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●総じて言えば「盛った者勝ち」

7月26日に国土交通省は高松空港の優先交渉権者として三菱地所・大成建設・パシコングループ(代表企業: 三菱地所)を選定し、8月10日に基本協定を締結、8月15日には選定の客観的評価結果を公表した。この内容は各社の項目別採点を仔細(しさい)に公表したもので審査委員のコメントも付されており、非常に示唆に富むものであった。しかし同時に、今後相次いで行われる各地空港の運営権者の選定に対して、筆者としては危惧を感じざるを得ない側面もところどころに感じられた。

○"運営権競争のバブル化"への懸念

これまで関空・伊丹、仙台空港の審査を経て、今回の高松空港に応募した各コンソーシアムは、企業規模や経験値から見ても"錚々(そうそう)たるメンバー"であり、今後、民営化予定の空港も含め、航空業界や空港経営に対する調査・勉強も既に十分進んでいることから、応募内容は皆かなり高いレベルにあったことは間違いない。逆に言えば、皆が高い提案レベルにある中でどのように他者に差をつけ、審査委員の評価を得るかは大変難しい課題となってしまっているわけだ。

その中で、三菱地所グループが審査を勝ち抜いた経緯を審査結果から分析してみると、かなり明確な理由が見えてくる。三菱地所グループが次点に差をつけたのは、「運営権対価の額」「設備投資の総額及び提案」「旅客数・貨物量の目標値」という、いわば、数字勝負の部分で目一杯の高い数値を盛ったからと言える。実際、2位の高松空港 ORIGINALSグループ(代表企業: オリックス)との差は、運営権対価額で2.4点、設備投資額で4.5点、需要目標値で1.4点。他項目はいずれも1点以下の差となっている。

この結果に対して業界関係者からは、「事業でリターンを出すのは難しい数字」「実現可能性も評価したというが、5年後に260万人(+80万人/45%増)、15年後に307万人(+127万人/92%増)という目標が現実的とは思えない」との声もあり、筆者も同感である。

これまでの応募スタンスにおいては、運営を委譲された特別目的会社(SPC)として公的機関の経営を確実に持続していくために、設備投資については必要性を吟味し、額が少なくとも地に足のついた提案として評価してもらいたいとする考え方にも、十分に存在意義があったと思われる。しかし、今回の評価基準と結果をみると、運営権対価額だけでなく、目標値、設備投資額については、"高いほど勝ち目がある"ことが明確となっている。

また、"実現可能性の審査"が、その数字を実現するためにどのような施策を講ずるのかという"打ち手の多さ目新しさ"にとどまっているのではないか。最終的にその施策が本当に効果を生めるのか、それによって目標が達成できるのか、という点については、最終的に"やってみなければ分からない"になってしまっているのではないかと筆者は感じる。

これでは今後の各空港事例でも同様に、"数字を盛らなくては勝てない"と考えて各社は提案してくる可能性が高く、"運営権競争のバブル化"を招かないのか、筆者としては危惧を拭えないというのが率直な感想である。

また数値以外に、旅客数目標へのプランにおいても懸念点がある。

●エアライン誘致の議論はいかに--LCCは期待できるのか

○入札経緯・応募内容のさらなる吟味・検証を期待

入札金額は公表されていないが、各社とも自社の入札額と評点から逆算して相手の入札額が逆算できる。諸情報から三菱地所グループの入札額は、一次審査の10億円から大きくアップされた50億円と推定される。なお、オリックスグループは一次審査が45億円超、二次審査が47億円と見られる。

いくら一次審査結果は持ち越さないとは言え、これほど二次審査で大幅に積むのでは一次審査の持つ意味が何だったのかとなるだろう。また、一次審査でオリックスグループの入札額が高かったことがなぜかマイナスに評価された後、各社十分な再検討期間があったことから、今後の一次審査の結果公表の仕方や情報管理の徹底という点で教訓を残したと言える。

また、旅客数目標では5年後の増加分の半分以上を国内線(特にLCC)に依存する計画だが、高松空港を拠点化できるのはジェットスター・ジャパン(GK)しかない。GKが5年以内に成田、新千歳、福岡との間で1日4往復を新設する(44万人の増加分を全てLCCから生むという前提での逆算)というのは需要確保にかなりの困難を伴うのではないか。

