吉田松陰を演じるのが伊勢谷友介で良かった「花燃ゆ」4話
大河ドラマ「花燃ゆ」(NHK日曜夜9時〜)、1月25日放送の第4話「生きてつかあさい」は、嘉永6年(1853年)、吉田松陰〈寅次郎〉(伊勢谷友介)が黒船に乗り込もうと試みるも失敗、国禁を犯した罪で江戸、伝馬町の牢に投獄されてしまう。
文(井上真央)をはじめとして、家族たちは寅次郎のことを考えると、いてもたってもいられない。伊之助(大沢たかお)は寅次郎を救うため奔走し、寅次郎がまず入れられた平滑(静岡県下田市)の獄の番人から、黒船に乗ろうとした時の様子を訊く。
翌、嘉永7年(1854年)、伊之助と寿(優香)の長男誕生と同じ頃に、寅次郎が萩に返されることになった。ペルリが公儀にとりなしてくれたのだ。
だが、大罪を犯した息子をそのままにはしておけないと、父・百合之助(長塚京三)は、責任をとって切腹することを考えていた。
父のいつもと違う様子に気づいた文(井上真央)は止めようとする。幸い、寅次郎は萩の野山獄に入ることになり死刑を免れたため、百合之助の切腹願いも差し戻された。
ただ、野山獄に入ったら二度と外に出る事はできない。父に「自分のできることをやれ」と諭された文は、獄中の兄に外の情報を伝える決心をする。
第4話は、破滅へと突き進むような危うい寅次郎への、家族の思いや対応が描かれた。父・百合之助と長男・梅太郎(原田泰三)は切腹しようとまで思い詰め、文は受け身でなく何かしら行動したいと心を逸らせる。母・滝(壇ふみ)はどんな時でも大らかだ。
中で、梅太郎の妻・亀(久保田麿希)の行動が印象的に描かれていた。
寅次郎のために奔走して帰宅した梅太郎が、切腹を考えていることを察した亀は、ふいに「おかえりなさい」といたわる。それによって、梅太郎は刀をそっと離す。(深く考え込んでいる原田泰三のアップのアングルがかっこ良かった)
夫の切迫した状態について直接的に言及しないで、ただただ、この家に必要な存在なのだという思いを伝える、まったく良くできた妻である。歌舞伎や時代劇で、武士の妻がさりげなく夫を支える名場面があるけれど、この昔ながらの夫婦の描き方は、年配の視聴者に大いに好感をもたれたことだろう。
滝は滝で、いつも「世話ない」(大したことない)と言ってくよくよしない人物だが、夫・百合之助にさりげなく心を砕いている。
今のところ、寿だけが、母になって少し意識が変わったとはいえ、夫・伊之助のことをあまり見てあげていないふうに書かれている。お父さんの様子にも全然気づいてなかったし。もっとも文の勘の良さを描くためには、寿がそういう役割を担うしかないという事情もあるのだろう。
そういうわけで、文の勘の良さがこの回も発動。父・百合之助が切腹を覚悟していることを感じてなんとか止めようとする。
「花燃ゆ」が地味な印象をもたれがちなのは、女性が主役でも、決して前に立たず、あくまで一歩引いて相手を見つめ、力添えすることを描いているからだが、今後、文は伝書鳩のように橋渡し役に徹するとしたら、地味過ぎる。
とはいえ、兄の手足になろうと、せっせと見聞を広げる妹って、小鳩のような、幸せの王子のツバメのような、かわいいイメージもいいかもしれないが。
家族をこんなにも振り回す困ったちゃんの寅次郎ではあるが、彼もまた、子供の生まれる伊之助を自分の無謀に巻き込まないようにする配慮はもっている。
さて、4話では、獄中で学問の大切さを熱く語った寅次郎。
演じている伊勢谷友介が吉田松陰役としてハマっていると思うところは、他者を言葉で巻き込んでいく場面だ。
伊勢谷は俳優だけでなく、監督業や事業をやっていて、かなり言葉の立つ人物だ。彼が代表をつとめる会社リバースプロジェクトのサイトに記された『「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」と言う命題のもと、私たち人間がこれまでもたらした環境や社会への影響を見つめなおし、未来における生活を新たなビジネスモデルと共に創造していくために活動。』というビジョンを読むと、高い理想を掲げて活動していることを感じる。
