10月18日14時20分。週刊朝日編集部は、『情報ライブ  ミヤネ屋』(読売テレビ)での橋下徹大阪市長(43)の会見を注視していた。『週刊朝日』(朝日新聞出版)誌上で始まったノンフィクションライター佐野眞一氏らによる連載『ハシシタ  奴の本性』をめぐる反論会見だ。しかし、その余裕が続いたのは『ミヤネ屋』がCMに入るまでだった。ここから、部員たちは怒濤の7時間を経験することとなる。

「CMに入った途端、抗議電話が鳴りはじめました。正直怖いと思いましたよ。橋下氏の会見のパワーを肌で感じた。会見だけ見た人には、週刊朝日が出自で人を差別していると聞こえますから」(朝日新聞出版関係者)

主に主婦層からの「出自で人を差別するのか」「100パーセント子会社のくせに」「朝日新聞の購読をやめる」といった抗議電話だ。「連載は読んでいただけましたか?」と問いかけても、「読んでない」という声が多かったという。記事の内容などどうでもいい。「橋下さんが言っている」の一点張りだった。橋下氏の怒りに呼応したかのような抗議。ここまでの反応を編集部は予期していなかった。

「最初、橋下市長が怒っていると報じられたときは、みな、よくあるトラブルと思っていました。『断固戦う』とも『謝る』とも聞かされてなかったのですから、編集部に抗議の電話がかかってきても、どう答えていいか戸惑いながら電話対応していた」(別の朝日新聞出版関係者)

ただ、18時時点でも連載続行の方針は変わっていない。担当編集から佐野氏へは何度も連絡が入っているが、佐野氏は謝罪文を出すとは聞かされていない。まだ、週刊朝日編集部には余裕があった。部員の見解は「前日まで取材拒否だった朝日放送がまぬがれた。朝日新聞だけの拒否なら耐えられる。様子を見て、次の連載までいけば世論も落ち着くだろう」というもの。だが、そんな甘いものではなかった。

週刊朝日編集部があるのは、朝日新聞東京本社7階。新館の8階には朝日新聞出版の社長室がある。社長は新聞からの出向、つまり新聞とのパイプが太い。別の朝日新聞出版関係者は、「編集長を含めた週刊朝日幹部が、あちこちと出入りしていました」と話す。そして、21時に河畠大四編集長名で謝罪コメントを出すことになる。

「編集部内でも寝耳に水でした。完全に上層部だけで決められたようで、みんなコメントが出た時点で知りました。謝罪したのは、やはり朝日新聞社に影響が及んだのが大きい」(週刊朝日関係者)

たった7時間の勝負で『天下の朝日』とのケンカに勝った橋下氏。完敗を喫した週刊朝日が謝罪コメントを出した翌日夜、連載の打ち切りが決定した。