メッシ(左)とマラドーナ(右)。このアルゼンチンが生んだ二人の天才についてドリブルのプロフェッショナルに訊いてみた。 (C) Getty Images

写真拡大 (全2枚)

 現代スターと往年のレジェンドはどちらが優れているのか――。

 サッカーファンなら一度は考えことがあるだろう。「昔は、プレスが緩く、インテンシティーも高くなかった」、「いや、現在のディフェンダーより1対1に強かった」など、意見は様々で、答えの出ない永遠のテーマとも言える。

 とりわけ比較されがちなのが、ディエゴ・マラドーナとリオネル・メッシだ。

 ともに圧倒的なテクニックとスピードを誇るドリブラーにして、並外れたシュートセンスで得点を量産するゴールゲッター。アルゼンチン代表でエースナンバーの10番を背負い、小柄なレフティーと共通点が少なくない。

マラドーナが「神の手ゴール」や「5人抜きドリブル」を披露した1986年のメキシコ・ワールドカップで世界王者に輝いたことから“サッカー界の神”と崇められれば、メッシもバルセロナでのクラブキャリアで600ゴール以上を記録し、同じく「神」と呼ばれて称賛を集めている。

 この二人のどちらがより優れているのか。その答えを導き出すのは非常に難しい。せめてドリブルの優劣だけもつけられないものか? 答えを求めてある人物に話を訊いた。「ドリブルデザイナー」の岡部将和である。

 サッカーを始めた幼少期からドリブルの楽しさに魅了されてきた岡部は、ドリブルのみに特化してレクチャーする「ドリブルデザイナー」という新境地を開いた。「99パーセント抜けるドリブル理論」を提唱しており、日本代表の乾貴士や原口元気から、子どもたちまで幅広い層に支持されている。

 いわばドリブルのプロフェッショナルとも呼べる男に、マラドーナとメッシの最大の武器でもあるドリブルの違いを訊いた。
 
 日々、映像での研究に励んでいるという岡部にまず見てもらったのは、メッシのドリブルだ。幾多のドリブラーをレクチャーしてきた彼からしても、その動きは「異次元」だという。

「その凄さの全てを語るのは、本当に難しいですね(笑)。僕はドリブルにおいて、『距離と角度』を重要視しているんですけど、メッシはその操り方がすごく上手いと思いますね。あと、中央にポジションを取ることが多いこともあって、DFと対峙した時には、正対することがとても多いんですけど、メッシの場合は相手が先に動くんですよね。自分じゃなくて」

「相手が先に動く」とは一体どういうことなのか? 岡部はさらに驚嘆しながらこう語ってくれた。

「相手がなぜ動くかというと、パスを出されたり、抜かれる軌道を予測しちゃったり、シュートを打たれる恐さを頭に抱かせているからなんですよ。あと、ボールを持った時に縦へ行かれる圧力を感じているんだと思います。メッシは左利きなので、相手も『次こそは中に来るだろう』とかって考えるんですけど、彼は縦にもいける。とくに複雑な動きはなくてシンプルなのに相手を抜けるのは、縦と中の選択肢を常に持っているからだと思います。本当に異次元ですね」
 次にマラドーナに関して分析してもらった。このレジェンドは一体何が凄いのか――。いわくメッシとの大きな違いは、その「野性味」にあるという。

「相手により身体をぶつけに行っていると思います。メッシってドリブルの時にあんまり腕を振り回さないんですよね。ここぞって時はちょっと使ったりしますけど。でも、マラドーナは腕をぶんぶん振り回していくんです。あと、加速する時に微妙にボール離しても、スピードと身体の強さがあるから奪われない。だからより野性的ですね」

 マラドーナを語るうえで、やはり欠かせないのが、世紀の5人抜きドリブルだろう。

 1986年6月22日、エスタディオ・アステカを舞台に行なわれたメキシコ・ワールドカップ準々決勝のイングランド戦。その55分だった。