加速する地銀再編…経営統合のカギを握るのは「頭取の学歴」
地方銀行の統合をめぐるニュースが相次いで飛び込んだ。横浜銀行と東日本銀行(東京都)は11月4日、肥後銀行(熊本県)と鹿児島銀行は7日、いずれも「経営統合に向け交渉中」と報じられた後、肥後・鹿児島は10日、基本合意に達したことを発表した。
株価は各行とも跳ね上がった。報道前日と11日終値を比較すると、横浜銀3.7%▽東日本銀12.9%▽肥後銀3.4%▽鹿児島銀5.5%――値上がりしている。金融庁は全国に106行乱立する地銀の再編を後押ししており、今後も統合が続くという見方が支配的だ。
「次はどこか」を予想するカギは、今回の統合ペアに現れている。地銀統合を細かくフォローしてきた金融や報道関係者は、両組には「隣接する都県の地銀同士」以外に共通点があることにすぐ気付いたはずだ。
地銀統合の共通点は「頭取の経歴」頭取の学歴や職歴だ。横浜銀の寺澤辰麿頭取は1971年、東日本銀の石井道遠頭取は74年、いずれも東大法学部を卒業した。大蔵省に入省して国税庁長官を務めた経歴も同じだ。また、肥後銀の甲斐隆博頭取と鹿児島銀の上村基宏頭取は75年、慶大商学部を卒業し、それぞれ今の勤務先に就職している。
では、頭取の経歴に一致点がある、他の地銀ペアを探せばよい。地銀106行の全頭取の出身大学と就職先を調べたところ、興味深い組み合わせがあることが分かった。結果から述べると、一致点が多い組み合わせは九州・中国地方に集中する。
肥後銀・鹿児島銀の両頭取は慶大商75年卒と述べた。実は同じ九州に慶大75年卒の地銀頭取があと1人いる。大分銀行の姫野昌治頭取だ。商学部ではなく経済学部だが、同じ75年に卒業している。しかも鹿児島銀と大分銀は三菱UFJフィナンシャルグループ(FG)の親密行である。
慶大出身者は同窓会組織「三田会」の会合や慶應義塾評議員の選挙活動などを通じて、密接な交遊関係を続けることで知られる。頭取の学歴から予想するに、肥後銀・鹿児島銀に大分銀が加わっても不思議ではない。
九州には慶大75年卒は他にいないが、76年経済学部卒ならいる。福岡銀行の柴戸輶成頭取だ。福岡銀行は親和銀行(長崎県)と熊本銀行とともに、国内最大の地銀グループ「ふくおかFG」の傘下行。三菱UFJ FGの親密行である点は、鹿児島銀や大分銀と同じだ。
さらに柴戸頭取と山口銀行の福田浩一頭取は、慶大経済学部76年卒である点で一致する。山口銀が本社を置く下関市は、福岡銀のテリトリーである北九州市の隣町だ。両市を隔てる関門海峡は幅1キロに満たず、北九州市の門司港から下関市の唐戸を結ぶフェリーの所要時間は片道5分にすぎない。
山口銀は北九州市に支店を設けて営業活動をしてきた。ところが2011年、北九州市の指定金融機関に選ばれるには他県に本社があっては不利だとして、同市内の支店を分離、北九州銀行を新たに設立した経緯がある(山口銀、北九州銀はいずれも「山口FG」100%子会社)。
つまり、ふくおかFGと山口FGはライバル関係にある。両グループの主力行は慶大経済76年卒で一致するが、統合は難しいかもしれない。
だが、中国地方には福岡銀にとって魅力的な候補行がある。慶大商学部77年卒の池田晃治頭取が率いる広島銀行だ。福岡銀とは三菱UFJ FGの親密行である点で一致するほか、勘定系システムを共同利用するほど付き合いが深い。両頭取が話し合う機会も少なくないに違いない。
実は山口FGの傘下には広島県を地盤とするもみじ銀行があり、広島銀とはライバル関係だ。つまり、福岡銀にとって広島銀は?敵の敵?の関係となり、統合するメリットと感じられるかもしれない。
濃厚な青春を送った西日本シティ銀と福岡銀の両頭取慶大閥以外にはどうか。気になる存在は西日本シティ銀行(福岡県)の谷川浩道頭取だ。西日本シティ銀は04年に西日本銀行と福岡シティ銀行が合併して成立した。今年中に長崎銀行を100%子会社にする予定があるなど、規模拡大に意欲的だ。
谷川頭取の略歴は、福岡県立修猷館高から東大へ進み、法学部を76年に卒業後、大蔵省というもの。九州には東大法76年卒がもう一人いる。豊和銀行(大分県)の権藤淳頭取だ。卒業後は三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に就職した。
東大出身者は慶大OBほどには同窓意識が強くないかもしれない。だが、同じ九州出身者として学生時代から面識があった可能性もある。また、佐賀共栄銀行の二宮洋二頭取(一橋大経済75年卒)は元大蔵官僚として谷川頭取と接点はあるだろう。
もう一つ気になるのは、西日本シティ銀・谷川頭取と福岡銀・柴戸頭取の関係だ。二人は福岡県立修猷館高の同期生なのだ。2年ほど前、同高校のOB人脈を取材するため、ある上場企業の社長に取材依頼したことがある。
「多忙につき経営に関する取材なら断るが、修猷館についてだったら時間を作る」と会ってくれた。社長によれば、同窓会活動はかなり盛んで、東京の年次総会には500人以上集まるという。取材当時、NEXCO西日本会長兼社長だった西村英俊氏(故人)や朝日新聞社元社長の箱島信一氏らと経営論を交わしたことがあると言っていた。
「入学直後、上級生から『館歌』をがなり立てられ、度肝を抜かれる。3年生になると1年の半分は勉強そっちのけで運動会の準備に没頭」するという校風。西日本シティ銀と福岡銀の両頭取は、濃厚な青春を送ったはずだ。九州で地銀再編を主導する両グループは、まさしく人脈のハブなのだ。
(取材・文/谷道健太)