「NG就活塾の見分け方」と「信頼できる就活塾の特徴」を解説します(写真 : tkc-taka / PIXTA)

就活塾とは、その名のとおり学生の企業への入社をサポートする塾。リーマンショックを契機とした就職氷河期に企業の求人倍率が低下したことに伴い急増し、現在は全国で100以上が存在しているという。
「塾に通ったおかげで内定が取れた」という話がある一方、ずさんな経営や強引な勧誘から、「近づくな、入るな!」と言われることもある。就活塾について、どのように考えればいいのか。
リクルートで1000社を超える企業への採用活動支援、一部上場企業の採用責任者、自らが経営する就活塾で1000人を超える学生への就活支援をした実績を基に『新卒採用基準――面接官はここを見ている』を上梓した廣瀬泰幸氏に、就活塾について寄稿してもらった。

就活塾は有用? 危険?

夏休み明け以降から、私が主催する就活塾への問い合わせや入塾希望者が増加しています。例年は年明けから入塾者が増えるのですが、今年はちょっとした異変が起きています。知り合いの就活塾経営者、就活セミナーの主催者、キャリアセンター職員の方々に聞いてみても、状況は同じようです。

背景として、企業の採用活動が早期化し、夏のインターンシップを契機に成功・不成功者がすでに色分けされ始めていること、求人環境が好転し楽だと思っていた1年上の就職活動では、意外に苦戦した先輩が多かったことを多くの学生が知っていることが考えられます。

就活塾は受験塾に比べると歴史が新しい産業で、小資本で経営できるため、その実態がよくわからないところが多いものです。昨今のテレビドラマやネットでは、就活塾に対して否定的な情報も少なくありません。

そこで本コラムでは、「NG就活塾の見分け方」と「信頼できる就活塾の特徴」を解説します。

まずは「近づくな、入るな」と強く言いたい、NG就活塾の見分け方を解説します。

強引なわりに「実績」がよくわからない

特徴1:生徒集めの手法が強引

NG就活塾にありがちなのが、「強引な生徒集めの手法」です。

まず、就活塾の経営がどのように成立しているかを考えてみましょう。

「売り上げ=受講料×人数」
「利益=売り上げ-販売管理費(主として講師の人件費+オフィス維持費)」

受講料は学生や親御さんが支払うことや塾同士の競争で、総じて均質化(15万〜25万円)しています。そのため、就活塾の経営の生命線は生徒数になります。

ですから、「無料説明会」などと称して学生を集め、執拗にその場で「今決めないと後悔する」などと強いストロークで入塾の決断を迫る塾があります。場合によっては、大学前の路上や就活イベントの会場前で、アンケートを取り、その後しつこく勧誘してくることもあります。こういった塾が「NG塾」なのは、冷静に考えれば当然のことだといえるでしょう。

実際、ネットで調べれば、東京都消費者生活条例48条に基づいて是正勧告を受けた塾の名前を見つけることができます。こうした常軌を逸した行為はあってはならないことですが、残念ながら過去にあった恐ろしい事実ですし、現在も行われているかもしれません。

特徴2:疑わしい実績を掲げている

2つ目の特徴が、「疑わしい実績を掲げている」ことです。

HPでのうたい文句に、「内定率〇〇%」と表記している塾があります。しかし、その根拠となるはずの「時期」や「母数」が記載されているケースを見たことがありません。根拠の怪しい数字で顧客を集めようとする塾が健全だとは、とても思えません。

また、HPに「受講修了生の声」を掲載していないか、掲載されていてもその内容が極めて薄い塾も、危険だと考えたほうがいいでしょう。

ビジネスにおいて、最も大切なことの1つは顧客満足度です。就活塾にとって顧客とは当然のことながら受講生です。そして、その受講生の声が掲載されていないということは、その塾が顧客満足度を軽視しているか、そもそも生徒の満足度が低いことが想定されます。

私の経験から、受講生は総じて正直で素直です。塾のサービスに真に満足している学生は、受講終了の感想を依頼すれば、多少面倒くさくても素直に書いてくれます。逆に塾のサービスに満足していない学生は、感想を依頼しても書いてはくれません

