千葉県市川市でも政務活動費の不正支出不疑惑が持ち上がっている

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176万円の切手代が“ポケットマネー”に化ける

「本当に誰が投票しても一緒や、俺が、立候補して、この世の中を、うははあーん世の中を、変えたい!」

 2014年、会見で突如号泣、世間を驚かせた元兵庫県議の野々村竜太郎氏。事の発端は、県議に与えられる政務活動費において不自然な支出が発覚したことだった。野々村氏は、カラ出張などのほか、「切手代」として約176万円分もの金額を計上していた。

 政務活動費とは、議会の会派または議員に対して支給されるもので、議員活動に関する費用が支出として認められる。各自治体の条例によって異なるが、書籍や新聞の購入費、議員研修会への参加費、各地の視察費、事務所費などが該当する。3月期に収支報告書の提出が義務付けられており、余剰金は返還せねばならないとも定められている。

 これには抜け道があり、切手を大量購入して選挙区の支援者らにアンケートなどを郵送したと見せかけ、その切手を金券ショップなどで現金に還元すれば、その切手代を丸々と自分の“ポケットマネー”にすることも可能なわけだ。

第二の「野々村事件」が千葉県・市川市で……

 議員が正しく政務活動をしているかを調査する市民オンブズマンらにより、政務活動費の不正使用を明らかにされた野々村元県議だったが、なんと千葉県の市川市議会でも「第二の野々村事件」と言われる切手騒動が持ち上がった。

 市川市の騒動が世間に広まったのは2014年12月16日。市川市議会議員の不正使用疑惑を正すべく一部の議員らが議会の延長を求めたところ、こともあろうに議長と副議長が閉会3分前に姿を消した。議会をバックれた議長と副議長も、政務活動費で切手を購入していたとされる。

 ある会派など、アンケート調査の名目で1万5千枚もの切手を買っている。切手を貼る手間を省くために「料金後納郵便」があるが、疑惑をもたれた一部の議員は「郵便局にやってもらうより、自分で貼るほうが気持ちも伝わる」などと語っている。

 市川市の不正購入疑惑を暴いたサイトでは、3年ほど前からの政務活動費の実態がつづられ、政務活動費で切手を購入した数名の議員が実名で挙げられている。なかには本当に使用した議員もいたかもしれず、また、使用用途を調べようもないため「限りなくクロに近いが、切手を使っていないという証拠もない」と言われている。

 野々村元議員が所属した兵庫県議会でも、野々村氏以外に数名の議員による切手大量購入が明らかになっている。どうも、政務活動費での切手大量購入は全国的な常套手段であるようだ。

切手“購入議員”と“非購入議員”の泥仕合に発展

 12月24日に臨時議会が開かれ、不正購入について質そうとした市川市議らは、百条委員会の設置を求めた。百条委員会とは、地方公共団体の事務に関する調査を行う特別委員会の一つで、証言や資料提出拒否に際し禁固刑を含む罰則が設けられており、ウソの証言をすれば刑事罰となる。また、正当な理由がなく出頭しなければ6カ月以下の禁固刑や罰金に処せられる。

 ところが、切手不正購入疑惑でやり玉に挙げられた議員らが「相手議員らの支出が適正かどうか」を調査する百条委員会の設置を求めた。“切手購入議員”と“非購入議員”それぞれの対象議員らが除斥された上での採決となり、両者とも可決。2つの百条委員会が設置される前代未聞の事態となった。両陣営が泥沼のバトルを繰り広げているのだ。

 これに対し、市川市長は「議会内の調査では市民の疑念は取り除けない」と外部監査組織を設置。また市議会議長と副議長はそれぞれ辞職、年明け1月14日の議会で新たな議長に「非購入会派所属」の議員が就任、副議長は「購入会派所属の議員」が就任した。

 2つの百条委員会設置に賛成した某市議(非購入議員)は、筆者の取材に対し「この手法は聞いていたし、切手を買っている議員の話も耳にしていた。今回は膿を出すいい機会」と語ってくれた。

「そんな行為(切手購入)はやめておけ、と某議員に言ったら『大丈夫』と答えていた。限りなくグレーに近いが、不正に使ったという証拠もない」

「全国の議会でやっていることだ」

 など、市川市の関係者は口々に語る。「不正使用はもちろん良くないが、市議会議員なら市民のための仕事をするべき」と語るのは、切手を買うこともなく、同僚議員の不正を暴くこともなく、市民のための政治活動に精を出す前出の某市議だ。

 4月には統一地方選挙が控えている。市川市の選挙結果は注目を集めそうだ。

(取材・文/後藤豊)