イスラエルには子育てを負担だと感じることのない社会システムがあります(写真:iStock / Getty Images Plus)

イスラエル軍の攻撃でガザではパレスチナ人の死者が4万人を超え、イスラエルとイラン、ヒズボラの間では報復合戦が続いています。

中東はたしかに戦争のイメージが強い一方で、イスラエルは世界をリードするハイテクの国、サウジアラビアは豊富なオイルマネーを基に、人類の未来を拓く壮大な構想を描いています。

日本人が知らない中東の今を3回にわたって紹介します。

(本稿は『中東危機がわかれば世界がわかる』から一部を抜粋・再構成したものです)

不妊治療助成、教育無償化で先進国第1位の出生率

世界銀行の2022年の合計特殊出生率の調査によると、女性1人当たりの出生数はイスラエルが2.90で、ヨーロッパを中心に日米を含め38か国の先進国が加盟する国際機関OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で第1位でした。

日本は1.26人で、イスラエルの出生率は日本の倍以上です。

イスラエルの人口の大半はユダヤ人で、「産めよ、増やせよ、地に満ちよ」というユダヤ教の教えがあり、厳格なユダヤ教徒はこの教えを守り、できる限り子どもを産みます。とはいえ、出生率の高さに驚く日本人も多いのではないでしょうか。

イスラエルには、幸せは子どもが運んでくるという意味の「子どもは幸せ」ということわざがあるほど、イスラエル人は子どもに関することはすべて善いことだと捉えています。

イスラエルは子育てしながら働く女性が多い国ですが、出生率が高い背景には、子育てを負担だと感じることのない社会システムがあります。

イスラエルでは、女性が45歳になるまでは、現在のパートナーとの間に2人の子どもを得るまでの期間、体外受精の費用が全額、国の保険で賄われ、不妊治療を無料で受けることができます。そのためか、1人当たりの不妊治療回数は世界で最も多くなっています。

不妊や、月経、妊娠、更年期、婦人科系疾患など女性が抱える健康上の課題を、テクノロジーで解決するフェムテック分野の企業がイスラエルには約100社あり、現在も数を増やしています。

フェムテックはFemale(女性)とTechnology(技術)を掛け合わせた造語で、女性の社会進出、活躍を推進するものとして注目されています。

国全体で研究開発を支える

中東最大のイスラエルの国立病院内にフェムテック専門のイノベーションセンターが設置されるなど、国全体で研究開発を支える仕組みがフェムテック企業が多く生まれている背景です。


イスラエルでは出産に関する制度も充実しており、妊婦検診から出産まで、国が全額費用を負担します。

また、出産前の産休は3カ月半取ることができ、その間、産休前の給与が補償されます。有休を使用すると2カ月半の休暇を取ることができ、無給の休暇を加えて1年間休むこともできます。

ただ会社は、出産による休暇が半年を超えるとポジション確保の義務がなくなるため、多くの女性は半年で復帰するようです。

しかし、スタートアップが盛んなイスラエルは転職しやすい環境にあるため、ゆっくり子どもと時間を共にした後に、新たに職を探す女性もいます。

教育については、小・中学校が義務教育の日本と異なり、イスラエルでは3歳から18歳まで、幼稚園から高校までが義務教育で、公立であれば授業料は無償です。

私立、公立をあわせて幼稚園と保育園の数が多いため、日本のような待機児童問題は存在しません。

子育て世帯では、ベビーシッターを日常的に利用しています。

ベビーシッターは主に高校生のアルバイトなので、安く利用できます。

また、家事代行サービスも頻繁に利用されています。気軽に利用でき、「時間をお金で買う」という価値観が浸透しています。

そのため、保護者は子どもを他人に預けることに抵抗がなく、夫婦だけでディナーに行くことも、子どもを祖父母に預けて海外旅行に出かけることも珍しくありません。

(中川 浩一 : 元外交官、アラビア語の天皇通訳・総理通訳)