ナタリー創設者の大山卓也による『ナタリーってこうなってたのか』(双葉社)は、ライター・編集には必読書と言われている。でもこの本の魅力はそれだけではない。完全にBLです。愛ですよ、愛!

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「ナタリー」というニュースサイトがある。音楽ニュースサイトからスタートし、今では漫画やお笑いのジャンルのニュースも配信している。その数、月に2000本以上。PVは月間3000万を超える。ナタリーの特徴は、情報配信がとにかく早いことと、ファンが欲しがる情報をピンポイントで提供しているところにある。
ナタリーを作った男・大山卓也の書いた『ナタリーってこうなってたのか』は、ナタリーがどういう経緯で、どういったポリシーのもとで生まれたのかについて語られた本だ。目次を紹介しよう。

プロローグ 不思議なサイトになったもんだ
第1章 ナタリー前夜
第2章 とにかくコツコツやってきた
第3章 ナタリーがナタリーである理由
第4章 「やりたいこと」より「やるべきこと」
第5章 これからのナタリー
特別対談 大山卓也ってこうなってたのか
あとがき

この本は「ライター業や編集業に携わる人の必読書」と言われているが、読者をそれだけに限るのはもったいない。この本は、萌える。
完全にBLなのだ。
ナタリーの歴史は、大山を巡るBLだ。順を追って説明しよう。

音楽をはじめとするポップカルチャーに夢中になっていた大山は、「自分が読みたいもの」を読むために「ミュージックマシーン」というサイトを立ち上げる。コンセプトは「批評をしない」「全部やる」。このコンセプトは今のナタリーに通じているものだ。

そんなミュージックマシーンの、初めてのオフ会。
〈そのオフ会の参加者のひとりが、のちにナタリーを一緒に立ち上げることになる津田大介。今や『金髪のメディア・アクティビスト』として知られる彼だが、当時の髪の色は真っ青だった〉
「運命の出会い編」だ。

大山はその当時出版社に勤めていたが、個人的に編集業やライティング業の依頼も来るようになっていた。2004年に退社し、フリーランスとして働くようになる。2005年、ナタリーの企画が立ち上がり、そして2006年、ナタリーを運営するための会社「ナターシャ」を設立した。オープンはそれから1年後の2007年2月。

津田は多忙のため、ナターシャの社員にはなっていない。けれど、ナタリーは大山と津田の2人で作ったものだった。
〈(ナタリーの)コンセプトは主に津田っちと2人で練っていった。役割で言うと津田っちが「あれもやろう、これもやろう」とけしかけるタイプ。自分はいろいろな可能性を検討しながら慎重に進めるタイプ。真逆な2人だった〉

立ち上げたナタリーは、資金難に苦しむ。サイト開設すぐに「あと2ヶ月で資金が完全に尽きる」という状況に追い込まれてしまう。
〈モノを作る人間は、時としてそのクオリティを高めることに意識を集中させすぎて、作ったものをどう広めてどう売るかという発想が抜け落ちてしまうときがある。ナタリー初期の自分はまさにそういう感じだった。そんな自分を外の世界につないでくれたのはやはり津田っちだ〉
津田が「ナタリーのニュースを他のポータルサイトに売る」というビジネスモデルの提案をしたことで、ナタリーはビジネスとして少しずつ動いていくようになる。

成長し安定してきたナタリーに、もう1人個性的な人物が加わる。唐木元だ。
〈彼の編集者としての手腕は知っていたので、会うたび「ナタリーに入らない?」と誘ってはいたのだが、「いや、ないでしょ」「だよねー」といった感じで終わっていた。(中略)だがそんなある日、急に彼から電話がかかってきて「マンガのナタリーをやろう!」と興奮気味に言われたのだ。なんでも風呂に入っているとき唐突に「マンガのナタリーって……アリだな!」と、成功のイメージが降ってきたらしい〉
「コミックナタリー」を作ろうとして、唐木を編集長に招いたのではない。唐木が編集長になったから、コミックナタリーが生まれたのだ。「お笑いナタリー」も同じで、もともと友人だった遠藤敏文が加わって生まれた。

ナタリーは「人ありき」だと、大山は言う。
初期のシステムエンジニア・立薗理彦も、チーフデザイナーの福田圭介も、いわば偶然の出会いによってナタリーに参加した。その「偶然」は言葉を変えれば「運命」的でもある。
大山と津田がコンセプトを作り、さまざまな人間が引き寄せられるようにしてできあがったメディアが「ナタリー」なのだ。

と、ここまでは、大山側から見てきた「ナタリー」。津田と唐木による特別対談では、2人から見た「ナタリー」──というより、2人から見た大山が語られている。津田も唐木も、大山のことを「タクヤ」と呼ぶ。
この章は、言ってしまえば恋人のノロケ話に近い。

〈大山卓也って、確実に天才なわけですよ。ただ、なんの天才なのか説明するのが難しいんだよね〉
〈俺も津田っちも、かなり我の強い人間だけど、不思議とタクヤにはあまり我を押し通そうと思わないじゃない。それが大山卓也の人間力かな〉
〈タクヤは異様に人懐っこいというか、人との距離の詰め方がおかしいんだよね〉
〈なんかあの人、感情がないというか、情緒がないじゃん〉
〈本質的には情の人ではあるんだけど、ナイーブではないんだと思う。情の人だけど情に流されない〉

津田も唐木も、大山の「何か」に惹かれて、ナタリーに関わっている。もしかしたら、こういう関係を「BL」と称するのは無粋なことなのかもしれない。単純に「ラブ」と称したほうがいいのかも。
でも、やっぱりナタリーはBLだ。最後に、いちばんBL感のあるエピソードを紹介する。

〈プライベートといえば、タクヤの家に初めて行ったときの驚きは今でも忘れられないな。完全ながらんどうなの。まさに「空洞です」。(中略)部屋の片隅にベッドがあるだけの、本当に閉鎖病棟の病室みたいなとこに住んでる。あんな部屋、見たことないよ。あまりに見かねてソファを1個あげたくらい〉

『TIGER & BUNNY』かよ(不適切なツッコミ)。

大山卓也『ナタリーってこうなってたのか(YOUR BOOKS 02)』(双葉社)
【書籍版】 【Kindle版】

(青柳美帆子)