2015年8月期の516店をピークに2024年8月期には340店まで減少、今後も閉店は続く(記者撮影)

「代表取締役の私の判断不足と先読みの甘さがこの業績につながり、責任を感じている」。藤原祐介社長は表情を変えず、淡々と説明を行った。

ジーンズ専門店を手がけるライトオンは10月8日、記者会見を開き、アパレル大手のワールドが日本政策投資銀行と共に出資するファンド・W&Dインベストメントデザインを通じてライトオンにTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。

買い付け価格は10月8日の株価の終値305円から64%ディスカウントした1株110円で総額は約20億円。TOB成立後もライトオンは東証スタンダード市場の上場を維持する。

スキームはやや複雑だ。まず、11月の株主総会の特別決議をもって、創業家の資産管理会社の藤原興産を引受人とする第三者割当増資を行い、創業家と藤原興産の保有比率を42.3%から51.9%に引き上げる。

そして、12月上旬にW&D社がTOBを実施し、藤原興産と創業家は保有する全株式をTOBに応募し譲渡。ライトオンはW&D社の子会社となる流れだ。藤原社長は退任する。

ジーンズカジュアル業態に限界

同日に発表された2024年8月期決算は実に厳しいものだった。売上高は前年同期比17.3%減の388億円、営業損益は50億円の赤字(前期は9億円の赤字)、最終損益は121億円の赤字(同25億円の赤字)となった。

既存店売上高は前期比13%減と大苦戦。スウェットや防寒アウター、Tシャツなど季節商品が低調だった。単価は上昇傾向だったが、客数は年間を通じて大幅なマイナス基調が続いた。在庫を消化するために値引き販売が増え、利益率も低下。店舗関連や全社の固定資産など50億円の減損損失を計上し、大幅な赤字となっている。

6期連続の最終赤字で財務は毀損し、債務超過寸前だ。自力での経営再建は険しく、他社と手を組む道を選ばざるを得なかった。

ライトオンはメインバンクによる提案で、昨年2月から協業先の検討を開始。銀行と協業先となるアパレル企業を絞り、今年2月にワールドへ打診、3月以降、シナジーについて協議してきた。今後は不採算店の閉鎖を進めつつ、経営幹部などの人材面から仕入れ、商品開発、店舗開発、物流などワールドのノウハウを活用して再建を急ぐ。

ライトオンは、創業者の藤原政博氏(77)が1980年に創業し、ジーンズの専門店として地位を築いてきた。「Levi’s(リーバイス)」や「EDWIN(エドウイン)」といった有名ブランドのジーンズをはじめとするナショナルブランド(NB、メーカー商品)が主力商材だ。

2000年代までは、学生など若い世代を中心にジーンズ専門店の人気は高いものだった。ライトオンは新規ブランドを積極的に開拓し、品ぞろえを広げていった。また、競合他社に先駆けて郊外のショッピングセンターに出店し、核テナントとして広い面積の店舗を展開してきた。

世のトレンドをつかむビジネス展開で、2007年8月期には売上高1066億円、営業利益58億円と最高益を記録。しかし、これをピークに業績は長期で低迷していくことになる。

強かった成功パターンから停滞へ

「成功パターンが強すぎたのかもしれない。自信を持ちすぎてしまった」。こう語っていたのは前社長の川粼純平氏だ。既存ブランドの取扱高が増える中、新規開拓が減り、商品の改廃がうまく進まなくなっていた。

また、店舗数を増やすことを優先した結果、集客力の弱い商業施設に出店する例もあった。店舗の売り上げ規模は縮小し、効率も下がっていく。


2018年に38歳で就任した川粼純平前社長。値引き販売の比率を下げるなど、対策を打ち出していた(編集部撮影)

2009年には、ジーユーが発売した990円ジーンズを皮切りに、西友が850円、ドン・キホーテが690円のジーンズを投入するなど激安競争が勃発。ライトオンは激しい市場の変化にうまく対応できず業績が停滞。窮地に追いやられていった。

2017年8月期に上場以来初の営業赤字に転落すると、2018年には当時38歳だった川粼純平氏を社長に抜擢し、経営の若返りを図った。だが、同氏は2年で退任。2020年に創業者の長男である藤原祐介氏が社長に就任し、NBの品ぞろえを強化するなど対策を打ったものの、規模縮小が続いた。

ワールドによる支援が決まり、ライトオンは新たに中期経営計画を公表した。2029年8月期の売上高は254億円と、2024年8月期と比べて35%減と規模が縮小する一方、営業益は15億円の黒字を目指す。店舗数は明らかにしていないが、大量閉店は必至だ。


NBの商品に注力してきたが、今期以降は割合が減る見通しだ(記者撮影)

また、これまではNBのジーンズを中心とした商品群に注力していたが、今後はプライベートブランド(PB 独自企画商品)に力を入れる。ワールドと連携して競争力のあるPBの開発を進め、構成比を拡大。仕入れ原価率の改善を進める。現状のNB65%、PB35%という商品構成を逆転させる方針だ。

ただし、ジーンズは耐久性が高く、購入頻度が低い商材でもある。売り場の効率を考えると扱いづらい商品ともいえる。ワールドはジーンズ以外の品ぞろえも模索するのか。

こうした問いに、ワールドの大峯伊索常務執行役員(11月にライトオンの社長に就任予定)は「ライトオンが築いてきたデニムの文化はそれなりに顧客に浸透している。デニムをなくすわけではないが、ウェートを見直す必要がある」と語っている。

ライトオンはメンズ色が強いが…

ジーンズは今やいばらの道だ。ユニクロなど、多くのアパレルブランドのラインナップに浸透している。安価で良質、しかも流行に合わせた色や素材、シルエットなど多様な商品が販売されている。


ワールド常務執行役員の大峯伊索氏(左)とライトオンの藤原祐介社長(右)。両者は握手することはなく、表情も硬かった(記者撮影)

一方、ライトオンが提供するジーンズも良質だが、より高価でベーシックな商品が多い。ストリート、アウトドア、ワークウェア(作業着)といったメンズ色が強いアメリカンカジュアルが中心だ。固定ファンは高年齢化が進み、新規顧客を開拓することも難しい。

ワールドとのタッグで、ジーンズの可能性を広げていくこと。同時に、ジーンズに依存せず、新たな客を呼べる商品群を開発・提案していくことも、今後の重要ポイントといえそうだ。

(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)