電撃引退となった藤田菜七子

写真拡大

 女性ジョッキーのパイオニアとして活躍していた藤田菜七子騎手(27)=美浦・根本=が11日、現役を引退した。10日にJRAに引退届を提出し、この日正式に受理された。一部週刊誌に掲載された昨年4月頃のスマートフォン不適切使用問題を発端に、最終的に引退の道を決断した。自らの活躍で女性騎手の存在を日本だけでなく世界へ広めていった競馬界のスターが、思わぬ形でムチを置くことになった。

 事の発端は一部週刊誌による報道だった。9日に藤田菜七子騎手のスマートフォン不適切使用問題が報じられると、JRAが本人に事情聴取を行い、23年4月頃まで複数回にわたり、調整ルーム居室内に通信機器(スマートフォン)を持ち込み、通信していたことが判明。10日に騎手として重大な非行があったものと認められるとして、11日から裁定委員会の議定があるまでの騎乗停止処分にすることを発表した。

 それから一夜明けたこの日の早朝、美浦トレセンで師匠の根本師が引退届をJRAに提出したことを明かした。「うちの所属騎手の藤田菜七子がこのような事態になり、ご迷惑をおかけしてすみません。菜七子は今、話せる精神状態にないので」と口を開くと、「引退申請はしているけど、今は受理されていない」と説明。その後、JRAが正式に受理したことを発表した。

 ただ、根本師は今回の件について腑(ふ)に落ちない部分があった。「去年の女性騎手ら6人の処分があった時、菜七子は『自分も過去にやっていました。すみません』と申告して、口頭で厳重注意を受けたと言っている。あの事件(以降)をボーダーにして(制裁を)決めると言っていた。それを競馬会は言ってくれないのはおかしい」。

 若手騎手ら6人が通信機器の持ち込みで処分された昨年5月、JRAが全騎手に聞き取り調査をした際、藤田菜七子も持ち込みや通信を認めていたという。この時、口頭で厳重注意を受けたが、昨年の聞き取り時に外部と通信していないと虚偽の申告をしていたことから改めて処分したというのがJRA側の言い分。ただ、同様の事案で2度にわたる処分を下したことに根本師は不信感を抱いているもようだ。

 「言い訳にしたくないけど、逃げているわけじゃない。菜七子はそんなずるい子じゃない。昨日、私の万年筆を使って、大泣きしながら(引退届を)書いていた。わかります?悔しいでしょう。菜七子は『両親には言いました。今の旦那さんにも相談した』と言っている。意思は固いでしょう」。愛弟子の悔しい胸の内を思うと、やるせない気持ちになるのも無理はなかった。

 16年3月のデビューから注目を浴び続け、JRA女性騎手によるG1初騎乗やJRA重賞初制覇など歴史を塗り替えてきた。まさに女性騎手のパイオニアとも言える存在の藤田菜七子だったが、思わぬ形での引退劇となった。根本師は「あと2年、自分が定年するまで(騎手を)辞めるんじゃないと言っていた。本当は私が引退するまでいてほしかった」と涙した。