この記事をまとめると

■タクシーやバス運転手は一般人の「ゆずり行為」に対して警戒している

■基本的には譲られても応じないよう教育を受ける

■タクシーやバスは金目当ての当たり屋などに目をつけられやすかった

パッシングでの意思疎通は無視が基本

 右折車線のない交差点で右折しようと思っていたのに、対向車が多かったりして青信号に間に合わずに右折できず、しかも信号待ちの先頭となると、後続車両が長い列となってしまうのではないかと、ヒヤヒヤな思いになる人も多いことだろう。そんなときに対向車線で信号待ちしている先頭車両が進行する信号が青になった瞬間、パッシングライトを送ってきた。このようなシチュエーションでは、対向車両が右折待ちで後続車両が列を作らないようにとの配慮もあり、「先に曲がっていいよ」との合図と認識するのが一般的であろう。

 しかし、右折車線のあるなし、そして信号がなくとも右折して商業施設などに入ろうとする際、対向車線が渋滞しているときなど、「右折していいよ」とパッシングライトを対向車がやってくることがある。もちろんそのような行為の大半は善意から合図をしているのだが、日々街なかを流すタクシー運転士の新人研修ではこのような「ゆずりあい」にも警戒するようにと指導すると聞いたことがある。

 職業ドライバーに限ったことではないのだが、ドライバーのなかには渋滞で退屈したときなど、四輪車の渋滞の列をすり抜けてくる二輪車の接近を確認してタイミングを合わせて譲り、右折のときに二輪車に衝突させようという悪質な人もいるとのことである。路線バスについては、事業者にもよるようなのだが、筆者が利用しているバス事業者の運転士さんは対向車などから譲られたとしても反応しない運転をしていた。

 前出の指導では、譲られたからといって無警戒に右折などをするのではなく、とくにトラックなど大型車の場合はすり抜けてくる二輪車の目視も難しいので、最徐行といった低速で右折をはじめ、すり抜ける二輪車がいるという前提で注意深く運転をするようにと教えていたそうだ。つまり残念な話だが、100%善意ではないという前提で対応するようにということなのである。

性善説が通用しなくなってきている

 多様化が声高に叫ばれる時代となり、まさにさまざまな価値観を持った人のなかで日々生活するようになっているなか、タクシーは「看板」を背負って日々街なかを流しているので、いかがわしいことを考えている人の格好の餌食になりやすいのである。

 過去には自転車がタクシーめがけて当たってきて賠償金をせしめようという人(通称:当たり屋)が想定外に多く世のなかにいたのだが、ドライブレコーダーを装着するようになってからは、冷静に検証することができるので、それほど多くは遭遇することはなくなったようである。

 客観的に立証できなければ、「プロドライバー」がゆえに警察も深入りを避け、タクシー側の過失が高いという判断を行いがちであったが、ドライブレコーダーの映像という客観的な証拠が残るようになってからは、いつでもどこでも「タクシーが悪い」ということはなくなったようである。

 タクシー運転士という仕事は、置かれている立場や日々の運転を通じ、まさに「日本社会の縮図」を手に取るように実感できる仕事ともいわれている。「むやみに他人を信じるな」とは悲しいことだが、これも自己防衛のため現代社会では必要なことなのかもしれない。

 最近ではスマホアプリ決済でも、車載器で決済が完了するまで目的地についてもドアを開けてくれないことが目立ってきた。スマホアプリならばほぼ確実に料金徴収できるのだが、現金あるいはカードで払うといったものの、ドアを開けた瞬間に車内から逃げ出す……つまり「無賃乗車」もあとを絶たないのだから仕方ないのかもしれない。

 無賃乗車の末、逃げようとして運転士さんが捕まえようとした瞬間に運転士さんに暴行すれば、「強盗傷害罪」という重罪に問われかねない事案を起こすことになるのだから、「酔っていたから覚えていない(泥酔した上で前後不覚となり、結果的に無賃乗車の末運転士に暴行というのもかなり多いのである)」といってもあとの祭りとなるので十分気を付けてほしい。