By Robert Eiserloh

精子と卵子が結びついて新たな命が産まれる時、DNAが保存している双方の遺伝子が情報を持ち寄って結合し、新たなDNAを形づくるというのはこれまでにも広く知られています。近年の研究からはそんな遺伝情報に加え、両親が後天的に経験してきた生活や健康の状態が、胎児から幼児、そしてさらに将来にわたる成長に対して以前から考えられてきたよりも大きな影響を与えていることが明らかになってきました。

Message to parents: babies don't "start from scratch"

http://www.adelaide.edu.au/news/news72402.html

Parenting from before conception

http://www.sciencemag.org/content/345/6198/756.abstract

Parenting from before conception: Babies' health doesn't 'start from scratch' -- ScienceDaily

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/08/140814191347.htm

この分野で研究を進めてきたのはオーストラリア・アデレード大学ロビンソン研究所のサラ・ロバートソン教授らによる研究チーム。これまでも受精の時点で遺伝子情報の交換が行われることは広く知られていましたが、DNAに保存されている情報以外の要素が受け継がれることについての研究がこの10年で大幅に進んできました。さらに、そのメカニズムの解明が最近の5年で大きく進み、DNA以外の後天的・一時的な要素が影響を与える仕組みの解明がアデレード大学が主導する形で進められてきたとのこと。

研究チームによる報告書では、両親の精子と卵子には単なる遺伝物質によるもの以外の情報も保存されており、これまで考えられていたような受胎の段階よりも早い段階から影響を受けることになることが示されています。この影響についてロバートソン教授は「親となる男女の年齢や栄養状態、肥満度、喫煙など私たち両親が子どもを妊娠する前に行っていた行為の多くは、受精卵に対して伝達される環境シグナルに影響を与え、ひいては子どもたちが産まれて以降の将来の成長に影響を与えることにつながります」と語ります。



By James Gentry

さらに博士は両親の生活環境が胎児に与える影響について「これまでは『赤ん坊はまっさらな状態から成長していく』と考えられてきたために、上記のような点をほとんど考慮に入れていませんでした。しかし現実には、決してゼロからのスタートというわけではなく、両親が経験してきた『遺産』を受け継ぎ、お母さんのおなかの中の段階、そして産まれた後の成長がこれまで考えられてきたよりも早い時点で決定づけられているのがほぼ間違いないということがわかってきました」と語ります。



By Kirsten Jennings

また、この影響は赤ちゃんの糖尿病や心疾患などの代謝性疾患の発生リスクにも影響を及ぼすとのこと。さらに研究結果からは、母親よりも父親が与える影響力のほうがより多くを占めていることが明らかにされています。

ただし博士が語るところでは、これから子どもを持とうとする両親は必ずしも悲観する必要はないとのこと。「特にこの先数か月で妊娠を控える夫婦の生活習慣を改善させていくと、子どもの長い将来にわたってよい影響を与えることにつながると考えられます」と語り、特に妊娠前の健康状態の重要性を説いています。



By David Amsler