◆明暗を分けたASMLとTSMCの決算

 これから本格化する決算シーズンを前に、まず、先週発表された半導体大手2社の決算について触れておきたい。10月15日に当初の予定を前倒しして発表されたASMLホールディング の2024年7-9月期決算は、受注額が前四半期から半減し、25年12月期のガイダンス(業績予想)を従来予想から引き下げたため、市場にネガティブ・サプライズをもたらした。翌日の会見での同社のコメントによると、AI(人工知能)向けは相変わらず好調だが、その他の分野、特にスマートフォンとパソコン向けに勢いがなく、中国向け露光装置の売上高が来期に向けて減少する見通しだという。

 これには大きく二つの要因があって、中国向け売上高については、2024年4-6月期では同社のシステム売上高(ハードウェア売上高)の49%、7-9月期では47%を占めていたのが、2025年12月期には全売上高の約20%になるという。筆者の試算では、中国向けは2024年12月期の約100億ユーロから2025年12月期は約65億ユーロまで減少することになる。背景にあるのはアメリカの対中規制強化の流れだ。中国の半導体メーカー各社が、半導体製造の特に前工程の製造装置を、規制がかかる前にできるだけ大量発注したことによって需要を先食いした結果、これ以上の売上高は望めない状態になったのだ。

 そしてもう一つは、台湾積体電路製造(TSMC) 、サムスン電子などの大手半導体ファウンドリーがEUV(極端紫外線)露光装置の発注を延期した模様であることだ。ASMLによると2社以上の顧客が7-9月期にEUV露光装置の発注を延期したという。理由はスマートフォンとパソコンの市場に勢いがないということだが、具体的にはiPhoneの売れ行きへの懸念が要因だろう。今年9月に発売された新型の「iPhone16」の売れ行きについては、アナリストの間でも意見が割れていて、正確なところはアップル の24年7-9月期と10-12月期の決算内容を見てみないと分からないが、私が調べた限りでは、どうやら期待ほどの販売状況ではないようだ。

 続いて10月17日に発表されたTSMCの24年7-9月期決算は、ASMLとは対照的に業績もガイダンスも良く、市場が期待した以上の好決算となった。同社によると、エヌビディア 向けのAI半導体とともにアップル向けの3nm(ナノメートル)半導体の販売状況も好調だったとのことだが、これはすでに発売されている「iPhone16」用の半導体が売れたためだ。今年9月発売の「iPhone16」と来年9月に発売されるであろう新型iPhoneの販売状況によっては、2025年末から量産が始まる2nm半導体の設備投資には慎重にならざるを得ない。2nm半導体の第一弾は2026年9月に発売される見込みの新型iPhoneに搭載されると思われるが、今年から25年にかけてのiPhoneの売れ行きが2nm半導体の設備投資計画を左右する可能性があるのだ。これがASMLの受注減の原因の一つではないかと思われる。

◆半導体セクターのパラダイムシフトが進行

 両社の決算を見て感じるのは、AIの時代に入り、これまでの半導体セクターへの見方を変えなければならないのではないかということだ。従来は、半導体の発展イコール微細化だった。微細化が進んで高性能になればなるほど半導体の単価も上がり、製造装置を含む半導体各社の業績は拡大していった。だから、EUVという微細化で最先端の露光技術を世界で唯一持つASMLと、最先端の製造技術を持つTSMCの業績は連動していたわけだ。

 だがAIの時代に入って、この図式が崩れ始めている。と言うのも、近年の半導体の微細化をリードしていたのはアップルの「iPhone」だった。ところがいま、需要が爆発しているAI半導体は、微細化とは違った部分での技術革新が求められているからだ。