現在、国内LCC各社は黒字基調を維持しているものの、円安、原油、GDPという外部要件が今後どうなるかによっては、経営安定レベルの黒字であるピーチ・アビエーション以外の国内LCCに過度な規模の就航期待をするのは、現時点ではかなりリスクがあると考える。

また、国際線については5年間で36万人の需要増を達成するには、大型機の国際線需要を支え得る市場とは考え難いゆえに、アジア長距離路線の誘致は機材と需要の関係から非常に厳しいと思われる。A320で週3便かつ利用率85%で逆算した場合、新規にLCC7路線規模を誘致する必要があるが、果たして中国本土を含めても高松に7路線を誘致できるかは非常に不透明である。

いずれにしても東京、大阪という大市場との連携なくして実現可能性は薄いだろうが、そのような広域観光を回す絵柄については示されていないのではないか。現実にどことどのような接触・交渉が行われているかも含め、具体的なエアライン誘致をめぐる議論が二次プレゼンの中でどのように行われたのか、筆者としてはとても興味があり、より詳細なやり取りの公開を期待したい。

また、設備投資についても、空港機能維持に関する部分ではコスト節減策を評価する一方で、空港活性化策については単一項目としても比較的大きな配点がなされている。ここでの投資額の決断の差が、結果的に全体評価の差を生んだことになる。

需要予測や投資効果については、各応募者やコンサルが膨大なデータと分析ソフトを駆使した結果を人力で評価する等、審査側の大変さはあるだろうが、ある意味、コンピュータの中はブラックボックスであり、この大小で勝負が決まるのでいいのかどうか。計算の前提となる各国・国内県別GDP成長率、為替の振れ幅、国内各空港間の競争分析などについては第三者の検証能力も活用するなどして、徹底的な吟味と情報公開が行われることも期待したい。

では実際、今後どのようなことが求められるのか。今まで行われてきた各空港民営化プロセスを振り返りながら考えてみたい。

●仙台・羽田で出た批判--続く静岡・北海道に向けた課題

○今後、さらなる活性化と透明性向上を

今後の各空港民営化プロセスにおいては、さらなる審査体制の整備が図られることは十分に期待できる。運営権対価額に関しては、過去仙台空港で最高額入札者が選定されなかったことに財務省から指摘があったり、羽田空港跡地第2ゾーンの開発では対価額評価点が50%になったことで企画提案内容が最低でも金額だけで勝ったとの逆の批判が出たりと、種々変遷をたどって今に至っている。

今回、高松空港の対価額評価割合は20%、福岡空港では30%に上がっており、"勝つには数字を積むしかない"との傾向はさらに高まる懸念がある。その意味で、実行を確約させる設備投資の前提となるトラフィックの数値目標の審査・検証方法の整備等について、さらなる改善策が取られるよう願いたいものである。

他方、これから二次審査に向かう静岡空港の募集要項では、運営権対価の入札額を「滑走路等更新投資を全額負担する場合にそれを上回る額」と設定されており、単に運営権にいくら積むかではなく事業への総合的な投資額の一部として評価することとされた。これは空港投資の合理性を考えた方法であり、静岡県による選定ではあるが国の指導が入ったであろうことは想像に難くなく、今後、北海道7空港を始めとする国による審査基準にどう反映されるかを注視したい。

また、情報管理という点で、国に対応を求めたいのは人的な関係についてだ。国交省は今回の高松空港に応募し、今後の福岡、北海道に大きな意欲を示している企業から、航空局を含め、職員の出向を受け入れている。いかにチャイニーズウォールを厳しく設定していると言われても、出向者を送り出している企業が入札内容や審査情勢について有利な情報を得るのではないかという疑念が出されることも、ある意味当然と言えよう。

誰もが李下に冠を正さぬことを明示するためにも、応募企業からの出向受入を審査の期間前後は中断するか、出向を受け入れている企業には応募資格がない、また応募者へのアドバイス行為をすることは禁止する、といった措置を取ることが必要ではないだろうか。

○筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。