が置かれる可能性も高い(それが良いか悪いかは別にして)。

 南アフリカで輝きたいのなら、自分のサッカーを貫き通すだけでは足りない。

文=寺野典子