“我が家”とも言えるトップ下を任されているものの、両ウイング(特に宇佐美)が中央に流れてくるため、入れ替わるようにしてサイドに追い出されてしまう。ゴールに向かうプレーで沸かせたのは、左サイドに流れた8分と52分のシーンくらい。本人も課題に挙げるように、ゴール前に入っていく機会が極めて限定されていた。
 
 香川は狭いスペースでのボールコントロールが持ち味の選手だ。サイドに追いやるのでは宝の持ち腐れで、今のままでは左サイドで窮屈そうにプレーしていたザッケローニ体制の二の舞にもなりかねない。いずれにせよ、香川を“潤滑油”的なプレーで終わらせるのではなく、より輝かせるためにゴール前に押し出す手段を模索すべきだろう。
【エリア別検証/最終ライン】
 ロングボールを撥ね返し、裏へのフィードも概ね安定して処理していた最終ラインに危うさはなかった。特に身体を寄せて起点を作らせなかった吉田と槙野の2CBは、このレベルの相手であれば、問題なく対応できることを証明してみせた。ベンチには森重も控えており、今後のワールドカップ・アジア2次予選に限って言えば、中央の守備に不安は見当たらない。
 
 このセクションで課題を挙げるなら、やはりサイドだろう。左SBの長友は、初めて縦の関係を築いた宇佐美と上手く連係していたが、右SBの酒井宏は攻守ともにこれといったアピール材料がなかった。むしろ、ビルドアップの局面で出しどころを迷う節があり、守備でもセカンドボールへの反応が甘く、相手に先手を取られるシーンが見られた。
 
 こうした“危なっかしさ”を露呈した酒井宏を最後まで使い続けた理由は分からないが、他の候補者をテストしても良かったというのが率直な感想だ。
 
 例えば、指揮官自身が示唆した長友の右SB起用を実行し、左SBに好調な太田を入れても良かったし、SBでプレー可能な槙野をスライドして森重を投入する手もあった。
 
 いずれもテストせずに最終ラインを固定し続けたのは、コンビネーションを高めるためなのかもしれない。とはいえ、内田不在(右膝を手術)がしばらく続きそうな現状を考えれば、親善試合で複数の選手のパフォーマンスを確認すべきだったのではないか。ボランチより前の選手を総替えするよりも、不安が残るSBをテストしたほうが実りは多かったはずだ。
 
 少なくとも、ワールドカップ・アジア2次予選で後手を踏む展開は考え難いが、その先の最終予選では相手のレベルが上がる。チームとしてのバリエーションを広げるトライの優先順位は、前線よりもこのSBだと言えるかもしれない。
 
取材・文●五十嵐創(サッカーダイジェスト編集部)