早稲田実業vs早大学院
先発の嵯峨 悠希君(早大学院)
先の3回戦(試合レポート)で入学早々の1年生ながら3番打者としてデビューした早稲田実業の清宮 幸太郎君。翌日のスポーツ新聞は、広島の前田 健太の完封記事を差し置いて、一面を飾ったところもあった。それくらいの注目度の高い逸材ということも言えるのだろうが、その清宮君の存在と、“早稲田対決”という話題性もあって、スタンドは夏の大会以上ともいえる、満員となった。
そんな大注目の中での試合は、いきなり早稲田実業の猛攻撃で始まった。初回に一死二塁という場面で清宮君に打席が回ってきたのだが、内側のストレートを捉えて強烈に一塁線を破る先制の二塁打となった。これで火がついた早稲田実業打線は、続く加藤 雅樹君も右前へタイムリー打。さらに四球後、富田君の中前打、渡辺大君の中越二塁打、さらに山田君の中前打と続いて6点が入った。ここで早大学院の先発嵯峨 悠希君はマウンドを降りることとなった。
早大学院の木田茂監督は就任して6年目となるが、今回で3度目の早稲田対決となった。野球の実績では早稲田実業が優っているだけに、早稲田大の直系付属校の早大学院としては、「何としても早稲田実業に一泡吹かせたい」という思いが強い。木田監督も、その気持ちで迎えた3度目の対決である。
先発の嵯峨君に関しては、「早稲田実業との対戦になったら、先発は行くぞ」ということは伝えていたという。というのも、実は嵯峨君は早稲田実業志望だったところを木田監督が強引に誘うような感じで、早大学院に迎え入れたという経緯があったからだ。だから、その思いも込めて、早稲田実業戦の先発を託したのだった。
嵯峨君は、昨秋は二松学舎大附と延長15回を1失点のみで投げ切ったという実績(試合レポート)もある投手なのだが、いくらか意識のし過ぎもあって、やや気負いというか力みがあったことは否めなかった。
5打数3安打の清宮 幸太郎君(早稲田実)
「やっぱり、意識しすぎたのかなぁ。(リリーフの)柴田には、早めに準備をしておくようにということは伝えていたのですけれども、まさか、1回からということになるとは思っていなかったですからね。3回戦はいい試合でしたから、今日も気持ちよく試合には入れたと思ったんですけれども…、打線も中軸が機能しませんでした。また、夏へ向けて準備し直しです」と、三度目の正直ならなかった木田監督だが、まだまだ「早実を倒す」という意識は持ち続けて、再チャレンジを目指したいという。
早稲田実業は、3回にも柴田 迅君を攻めて清宮君、加藤君の安打に押し出しなどもあって2点を追加。そして、5回には4番の加藤君が一塁に右前打の清宮君を置いて、2ラン本塁打して、完全にとどめを刺した。清宮君は5打数3安打で、すべて右方向への打球だったが、打ち損じた2つの二塁への飛球も高く上がっていた。これは、やはりスイングスピードの速さを物語っているといっていいだろう。また、一塁手として、守りでも柔らかさと反応の良さを見せていた。
また、7回にはやはり1年生の服部君を投入。先頭の久永君に中前打を浴びて、失策もあって走者を三塁まで進めたのだが、最後はきっちり打ち取った。
こうして、3回戦から出場可能になった新1年生が出場して、試合をまとめていく早稲田実業。和泉実監督は、「上級生が自然に、新入生にやりやすい雰囲気を作っていっていると思います。(主将の)加藤が自分も1年生の時から出ていますから、そういう雰囲気づくりの大事さを知っているのだと思います」と、チームのまとまりと雰囲気の良さを強調していた。
また、清宮君に関しては、「まだ、入ってきたばかりですから…。ただ、身体のしなやかさ、柔らかさは天性のものも含めて、お父さんやお母さんが育ててきたこともあるのではないでしょうか。私が今まで見てきた選手の中でも、一番の打者だと思います」と、ラグビートップリーグのヤマハの監督でもある父親が幼少時から、きちっとして身体づくりをさせながら育てていたこともあるということである。
2ラン本塁打を放った加藤 雅樹君(早稲田実)
この日は本塁打も含めて、4打数4安打だった加藤君は、早稲田対決に関しては、「向こうもWASEDAのユニフォームで、何かちょっと違和感はありましたけれども、野球でワセダと言えば早稲田実業なので絶対に僕たちは負けられないという意識でした」と、ほぼ同一ユニフォームでの戦いの感想を述べていた。
両方の応援席から「紺碧の空」と「コンバットマーチ」が流れてきていたが、早稲田実業と早大学院の微妙な違いは、応援席で言うと早稲田実業はチアリーダーがいるということだ。そして、校歌は早大学院は「都の西北 早稲田の杜に…」だが、早稲田実業は「都の戌亥 早稲田なる…」から始まる。
ユニフォームに関しては、早稲田実業は左袖口に“実業”を示す「B」の文字が入っているが、早大学院は何も書かれていない。「WASEDA」の胸文字の位置が微妙に違っていて、早稲田実業は「S」の字が、ボタンのラインにかかるのだが、早大学院はボタンのところで「WAS」「EDA」と分かれている。また、帽子も早稲田実業はやや平べったく型のつくものだが、早大学院は大学と同じで丸型のものとなっている。
こうした差異も、それぞれのこだわりと言ってもいいであろう。これもまた、高校野球の楽しみの一つと言ってもいい。
(文=手束 仁)