いよいよ春のクラシックシーズンの到来である。4月10日には牝馬クラシック第1弾の桜花賞が開催される。その注目の一戦を前にして、今年も元ジョッキーの安藤勝己氏に、クラシックに挑む3歳馬の実力を分析・診断してもらった。その結果を受けて今回は、安藤氏選定の「2016年 3歳牝馬番付」を発表したい。

 今年の3歳牝馬は、2歳GIの阪神ジュベナイルフィリーズ(2015年12月13日/阪神・芝1600m)を制し、年明けのクイーンC(1着。2月13日/東京・芝1600m)でも強い競馬を見せたメジャーエンブレム、そしてトライアル戦のチューリップ賞(3月5日/阪神・芝1600m)を勝ったシンハライト、2着ジュエラー、この3頭が抜けている。クイーンCも、チューリップ賞も、1分32秒台の好タイムをマークして時計的にも優秀。ここ数年の上位馬と比べても、3頭のレベルは相当高いと思うよ。

 その分、それ以下の馬たちとは大きな差がある。ゆえに、桜花賞(4月10日/阪神・芝1600m)も、オークス(5月22日/東京・芝2400m)も、おそらく勝ち馬はこの3頭の中から生まれるだろうね。

 世間的にはメジャーエンブレムの「一強」と言われているようだけど、自分はそんなふうには考えていない。スタートとか、レースの流れとか、ちょっとしたことで着順が入れ替わるような、そんなわずかな差しか、この3頭の間にはないと思っている。つまり、「断然」と言われているメジャーエンブレムにも付け入る隙がある、ということだ。

 今年の牝馬クラシック二冠は、「1強」ではなく「3強」の争いだと、自分は見ている。

横綱:メジャーエンブレム(牝3歳)
(父ダイワメジャー/戦績:5戦4勝、2着1回)

「1強」ではないとしても、横綱はやっぱりこの馬。何より性格がいい。だから、どんなレースでも確実に自分の競馬ができる、という強みを持っている。そんな総合力の高さで、他の2頭よりも上。

 自分はお父さんのダイワメジャーに乗っていたけど、(その父に)体つきも含めてよく似ている。お父さんのレースで自分がいつも考えていたのは、道中のペースを絶対にスローに落とさないこと。コンスタントにラップを刻んでいければ少しくらいハイペースでも押し切れるけど、瞬発力で劣る分、スローの切れ味勝負では分が悪かったからね。

 娘であるこの馬も、そういうところはあると思うよ。ゆえに、他の馬にハナを抑えられて道中スローに落とされ、最後の瞬発力勝負というレースに持ち込まれたりしたら、自分は危ないと見ている。

 それでも、桜花賞は勝つ可能性がかなり高いと思う。オークスはどうだろう......誰もが思っているように、距離延長には不安を感じるよね。

大関:ジュエラー(牝3歳)
(父ヴィクトワールピサ/戦績:3戦1勝、2着2回)

 牡馬相手のシンザン記念(1月10日/京都・芝1600m)で2着。そこで非常に強い競馬を見せて、以来、「この馬はきっと強くなる」と思って注目していた。そして実際、好メンバーがそろった前哨戦のチューリップ賞で2着。叩き合いの結果、ハナ差で敗れたものの、個人的には勝った馬よりもこの馬のほうを高く評価したい。

 というのも、ジュエラーのほうが馬格がある。こういう馬は、馬場状態とか、レース中にちょっとした不利があっても、それに左右されることなく自分の力を出し切れる。それに、競馬を使えば一戦ごとによくなるという特徴もある。たとえ桜花賞で敗れたとしても、オークスではあの渋い末脚が生かされるんじゃないかな。


関脇:シンハライト(牝3歳)
(父ディープインパクト/戦績:3戦3勝)

 この馬の強みは、チューリップ賞でも見せた鋭い末脚。あの切れ味は、牝馬ではこの世代ナンバー1と言っていい。同じ差し馬でも、重厚感があるジュエラーとは違って、シンハライトはスパッと鋭く切れる感じ。その差が、チューリップ賞の結果に出た。

 競馬が"ハマッた"とき、一番すごい脚を使えるのはこの馬。桜花賞がもしチューリップ賞と同じような展開になれば、この馬の切れ味が再び炸裂し、そのまま勝ち切ってもおかしくない。

 ただし、ジュエラーと比べると、この馬は若干ひ弱に見える。道中ごちゃついたり、不利があったりすると、力を出し切れないことがあるかもしれない。それが、ちょっと心配だね。あと、切れ味が鋭い分、馬場が渋ったときにどうなるのか、という不安要素もある。

小結:レッドアヴァンセ(牝3歳)
(父ディープインパクト/戦績:5戦2勝、2着2回、着外1回)

 上位3頭が強いから、逆転までは厳しいだろうけど、「3強」の次に名前を挙げるとすれば、この馬。チューリップ賞では、ジュエラー、シンハライトに次ぐ3番人気だった。結果は8着だったけれども、あのレベルの高いレースでそれだけ高い支持を得たわけだから、それなりの実力があると見るべき。

 実際、前々走のエルフィンS(2月6日/京都・芝1600m)を勝ったときの末脚には見どころがあった。チューリップ賞は馬体重の大幅減(マイナス14kg)が少なからず影響していたと思うし、体調さえ整えば巻き返せるはず。「3強」を脅かす存在になれるのか、楽しみはある。ただ、適距離はマイルよりもう少し短いところにあるかもしれない。その辺は気がかり......。


前頭筆頭:アットザシーサイド(牝3歳)
(父キングカメハメハ/戦績:4戦2勝、2着1回、着外1回)

 関西で行なわれたもうひとつの桜花賞トライアル戦、フィリーズレビュー(3月13日/阪神・芝1400m)は、ソルヴェイグが勝利した。レースを見る限り、そこから桜花賞で結果を出せそうな馬は見当たらなかった。それでも、上位入線の可能性があるとすれば、2着のアットザシーサイド。

 フィリーズレビューでは、勝った馬にうまく乗られた感じだね。それに、いかにも脚を余した、という印象。この馬にとっては、1400m戦はちょっと距離が短かったかもしれない。暮れの阪神JFでは5着と健闘。能力的には、まったく劣るというわけではない。伏兵として名前を挙げるなら、この馬になるだろうね。


安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo