途中出場の岩渕(16)が大仕事をやってのける。オーストラリアを下した日本がベスト4進出を決めた。(C) Getty Images

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 27日、女子ワールドカップの準々決勝でオーストラリアと対戦したなでしこジャパンは、87分のFW岩渕真奈の大会初ゴールで1-0と勝利し、ベスト4進出を決めた。

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 現地時間14時キックオフの一戦は、26度の気温と容赦なく照りつけるエドモントンの強烈な日差しによって、暑さとの勝負にもなった。しかし、試合をリードしたのはラウンド16から中5日で臨んだオーストラリアではなく、中3日でゲームを迎えた日本だった。
 
 この日はハードな守備が持ち味のボランチ、宇津木瑠美の長所が存分に発揮され、今大会3ゴールを奪っている相手FWカイア・サイモンらから確実にボールを奪取。強烈な突破力を誇るFWリサ・デバンナの高速ドリブルを封じる守備面のプランも効果を発揮した。
 
 また、攻撃面では中盤2列目の川澄奈穂美と宮間あやをタイミング良く使い、攻撃を組み立てた。そして過酷なピッチ上にいながら、どこの位置からスローインが始まってもボールを受けに行くFW大儀見優季の献身的なプレーがチームを助けた。
 
 正確なプレースキックでチャンスを作った宮間は、「苦しい時に声をかけ合って戦えた。でもそこまで難しいという試合ではなかった。得点の気配があったし、負ける気もしなかった」と、どこかで勝ち切れるだろうと試合中に考えていたと振り返る。
 
 後半に入っても攻め手を欠いたオーストラリアは、疲れの見えてきたデバンナをベンチに下げる。すると日本はより守備が安定し、途中出場の岩渕の決勝点へとつながった。
 この日、岩渕がピッチに立ったのは72分。猛烈なチェイスで相手最終ラインにプレッシャーをかけ続けたFW大野忍に代わって登場した。すると交代直後から日本のチャンスの幅をさらに広げるべく、果敢に前線で走り回った。
 
 岩渕の俊敏な動きは相手を翻弄し、運動量が落ちていたオーストラリアに大きな圧力をかけた。そして86分には、後方から受けたボールを左足でシュート。DFに当たって左CKとなるが、結果的にこのセットプレーから日本の決勝点が生まれた。
 
 宮間がCKをゴール前に入れると、オーストラリアのサイモンがヘディングでクリアするが、こぼれ球を拾った宇津木がシュート。そして混戦のなかでDF岩清水梓が粘り強くつなぐと、ボールはゴール前でフリーだった岩渕のもとへ。
 
 この試合の約24時間前、スタジアムで行なわれた前日練習後、岩渕は「途中出場で試合に入る選手はとても大切。フレッシュなプレーで試合を決める活躍をしたい」と話していたが、それが現実のものとなった。
 
 倒れ込みながらボールを右足でふかさないように流し込んだ次の瞬間、岩渕は雄叫びを上げ、彼女を中心に歓喜の輪が広がった。
 
「やっぱり途中出場の選手が頑張らないとダメ。私は代表での得点が多くないから、このチームに貢献できたことが良かった」
 
 試合後の岩渕は、少し照れながら白い歯を見せた。
 
「ここまで連れてきてくれたチームに、まずは感謝したい。(大会直前の国内合宿で)怪我をした右膝の状態をここまでにしてくれたドクターとスタッフにも感謝しかない。自分としても次につながる得点になったと思う。今日のゴールは特別なゴール」と話すその1点は、チームに勢いをもたらす大きな得点となった。
 
「自分の経験上、ベスト4からはじっくり試合に入って進めるよりも、勢いのあるチームが勝っていく。さらに自分たちのサッカーをバージョンアップさせていきたい」と、宮間も新しい勢いが生まれたことを静かに喜んだ。
 
 日本はベスト4でイングランドと対戦することが決定(日本時間7月2日の8時〜)。前回大会ではグループリーグで戦い、敗れている相手だけに苦戦は必至だろう。ただ、岩渕のゴールで生まれた勢いを手に、2大会連続の決勝進出、そして連覇へ一気に駆け抜ける準備はできた。
 
取材・文:馬見新 拓郎(フリーライター)