メディアが取り上げない「旭天鵬」の優勝

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大相撲で、日本「出身」の力士が10年ぶり優勝――。今回の大関・琴奨菊の初優勝を、テレビや新聞はこんな見出しで報じた。

実は、2012年の夏場所で「モンゴル出身の日本人力士」が優勝している。04年に日本へ帰化した旭天鵬(現・大島親方)だ。「日本出身」にそれほどこだわる必要があるのか、という指摘も出ている。

旭天鵬の優勝に触れているのは読売新聞だけ

大相撲初場所は16年1月24日、両国国技館で千秋楽が行われた。琴奨菊は、大関・豪栄道との対戦。これまで琴奨菊は13勝1敗で、横綱・白鵬と平幕の豊ノ島が12勝2敗で追う展開。もし負ければ、優勝決定戦へもつれる可能性のある一番だった。

そんな中、琴奨菊は得意の型で豪栄道を破り、白鵬の結びの一番の結果を待つことなく自力で優勝を決めた。日本人力士としては、モンゴルから帰化した旭天鵬が2012年の夏場所で優勝して以来、3年8か月ぶりの優勝となった。

こうしたニュースを、テレビや新聞は「日本出身力士が10年ぶりの優勝」と報じた。確かに、「日本出身」力士の優勝は06年の栃東(現・玉ノ井親方)まで遡るのだが、多くのメディアが「日本人」力士である旭天鵬の優勝を、まるで「なかったこと」のように伝えているのだ。

全国紙5紙(朝日・読売・日経・毎日・産経)の25日朝刊のうち、旭天鵬が12年に優勝したことに触れているのは読売新聞だけ。ほかの4紙は「琴奨菊が日本出身の力士として10年ぶりの優勝を果たした」としか伝えていない。また、NHKでさえ、千秋楽の取組が終わった直後に「日本出身力士が10年ぶり優勝」という速報テロップを出し、以降のニュース番組でも同様の取り上げ方をしていた。

「『日本出身力士』とかいう表現は、違和感あるよなぁ...」

このように、「日本出身」をことさらに強調するメディアの姿勢に違和感を覚えた人は多いようで、ツイッターには、

「なんで普通に『旭天鵬以来の日本人力士の優勝』と言わないのか」
「『日本出身力士』とかいう表現は、違和感あるよなぁ...」
「日本出身力士の優勝っていう表現に違和感があるって意見は確かに理解できるけど。旭天鵬自身はどう思ってるんだろう」

などと批判的な投稿が寄せられている。

アナウンサーの森本毅郎さん(76)も25日放送のラジオ番組「森本毅郎・スタンバイ!」で、日本人力士の10年ぶりの優勝を自賛したいメディアが、旭天鵬の記録と区別するために「日本出身」という表現をあえて使っているとして、「そういう考え方でいいのかな」と疑問を呈した。

ただ一方で、「10年ぶりの日本出身力士の優勝を素直に喜べない窮屈な社会」「地元の選手が勝つと盛り上がるのは仕方がない」といった冷静な意見も少なくない。