新キャプテンのイニエスタを中心に、川崎戦は良い試合の入り方をしたが……。写真:徳原隆元

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 ノエビアスタジアム神戸の南側スタンドに、白いハートを模したコレオグラフィが浮かび上がる。そのハートが鼓動を打つように響き渡るのは、『愛の讃歌』を原曲とするお馴染みの『神戸讃歌』だ。
 
 ヴィッセル神戸のサポーターがクラブに注ぐ深い愛情は、未来への希望に満ちていたサガン鳥栖とのホーム開幕戦(2節)も、リーグ戦3連敗中と下降線を辿るなかで迎えたこの川崎フロンターレ戦(9節)も、なんら変わりはなかった。
 
 とはいえ、チーム内の混乱はもはや包み隠せないだろう。
 
「バルサ化」の陣頭指揮を執っていたフアン・マヌエル・リージョ監督が、開幕から2か月も経たずに突如辞任。それに呼応するようにルーカス・ポドルスキは、「誠実でない人間からは忠誠心を期待すべきでない」という意味深なメッセージとともに、みずからキャプテンの座を降りている。
 
 そして、開幕前に話題を呼んだダビド・ビジャ、アンドレス・イニエスタ、ポドルスキの「VIPトリオ」も、5節のガンバ大阪戦以来、一度も揃い踏みがない。いずれも故障が欠場理由だが、カオスに片足を突っ込みかけているチーム状態に紐付けて、つい穿った見方もしたくなる。自身のツイッターで川崎戦の欠場を明らかにした前キャプテンが、出場メンバーに関する情報を試合前に公にしたとチームから事情聴取を受けるような騒ぎがあれば、なおさらだ。

 現在の神戸は、秩序とガバナンス(統治能力)を欠いている。「バルサ化」という大きな花火を打ち上げたが、その旗振り役を失い、さらに結果が出ないことで、選手が自分たちのサッカーに対して、もっと言えばクラブの方向性に対して、疑心暗鬼になりつつあるようにも映るのだ。
 
 それでも、ファン・サポーターは変わらぬ愛情を注いでくれる。イニエスタやビジャを目当てに、この1年ほどの間に神戸のサポーターになった方が少なくないことも影響しているのかもしれないが、良い時も悪い時もホームスタジアムはいつも温かく、アットホームな雰囲気に包まれる。
 
 そうした優しさに、無償の愛に、どこかで甘えてはいないだろうか。
 ピッチ上の選手たちが戦っていないとは言わない。
 川崎戦のキックオフ前、魂を注入するようにチームメイトの背中を叩いて気合を入れる新キャプテン、イニエスタの姿があった。開始10分、前から果敢にプレッシャーを掛けていた古橋亨梧が、相手の左SB馬渡和彰を削ってさっそく主審から注意を受ける。その2分後には、イニエスタ、ビジャ、古橋、西大伍と複数人が絡んだ崩しから、最後は山口蛍の低弾道ミドルが川崎ゴールを襲うが、一連の攻撃のきっかけとなったのは、自陣にまで戻ってボールを奪取した小川慶治朗の激しいスライディングタックルだった。
 
 しかし、こうして良い形で試合に入っても、たったひとつの失点でたちどころに攻守のバランスを崩してしまうのが、現在の神戸なのだ。そして、その失点には多くの場合、ミスが絡んでいる。6節・松本山雅FC戦はGK前川黛也のパンチングミスで先制ゴールを、7節・サンフレッチェ広島戦ではダンクレーのバックパスミスから同点ゴールを、8節・浦和レッズ戦では芝生に足を滑らせた大粼玲央のボールロストから先制のPKを奪われた。

 川崎戦の1失点目は、防ぎようのない馬渡の素晴らしい直接FKだったが、一方でショートカウンターから最後は小林悠に決められた37分の2失点目は、イニエスタからのパスをコントロールし損ねた山口の軽いプレーがその端緒となっている。
 
 ただ、ミスの多さ以上に問題は、主導権を握りながらも何度となく相手のカウンターを食らううちに腰が引け、チーム全体のコンパクトネスが失われてしまう悪い癖だろう。川崎戦後、選手たちも反省の言葉を口にしている。