エネルギー自由化の波は止められない

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 2015年はエネルギー自由化が大きく前進する年だ。2016年の電力の小売り全面自由化に向け、各電力会社が広域系統運用機関を設立する。一方、エネルギー自由化の波は都市ガスにも及んでいる。経済産業省は2017年からガスの小売りの自由化に向け、法整備を急いでいる。

 前回の記事では、都市ガス自由化に際し、導管事業会社と小売り会社の法的分離に対し、日本ガス協会などが猛反発しているとレポートした。その背後には”利権”とも言える「導管部門」の不透明で莫大な人件費の問題がある。

 都市ガスの導管の建設費や管理のコストが総括原価という形で都市ガス料金に上乗せされてきたということは、利用者がそれらを負担してきたことになる。都市ガス会社は資産を切り崩すなど自分たちの腹を痛めることはなかったのだ。

まかり通るガス会社の高飛車な商売

 結局、導管は利用者にとっての「公共財」のようなものであり、その開放で適正な競争が促され、都市ガス料金の値下げなどのメリットを享受できるのなら利用者はウエルカムなはず。この問題をウオッチしている経済紙の記者は「電力が法的分離に進もうとしているなか、都市ガスも最終的にそれにならう形になるはずだ」と見ている。

 しかし、なぜ法的分離が求められているのだろう。現状における問題点として筆頭にあげられるのが、導管事業の“ブラックボックス化”である。いまでも、電力会社などが都市ガス会社の導管を利用したガスの販売はできる。その際には都市ガス会社に託送料金を支払うのだが、その算出根拠が不透明だとの批判の声が根強くある。「本体と切り離した『会計分離』が行われ、そこで託送供給に関わる原価を算出して決まる。しかし、外部からは細かい検証のしようがなく、小売り事業での人件費の一部がつけ回されたり、都市ガス会社にとって有利な託送料金になっているのではないか」といった懸念の声があがっているのだ。

 また、都市ガス会社に導管での託送を依頼する際のシステムの使い勝手の悪さも批判の的になっている。申し込みをしてからOKかどうかの判断が出るまでに、なんと2カ月もかかる。さらに、検討してもらうための費用が1回につき20万円もとられてしまうのだ。

 本来、導管は公共財であるはずなのに、形式上握っている「強者」だからこそできる高飛車な商売といっても過言ではないだろう。そんなことだから、導管の完全開放、法的分離に向けた圧力が強まるばかりなのだ。

東京ガス野球部の福利厚生費もガス代に転嫁

 実は、総括原価にまつわる面白い話がある。この総括原価には「福利厚生費」も含まれているのだ。福利厚生費は、従業員への結婚祝い金や出産祝い金、食事代の補助費などのことで、同好会やサークルなどの補助費もその一部となる。

 東ガスや大ガスの野球部は都市対抗野球のベスト8によく顔を出す強豪チームなのだが、もちろんその部の運営費も総括原価に含まれ、利用者が支払う都市ガス料金で賄われている。いくら「ウチの野球部は強いですから」といわれても、利用者にしてみたら素直には喜べない気がしないだろうか。

 また、こんな話もある。業界関係者は言う。

「その都市対抗野球の2013年の準々決勝で東ガス対JX-ENEOSの組み合わせがあった。石油は電力、ガスに先駆けて自由化されており、いみじくも『総括原価 VS 自由化』の戦いになったわけだ。その結果がどうだったかというと、3対4でJX-ENEOの勝ち。東ガスをはじめ大手都市ガス会社がいくら抗っても、自由化の波を押し戻すことはできない……それを象徴した試合だったと思う」

 エネルギーの自由化というと電力ばかりに目が向きがちだが、このガスの動きも注視していく必要がありそうだ。

(取材・文/松本周二 Photo by gfpeck via Flickr)