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■なぜ1人で転んだら、恥ずかしいのか

いち早く指摘したい一方で、上司に対しては言いにくいもの。まず考えたいのは、人はどういうときに「恥ずかしい」と強く思うのか、ということです。心理学の視点で言うと、他人から、「単なる失敗ではなく、その人のパーソナリティのせい」と思われたとき。たとえば、シャツがズボンからはみ出ている様を、「変な人」だと受け取られたとき、恥ずかしさは倍増します。

部下が上司に指摘する、というシチュエーションであればなおさらです。「パーソナリティゆえの失態」と、下の立場の人間に認識されるのは恥ずかしいもの。いかに上司に恥をかかせないか考えないといけません。

ズボンのチャックが開いたままでクライアントと会ってしまったら、大恥をかきます。意図してチャックを開けている露出狂だと思われたら最悪です。できれば2人だけの場で解決したいものです。

小声で周りに聞こえないように指摘するのが、ベストな方法です。最大限、配慮していることをアピールしたほうがいい。注意したらすぐにほかの話に切り替えるか、その場を離れていなくなりましょう。

もしかすると、「チャック、開いてますよ!」と、ことさらに笑いに変えようとする人もいるかもしれません。しかし、慎重になるべきです。たしかに、「親しい関係」ならそれも可能でしょう。実際に、電車のホームで転倒した際の恥の感じ方について、こんな調査があります。

1人だけで歩いていて転んだときと、友人と歩いていて自分が転んでしまったときを比べると、後者のほうが恥ずかしくないという結果が出たのです。笑いにしたり、場を和ませることで、自分が転んだのが「パーソナリティのせいでの失態」ではなく、偶然、事故だと友達と共有できるから。駅のホームのように周りに人がいる環境では、「ここだけの問題」にしたほうが、周りの人に対して恥を感じない効果があるのです。

■婉曲に伝えるのは、どうか

しかし「ネタ」として昇華できるならいいですが、親しい同僚ならともかく、人間関係のベースがない上司と部下の間柄で笑いに走ってしまうのは考えもの。上司はパーソナリティを馬鹿にされたのではと、ますます嫌な気持ちになってしまいます。

第三者の話という体にして、「○○さんの話なのですが〜」と婉曲に伝える人もいます。それもやめたほうがいい。結局は「変な気を使わせた」と相手に一層、恥の意識が発生してしまうから。基本的にそっとその場を収めるのが一番なのです。

鼻毛が出ている場合は、厄介です。ズボンのチャックや、ベルトが外れていたり、ボタンの掛け違いなどは、その場で言えば直せるもの。対して、鼻毛や、ほかにも体臭や、反対に香水の匂いがキツいときなどは、その場では改善できません。

相手自身が「恥ずかしい姿」なんだという意識を明確化してしまって、それから直しもできない。指摘する側には、より慎重さが求められます。

体裁を整え直すための時間やトイレなどプライベートな環境が用意されている場所で、指摘することが必要でしょう。

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菅原健介(すがわら・けんすけ)
1958年東京都生まれ。横浜国立大学教育学部心理学科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程心理学専攻修了。文学博士。聖心女子大学文学部教授。専門は社会心理学、性格心理学。研究テーマは羞恥心、対人不安、自己呈示。著書に『羞恥心はどこへ消えた?』(光文社新書)がある。

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(聖心女子大学教授 菅原 健介 構成=伊藤達也 写真=iStock.com)