確固たる思想や言葉をしっかりもって活動している伊勢谷の姿と日本の未来を切り拓こうとする吉田松陰がうまく重なったいいキャスティングだと思う。もちろん、俳優は自分と違う人物を演じるものではある。外観を変えることはできるし、感情も喜怒哀楽は誰しももっているものなのでなんとかなる。だが、体験は誤魔化しにくく、知性や教養を醸すのはなかなか難しいものだ。今回は、ある程度のポテンシャルをもった伊勢谷で良かった。英語もうまいし。
(木俣冬)
文(井上真央)をはじめとして、家族たちは寅次郎のことを考えると、いてもたってもいられない。伊之助(大沢たかお)は寅次郎を救うため奔走し、寅次郎がまず入れられた平滑(静岡県下田市)の獄の番人から、黒船に乗ろうとした時の様子を訊く。
翌、嘉永7年(1854年)、伊之助と寿(優香)の長男誕生と同じ頃に、寅次郎が萩に返されることになった。ペルリが公儀にとりなしてくれたのだ。
だが、大罪を犯した息子をそのままにはしておけないと、父・百合之助(長塚京三)は、責任をとって切腹することを考えていた。
父のいつもと違う様子に気づいた文(井上真央)は止めようとする。幸い、寅次郎は萩の野山獄に入ることになり死刑を免れたため、百合之助の切腹願いも差し戻された。
ただ、野山獄に入ったら二度と外に出る事はできない。父に「自分のできることをやれ」と諭された文は、獄中の兄に外の情報を伝える決心をする。
中で、梅太郎の妻・亀(久保田麿希)の行動が印象的に描かれていた。
寅次郎のために奔走して帰宅した梅太郎が、切腹を考えていることを察した亀は、ふいに「おかえりなさい」といたわる。それによって、梅太郎は刀をそっと離す。(深く考え込んでいる原田泰三のアップのアングルがかっこ良かった)
夫の切迫した状態について直接的に言及しないで、ただただ、この家に必要な存在なのだという思いを伝える、まったく良くできた妻である。歌舞伎や時代劇で、武士の妻がさりげなく夫を支える名場面があるけれど、この昔ながらの夫婦の描き方は、年配の視聴者に大いに好感をもたれたことだろう。
滝は滝で、いつも「世話ない」(大したことない)と言ってくよくよしない人物だが、夫・百合之助にさりげなく心を砕いている。
今のところ、寿だけが、母になって少し意識が変わったとはいえ、夫・伊之助のことをあまり見てあげていないふうに書かれている。お父さんの様子にも全然気づいてなかったし。もっとも文の勘の良さを描くためには、寿がそういう役割を担うしかないという事情もあるのだろう。
そういうわけで、文の勘の良さがこの回も発動。父・百合之助が切腹を覚悟していることを感じてなんとか止めようとする。
「花燃ゆ」が地味な印象をもたれがちなのは、女性が主役でも、決して前に立たず、あくまで一歩引いて相手を見つめ、力添えすることを描いているからだが、今後、文は伝書鳩のように橋渡し役に徹するとしたら、地味過ぎる。
とはいえ、兄の手足になろうと、せっせと見聞を広げる妹って、小鳩のような、幸せの王子のツバメのような、かわいいイメージもいいかもしれないが。
家族をこんなにも振り回す困ったちゃんの寅次郎ではあるが、彼もまた、子供の生まれる伊之助を自分の無謀に巻き込まないようにする配慮はもっている。
さて、4話では、獄中で学問の大切さを熱く語った寅次郎。
演じている伊勢谷友介が吉田松陰役としてハマっていると思うところは、他者を言葉で巻き込んでいく場面だ。
伊勢谷は俳優だけでなく、監督業や事業をやっていて、かなり言葉の立つ人物だ。彼が代表をつとめる会社リバースプロジェクトのサイトに記された『「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」と言う命題のもと、私たち人間がこれまでもたらした環境や社会への影響を見つめなおし、未来における生活を新たなビジネスモデルと共に創造していくために活動。』というビジョンを読むと、高い理想を掲げて活動していることを感じる。
確固たる思想や言葉をしっかりもって活動している伊勢谷の姿と日本の未来を切り拓こうとする吉田松陰がうまく重なったいいキャスティングだと思う。もちろん、俳優は自分と違う人物を演じるものではある。外観を変えることはできるし、感情も喜怒哀楽は誰しももっているものなのでなんとかなる。だが、体験は誤魔化しにくく、知性や教養を醸すのはなかなか難しいものだ。今回は、ある程度のポテンシャルをもった伊勢谷で良かった。英語もうまいし。
(木俣冬)