東海大菅生、8回逆転で18年ぶり2回目の優勝

 天気予報は雨。午前中にもかなり強い雨が降り、開催が危ぶまれたが、試合が始まる頃には、太陽も顔をのぞかせる中で、決勝戦は行われた。

先制の三塁打を放った橋本雅弥(二松学舎大附)

 ただ、試合が中止にならなかったことで、前日の準決勝で延長11回172球を投げた(試合レポート)二松学舎大附の大江 竜聖、9回完投で126球を投げた(試合レポート)東海大菅生の勝俣 翔貴にとっては、連投による疲労が懸念された。

 ところが、二松学舎大附の1年生エースの大江は、立ち上がりから低めに力のある球を投げ込み、序盤3回を被安打1、奪三振5と、東海大菅生打線を封じ込んだ。「大江投手はもう少し疲れがあるかと思っていましたが、前の日よりむしろいいくらいでした」と、東海大菅生の若林弘泰監督は語り、驚きを隠せない。

 一方、東海大菅生の勝俣は、「決勝戦ということは意識せず、初戦のつもりで投げました」と語るものの、球が今一つ走らない。ピンチは3回表に訪れる。

 一死後、打席には打撃好調の1番三口 英斗。三口のセンター返しの打球を、東海大菅生の中堅手が処理を誤る間に三口は二塁へ進んだ(記録は単打と中堅手の失策)。さらに続く島根寛人の右前安打で一死一、三塁。二死後、今大会打撃の調子が良くなかった4番の橋本雅弥が右中間を破る三塁打を放ち、二松学舎大附は2点を先取し、試合の主導権を握った。

 二松学舎大附は5回表にも、三口の中前安打、北本 一樹の右前安打に、北本の盗塁などで二死二、三塁のチャンスをつかむが、ここは、東海大菅生の勝俣が踏ん張った。すると勝俣は、後半はスライダーのキレが増し、二松学舎大附の打線を封じる。それが、東海大菅生の反撃を呼ぶことになる。

 6回裏東海大菅生は、2番小川貴広、3番勝俣の左前安打などで、二死一、三塁のチャンス。打席には3番勝俣、4番江藤勇治に比べ、今大会当たりが出ていなかった5番の伊藤壮汰。前の打席でも左前安打を打っている伊藤は、今度は、右中間に安打。小川が生還して1点を返した。

完投勝利を挙げたエース勝俣翔貴(東海大菅生)

 好調な投球を続けていた大江であるが、前日からの疲労もあるのか、徐々に球に力がなくなってきた。そして試合を決めるヤマ場が、8回裏に訪れる。

 この回、東海大菅生の攻撃は、1番の澤田翔人から。打順を考えると、東海大菅生はこの回で追いつかないと、厳しいのは間違いなかった。しかし1、2番はあっさり倒れて二死に。打席には、打撃でもチームの柱である3番の勝俣。一発を狙いそうな場面であったが、勝俣は、「大きいのを狙わずに、コンパクトにセンター返しすることを考えていました」と、語る。

 その通りの中前安打で勝俣が出塁すると、4番江藤は死球で一、二塁。5番伊藤は、今日3安打目となる左前安打で、勝俣が生還して、同点に追いついた。さらに6番本橋実生の二遊間の当たりは内野安打となり、江藤も生還して、東海大菅生が逆転した。

 同点打の伊藤、逆転打の本橋は、東海大菅生のスタメンで2人だけの1年生。東海大菅生の若林監督は、「(二松学舎大附の大江とは)同じ1年生なんだから、打ってこい」と、声をかけて打席に送り出した。

 逆転に成功した東海大菅生であるが、9回のマウンドに立つエースの勝俣も、8回までに124球を投げていた。それでも東海大菅生の若林監督は、「この大会は勝俣で来ましたから、勝俣が打たれて負けたなら、仕方ない」という思いで、勝俣を代えるつもりは全くなかった。

 二松学舎大附は9回表、内野安打2本と四球で二死満塁のチャンスを迎える。勝俣にすれば緊張の場面であるが、当の勝俣は、「いつも満塁の場面を作ってしまうから。ランナーが走るような場面では気にしますけど、むしろ満塁では気にしないで、投球に集中しています」と語る。

 若林監督も以前、「宇宙人。何を考えているか分からない。ピンチでも笑っていますから」と語っていたが、この重大なピンチでも、動揺した様子はない。

東海大菅生・エース勝俣翔貴 勝利の胴上げ

 二松学舎大附は4番の橋本に代えて、平野潤を打席に送る。今日三塁打を打っている4番に代打を送るのは、意外な感じもするが、平野は前日の準決勝でも橋本に代わり途中出場し、2打数2安打と当たっている。しかしこの場面では、勝俣の投球が勝り、平野は二飛に倒れ、試合終了。東海大菅生は秋季都大会18年ぶり2回目の優勝を決め、来年春のセンバツ大会出場が確定した。

 東海大菅生の若林監督は、中日を辞め、教員免許を取得し、社会科の教師になった後、東海大菅生の監督に就任して5年目で勝ち得た優勝である。試合後、「やっと来れたかなという印象です」と、感慨深げに語る。就任1年目で秋季都大会の準優勝。あまり強いという印象のないチームで準優勝できたことで、「野球を少しなめていました」と吐露する若林監督。けれどもその後、実力はあるのに勝てないことが続き、試行錯誤の末、やっとつかんだ栄光である。

 一方、敗れた二松学舎大附の市原勝人監督は、「大江は1年生としては十分頑張った。でもエースである以上、2年生とも対等にできるようでないと。頑張るしかありません」と、言葉少なに語った。

 大江 竜聖、今村 大輝のバッテリーに、三口 英斗を加えた1年生トリオをはじめとして、夏の甲子園経験者を多く残す二松学舎大附は、総合力は非常に高い。関東地区の5校目との比較になるが、戦力的にはセンバツに出場する資格は十分にあるのではないか。

 まだ夏の暑さが続く9月6日からブロック予選が始まる秋季都大会は、2か月を超す戦いの末、冬の足音が迫る11月9日に東海大菅生の優勝で全日程を終えた。夏の大会では1、2年生の活躍が目立っていただけに、秋季大会もこの時点としてはレベルの高いチームが多かった。

 高校生は一冬超えると大きく変わることがある。来年桜が咲く頃、この秋活躍した選手がどう成長し、どのような新たな選手が飛び出してくるか、楽しみにしたい。

(文=大島 裕史 写真=松倉 雄太)