正社員をなくして本当に困るのは誰か|雇用流動化社会〜もうひとつの側面〜
【ゲイリーマン発 日本のリアル】
少し前のニュースにはなりますが、竹中平蔵氏が朝生で「正社員をなくしましょう」発言をし、賛否が集まりましたね。あちこちで取り上げられていましたので、耳にした方も多いと思います。
ただ、この発言が発せられた文脈をよく見ると「同一労働・同一賃金と言うんだったら、『正社員をなくしましょう』って、やっぱり、あなた、言わなきゃいけない」こう言っています。
筆者はこの番組を見ていませんでしたが、恐らくあの番組に出演している辻元清美議員が所属する民主党が、正社員と同じ仕事をしている非正規雇用労働者の賃金を正規雇用者と同一にする、いわゆる同一労働・同一賃金を掲げていることから、辻元議員とのやりとりで発した言葉だったのではないかと思われます。
筆者は求人広告の仕事や人材会社にて広報やPRの仕事もしておりましたので、今回は「雇用」をテーマに記事を書きたいと思います。
雇用流動性の高い世の中とは?労働の問題になると、いろいろな感情が絡んで激しい論争が起きやすいですが、竹中氏や経団連や有名な企業の経営者の多くは、こうした解雇規制緩和を推進し、雇用流動性の高い世の中が好ましいという旨の発言を度々あちこちでしています。
ただ「雇用流動性の高い世の中」とは、簡単に言えば「今よりも転職が当たり前の世の中」ということになります。でも、解雇規制緩和派の人たちは、どうも本音では「使えない人材を合法的にクビにしたい」なんて思っていて、それはあまりに下品な表現なので「雇用流動性の高い社会を」と言っている節がどこかにあるのではないでしょうか。
経営者側にも覚悟が必要安倍政権は限定社員の創設を提案したり、一度頓挫したホワイトカラーエグゼンプションに本格的に着手したりと、明らかに雇用流動性の高い世の中を目指しています。確かに暮らしが安定しないと個人消費は低迷しますし、不安も多い社会となり、働く側として受けるデメリットが非常に強調されがちです。
ただ、あまりこの議論で注目されないのが経営者側のデメリットです。
以前に一度、サイバーエージェント社長の藤田晋さんが、手塩にかけて育て、大きなチャレンジをさせてあげた社員が他社から引き抜きに遭ってあっさりと同社を退職したことに怒り心頭し、ネット上に感情をぶちまけてしまったことが話題になりましたが、こうしたトラブルが増えることもよく認識しておかなければなりません。
今より転職が当たり前な世の中になれば、今以上に中途の求人や転職エージェントが増え、ヘッドハンティング事業なども活発になるでしょう。経営者側から見ると、使えない人材を簡単に解雇できるようになる代わりに、本来は自社にいて欲しい人材に退職されてしまうリスクも同時に抱えることになります。
自社にいてほしい人材がヘッドハンティングに遭ったとき、引き止めるためにお給料を上げなければならないかもしれません。優秀な人材の獲得競争が激化し、採用費に今以上に莫大な費用がかかる可能性もあります。「雇用流動化=人件費が削減できる」と考えている人がいたとしたら、それは少し短絡的過ぎる発想で、結局のところ人件費にかかる費用の総額は今とそんなに変わらないのではないでしょうか。
なぜゲイの筆者がこの問題を語るのか筆者は一都市生活者のゲイです。現在日本では同性同士の結婚も認められていませんし、婚姻に準じたパートナー制度も存在しません。当事者の中でもこうした制度の創設に賛否が渦巻いている状況ですし、おそらくこのまましばらくは、社会的には独身男性としてずっと自分の生活は自分で面倒を見、しっかり自立して生きていかなきゃならない可能性は非常に高いです。
結婚や出産、子供の成長と言ったライフコースが用意されていない分、他にいろんな楽しみを見つけていきたいと筆者は考えていますし、その人生の楽しみ方の一つが「仕事」であっても良いのではないかと思います。
新卒で入った会社が本当に自分に合っていたら、それは非常に幸せなことだと思います。ただ、世の中そうとばかりは行きません。学生の頃に想像する「仕事」と、実際の「仕事」は全然違うし、社会人になってから自分の本当にやりたいことに気付く例だってたくさんあります。
また、私達特有の問題で言えば、結婚しないとある役職以上にはなれない、とか、独身者が何かと割を食う制度だとか……、そういうことって外部に大っぴらにされている情報ではないから、入ってから気付くことだってよくあると思います。
こんなシチュエーションに陥ったときに、今以上に自由に転職ができる世の中だったら、少しは救われる人だっているのではないでしょうか。
今後、現政権は雇用流動化を進めることは既定路線です。だからこそ状況をプラスに捉えて、そんな世の中を強く楽しく生きていく方法を考えて行きたいですね。
著者プロフィールゲイライター
英司
東京・高円寺在住のアラサーゲイ。ゲイとして、独身男性として、働く人のひとりとして、さまざまな視点から現代社会や経済の話題を発信。求人広告の営業や人材会社の広報PR担当を経て、現在は自社媒体の企画・制作ディレクターとして日々奮闘中。都内のゲイイベントや新宿二丁目にはたびたび出没(笑)
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