「修了生の声」が掲載されていない、あるいは内容が薄い塾も、危険度が高いと考えてください。

特徴3:代表者の経歴やポリシーがよくわからない

就活塾の経営形態を大別すると、専業と兼業(たとえば企業の採用コンサルティング)に分かれますが、そのほとんどが中小企業か個人事業主です。

中小企業であれば、金融機関が融資するうえでの判断基準は、経営者の資質か経営者の資産状況です。中でも経営者の資質によるところが大きいことは周知の事実です。

また、就職塾は「教育産業」に属するものであり、教育者の経歴に現れる資質やポリシーは、そのサービス内容の中核を成すものです。

しかし、残念ながら就活塾の中には、代表者や塾長の経歴が明示されていない塾が少なくありません。「〇〇大学卒業後、〇〇業界で仕事をしていた」という程度のことは、経歴としてはあまりに不十分です。

一言で教育といっても、その方向性や目指す姿は千差万別です。教育業では代表者のポリシーや情熱がそのサービスの質を決めるにもかかわらず、塾の顔となるHPで明示されていないようでは、信頼するのは難しいといえます。

では、学生が通って安心・有用な就活塾とはどんな塾でしょうか。上記3条件を満たさないことはいうまでもありませんが、新たに積極的な観点から3つの視点をご紹介します。

有用な就活塾3特徴

特徴1:一人ひとりの課題にフォーカスしている

大学受験と違って就活が難しく、やっかいな点があります。それは、大学受験では「偏差値」によって受験校を絞ることが容易であり、その難易度と自己の実力を判定する基準や水準がわかりやすいことに比べ、就活は入社したいと思う対象が個人の価値観によって大きく異なるうえに、入社難易度もわかりづらく、さらに自分の実力を判定しづらいことです。

そのため、志望企業を選択するうえでは、個人の価値観を深く掘り下げる必要がありますし、入社難易度をある程度想定する必要もあります。さらに、これが受験塾と比べて最も難しいところですが、個人の実力を客観的に判定し、個々人に合わせた形で実力向上に向けた取り組みを指導することが必要です。

このように、就活塾では受験塾とは比べものにならないほど、個々人の課題にフォーカスする必要があります。後悔しない就活塾選びには、この点がまず重要になります。

特徴2:リーダーシップにフォーカスしている

今後の労働市場は、知的・創造的業務か、体を使った業務に二極化していくといわれています。また、さまざまな企業において他社との合併や協業(コラボレーション)を担う業務が世界的に増加すると見られています。

そうした環境を先取りし、適応するために欠かせない力としての「リーダーシップ力」が、さまざまな企業で問われています。つまり、今後は従来にも増して、企業の採用選考の場面で「リーダーシップ」が問われると考えられます。企業の採用選考において、インターンシップでの職場体験やグループディスカッションが増加していることも、こうしたマクロな経済環境の変化と無縁ではありません

したがって、小手先の「○○の書き方」や「○○の仕方」を教えることに、それほどの意味があるとは思えません。問題や課題を深掘りすると同時に、新しいアイデアを創造し、計画的に目的や目標を達成するためにチームをリードできる力、すなわち一言で「リーダーシップ」を養える塾が、より本質的な「就活塾」といえます。

特徴3:相互作用にフォーカスしている

PBL(Project-Based Learning」)(課題解決型学習)の必要性が日本でも叫ばれ始めてから、はや十数年が経過しました。PBLはさまざまな教育現場で取り入れられ、生徒の学習意欲の向上や新しいアウトプットを生み出すうえでの有効性が高いことが検証されています。


一方、日本のマンモス大学の多くでは、PBLの導入はゼミ・研究室内での教育に留まっているところが多いものです。その有用性は理解しているものの、教員の絶対数の不足や教員にかかる負荷が大きいからです。そのため、いまだに多くの時間が大教室での一方的な講義に費やされているのが現状です。

私は、大学受験塾が一般化した背景には、高校教育では満たされない教育を満たそうと、受験塾が不断の努力をしてきたことにあると思っています。そうでなければ、受験生が自分の実力を向上させたいと思っても、実際に塾で実力が向上するはずはありません。

企業が学生に求めている力は多種多様ですが、その多くは、チームメンバー相互の議論や触発を通してこそ養われます。そのため、有用な塾は、学生同士のチーム内の相互触発のしくみを導入し、企業が求める力の涵養に努めているのです。

どんなサービスでも、質にはバラつきがある

就活塾は、結局のところ「サービス業」です。その「質」にバラつきがあるということは、あらゆるサービスに共通することでしょう。

まして就活塾は、まだ誕生して間もない産業です。そのため、その「質」のバラつきは、歴史のある受験塾よりも大きいと考えられます。

だからこそ、「就活塾=悪」と決め付けるのでもなく、また「就活塾=役に立つ」と妄信するのでもなく、学生の皆さんが冷静に、その「質」を判断する目を養っていただきたいと思っています。