『おどろきの植物 不可思議プランツ図鑑: 食虫植物、寄生植物、温室植物、アリ植物、多肉植物』木谷 美咲 横山 拓彦 (イラスト)/誠文堂新光社

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奇想天外、亀甲竜、ライオンゴロシ……。ノーヒントでこれらが何だかわかる人はどれだけいるのだろう? これらはすべて植物の名前である。

木谷美咲・文、横山拓彦・絵による『不可思議プランツ図鑑』は、文字通り世界中の不思議な植物を、博士と少年の掛け合いと美麗なカラーイラストで紹介していく本だ。

サブタイトルには「食虫植物、寄生植物、温室植物、アリ植物、多肉植物」とあるが、木谷は他にも食虫植物に関する著作が多数ある“不可思議植物愛好家”。奇怪な植物たちを、比較的見やすい「レア度1」、自生地に行かないと見られない「レア度2」、見ようと思っても見ることが難しい「レア度3」とざっくりした分類で紹介してくれている。

虫を捕まえるために0.5秒で葉が閉じるハエトリソウ。
筒状の葉の中に落ちた虫をじっくり消化液で溶かすサラセニア。
地上で美しい花を咲かせているのに地中の茎で虫を食べるミミカキグサ。

このあたりの食虫植物はまだまだ「レア度1」の序の口のほう。
葉の表面が消化液できらきらと輝くモウセンゴケについては、博士が「他の生命を餌食にして、すくすくと育つがゆえに、美しいのじゃ」と、少年をおいてけぼりにしたコメントをしている。
亀甲竜も「レア度1」。南アフリカ原産のヤマノイモ科の塊根植物で、亀の甲羅に似ているからその名がついた。中身は煮て食べることができる。

サブタイトルにもある「アリ植物」とは、アリノトリデやアリノスシダのように塊茎の内部をアリに住居として提供する植物のことだ。アリは巣の中に食べ残した昆虫を運び、それが植物の栄養となる。このあたりでようやく「レア度2」。
ユウレイタケの別名を持つ、全身が真っ白で果実が一つ目に見えるギンリョウソウ。
花が猿の顔にそっくりのモンキーフェイス・オーキッド。これも「レア度2」だ。

奇想天外は、アフリカのナミブ砂漠に生えている、2枚だけの葉が永遠に伸び続ける植物。過酷な乾燥地帯の中、わずかな霧から水分をとって生き延びている。1億年前に地球上に現れたとされており、なかには2000年生きていると推定されている株もあるという。文句なしの「レア度3」。
タヌキノショクダイは、クリオネそっくりの菌従属植物。採集例も少なく、ほとんどUMAのような植物だ。
動物にくっついて種を運んでもらう植物の一種だが、トゲの先に返しがついているのがライオンゴロシ。この実を踏んだライオンが、トゲを引き抜こうとしたところ、トゲが口に刺さり、口をあけることも獲物も捕らえることもできなくなって衰弱死することからこの名前がついた。
リザンテラは根どころから茎も花もすべて地中で生長するという植物。見つかったのが奇跡という幻の蘭だ。もちろん「レア度3」。

この本の中でおもしろいのは、江戸時代の園芸の話がちょくちょく出てくるところだ。
植物に三角形の宇宙人がとりついているようなオナガカンアオイ。カンアオイの近縁のフタバアオイは江戸時代後期から園芸愛好家たちから熱狂的に栽培されていたという。
サンゴのような茎が岩から生えるマツバラン(蘭ではなくてシダ植物)は江戸時代末期に園芸マニアの間で大流行していた植物。専門書も発行され、屋敷と交換した人も現れるぐらいのマツバラン狂時代だった。
江戸時代は庶民の間で園芸が大流行していたそうだが、「江戸の人は珍奇を愛でる心があるからのう」とは博士の弁。江戸しぐさなんかよりこっちのほうがよっぽど真実味がある。

というわけで、全100種の不可思議植物。文字だけでどれだけ伝わったかわからないので、まずは本書のカラーイラストを見てみてほしい。そのあとで博士の講釈を味わってもらいたい。

「植物は、タフで繊細で、自らが置かれた環境に応じて、いつだって必死に生きようとしているのじゃよ。わしは、それを見るだけで、切なくて胸が詰まるのじゃ」

ちょっとおかしく見える植物も、実は環境に応じて必死に生きてきた結果である。だからこそ愛おしい。それが博士の植物愛だ。過酷な環境の中で必死に生きているやつのほうが、へんてこな外見なんだけど魅力的なのは、ひょっとしたら人間と同じなのかもしれない。
(大山くまお)