報徳学園vs明石商 背番号10の完投と背番号1の伝令の意味

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背番号10の完投と背番号1の伝令の意味 

3失点完投の田中和馬投手(報徳学園)

 3対3。同点で迎えた8回裏、相手守備のエラーという形で、報徳学園に1点が入った。 これを、報徳学園の先発・背番号10の田中 和馬(3年)が守り切る。9回のマウンドでは、一つのアウトを取る毎に大きな声で『ヨッシャー』と叫び、アドレナリンが全開だった。

 「去年の秋の明石商戦でも先発させてもらって、9回(途中)でマウンドを降りるという悔しい思いをしたので、今日は完投したかった」と話す田中。言葉の通りの完投を果たし、挨拶の列に並ぶ際には、チームメートからの祝福もいつも以上のものがあった。

 報徳学園の倍である10本のヒットを明石商打線に浴びた田中。3回に先制され、味方が逆転された後も、6回と7回に失点し、常に苦しいピッチングだった。

 相手の明石商は、先発の小野翔太(3年)から、7回にエース松本 航(3年)へと継投をしている。つまり打線にそう多くの点を望むことができず、同点となってからは“次の1点”をどちらが取るかがポイントだった。

 田中にとってこのゲーム最大の勝負の場面は8回のマウンド。 一死から5番吉高史彩(3年)と6番山本雄(3年)に連続で四死球を与えた。続く7番古村亮也(3年)にはヒットを浴び、一死満塁となった。ここでベンチの永田裕治監督は、伝令として、エースナンバーを背負う中村 誠(3年)を送る。中村が伝えた言葉は、「頑張れ!」の一言。マウンドの田中は、「面白かったです」とこの局面での中村の一言に、気持ちが楽になったことを話す。

 呼吸を整えた田中は、8番松田悠誠(3年)をライトフライ、9番に入っていた松本をセンターフライに打ち取って、このピンチを凌いだ。

 

エース中村が伝令にくる(報徳学園)

 ベンチに戻った田中に、永田監督は声をかける。その様子を田中自身が明かしてくれた。 「監督からは、何でお前を投げさせているのかわかるか?と言われました。それで、夏を見据えて投げさせているんやぞと言ってもらいました」。

 このゲームで永田監督は、「継投も考えていた」という。ただ、それは展開次第。しかも、ブルペンで準備していたのは、背番号14の主島大虎(1年)と、背番号16の竹内 大樹(3年)だった。この二人には公式戦で登板した経験がない。 1点を争う厳しい試合展開で、報徳学園の投手陣で継投があるとすれば、エースの中村か、キャッチャーでもある岸田 行倫(3年)のどちらかであった。しかし、この二人はリリーフをする準備をほとんどしていない。そして、永田監督は伝令としてエースを送ったのである。つまりこう言いたかったのでないだろうか。

『中村は準備をしていない。お前にこの試合を託した』

 期待する一人の投手が大きな成長を遂げる瞬間。その空気を作りだすのが、監督、選手を含めたチーム全体の役目である。そして、その期待に応えた田中。勝ったことで、春季大会はまだまだ登板のチャンスがあると言えるだろう。

 

(文=松倉 雄太)