Apple Park Steve Jobs Theaterで世界のプレスに向けて、舞台挨拶をするTim Cook CEO(筆者撮影)

アップルは、2024年9月9日(現地時間)にアメリカ・カリフォルニア州クパティーノ市にある本社「Apple Park」でプレスイベントを開催し、主力の新製品を発表した。

今回発表された製品と概要をまとめる。いずれの新製品も、発売は9月20日(金曜日、日本時間)となっている。

今回発表された新製品は…

【iPhone 16】12万4800円(税込)〜

デバイス上で動作するAI「Apple Intelligence」対応のA18チップを搭載。カメラ部分のデザイン変更と、カメラ操作に利用可能なタッチセンサー「カメラコントロール」を搭載。さまざまな機能を割り当てられるアクションボタンも新たに搭載。3つの新色で登場。6.1インチ。

【iPhone 16 Plus】13万9800円(税込)〜

iPhone 16の大画面モデル。6.7インチ。

【iPhone 16 Pro】15万9800円(税込)〜

ディスプレーサイズが0.2インチ拡大された6.3インチ。内部設計を刷新し、排熱性向上、バッテリー拡大で持続時間向上。4800万画素超広角カメラ、カメラコントロール、5倍光学ズーム搭載と、カメラ強化。

【iPhone 16 Pro Max】18万9800円(税込)〜

ディスプレーサイズが0.2インチ拡大された6.9インチディスプレー搭載。


iPhone 16 Plus(右)と、iPhone 15 Plus(左)。同じピンクだが、新モデルはより鮮やかなカラーだ(筆者撮影)

【Apple Watch Series 10 アルミニウムケース】5万9800円(税込)〜

100%再生アルミニウムを用いて、光沢仕上げのジェットブラック追加。薄型化、軽量化を進め、時計として扱いやすくなった。広視野角で斜めから見ても明るく表示を確認。音楽やPodcastが再生できるスピーカー搭載。加速度センサーを用いた睡眠時無呼吸の計測に対応(予定)。

【Apple Watch Series 10 チタニウムケース】10万9800円(税込)〜

これまでのステンレススチールに変わり、95%リサイクル素材を用いたチタニウムに金属を変更。薄型化、軽量化はアルミニウムケースと同様。

【Apple Watch Ultra 2 ブラックチタニウムケース】12万8800円(税込)

ハードウェアは2023年発売のUltra 2と変更なく、新色を追加。これに合わせて、チタニウムのミラネーゼループ、エルメスバンドなどを追加。

【AirPods 4 アクティブノイズキャンセリング搭載モデル】2万9800円(税込)、ノイズキャンセリングなし 2万1800円(税込)

従来のAirPodsのデザインを変更し、よりフィット感を高めた新しいデザイン。H2チップを内蔵し、アクティブノイズキャンセリングを搭載。充電ケースも小型化。

【AirPods Max】 8万4800円(税込)

従来のH1チップのまま、充電ポートをUSB-Cに変更。ブルー・パープル・オレンジの新色追加。

発表会における重要なトピックについて、解説する。

今回のiPhoneシリーズで注目されていたのは、iPhoneに搭載される人工知能、Apple Intelligenceについてだ。

細かい機能についてはすでに6月に開催されたWWDC24で発表済みだが、今回のiPhoneを「Apple Intelligenceのために一から設計した」としており、買い換えや乗り換えも含めて、大きなチャンスにしたいアップルの考えが透けて見える。

Apple Intelligenceは、大半は端末内で処理されるAIモデルの実行となり、一部はプライバシーに配慮しながらのクラウド処理が行われる。端末からデータを出さずAI利用できる点でプライバシーの観点から極めて有利で、とくに企業の利用などにも対応する。

しかしその分、スマートフォンのAI処理性能を高めつつ、消費電力が増えないようにしなければならない。今回のA18・A18 Proチップは、機械学習処理やメモリーの速度を高めつつ、電力効率を高め、端末上で頻繁にAI処理を行っても、バッテリー持続時間を維持できるようにしている。

すでに開発者向けベータ版で、アメリカ英語に言語設定をすると利用できるApple Intelligence。10月からはアメリカでベータ版として提供が始まることはWWDC24のアナウンス通りだが、これに加えて、イギリス、オーストラリアなどの英語圏で2024年12月に提供が始まることがアナウンスされた。各国の英語にローカライズされるという。

また、英語以外の言語については、中国語、フランス語、スペイン語に加え、日本語についても、2025年中に開始することが、今回明言された。

Apple Intelligenceが利用できるかどうかは、iPhone 16、iPhone 16 Proシリーズの購入・買い換え動機に大きく影響があると考えられ、主要市場での開始時期を明言することで、顧客の後押しをしようとしている。

魅力的な新色と「素材変更」

例年、新モデルは、定番のホワイトとブラック以外に新しいカラーを追加しているが、今回iPhone 16シリーズは、鮮やかな青のウルトラマリン、落ち着いた緑のティール、iPhone 15よりぐっと色味が濃くなったピンクの3色が追加された。また、iPhone 16 Proシリーズでは、ゴールドカラーが追加されている。


iPhone 16 Proの新色・ゴールドモデル(筆者撮影)

Apple Watchに目を移すと、これまでステンレススチールを採用していたモデルは、表面を磨いたチタニウムに素材変更された。95%再生チタンを利用し、より環境負荷を下げる対策ととらえることができる。


Apple Watch Series 10のチタニウムモデル。ステンレスのような光沢ある仕上げになっている(筆者撮影)

昨年iPhone 15 Proシリーズで、ステンレススチールからチタンに素材が変更されており、製品本体で使われる金属は、アルミニウムとチタンに集約されつつある。いずれも、再生素材に転換され、クローズドサイクルの実現に向けた対策が進んでいる。

今回意外だったのは、iPhoneのカメラ機能をさらに進化させた点だ。しかも3つのアプローチを用意していた。

1つ目はセンサーのアップデート。iPhone 16では、超広角レンズでのマクロ撮影や、48MP Fusionカメラにより、より明るい撮影が可能になっている。また、Vision Proなどで立体的に見ることができる空間ビデオと空間写真への対応のため、カメラの配置を変更している。

2つ目は映像信号処理の高速化だ。iPhone 16 Proシリーズでは、メモリーが高速化されたA18 Proチップと、高速読み出しに対応する48MP Fusionセンサー、その大容量信号をチップに送り込むAppleカメラインターフェースを備え、4K120フレーム/秒の動画撮影に対応する。

これによって、映画のような滑らかなスローモーション再生の撮影にも対応し、iPhoneカメラの表現力を高めることにつながる。

そして最後に、「カメラコントロール」の追加だ。個人的に、今回のiPhoneの新機能で、最も感動したポイントといえる。これはiPhone 16シリーズ・iPhone 16 Proシリーズ共通で、端末の右側面に配置される新しいカメラの操作方法だ。

物理的に上下に動くボタンではなく、感圧センサーと静電容量センサーを備え、感触フィードバックを伝えてくるインターフェースで、擬似的に半押し、全押しといった、カメラのシャッターボタンのような操作ができるだけでなく、上下になぞることができる。

カメラコントロールを押し込めばカメラが起動し、全押しでシャッターが切れる。2度半押しするとスライド操作で露出やカメラ切り替え、焦点距離、色味の変更が可能になる。

これまで、両手で構えなければ、詳細なカメラの設定変更が難しかったが、それらを指一本で実現し、かつシャッターも切れる、魔法のような操作方法に驚かされた。

しかも、筆者の場合、普段から縦に構えた際の親指、横に片手で構えたときの人差し指が、ちょうどカメラコントロールの位置にあり、特別な持ち方をしなくても、自然に指があたる。今までここに何もなかったのが不思議なほどだ。

iPhoneでカメラに期待している人にとっては、iPhone 16にしろiPhone 16 Proにしろ、このカメラコントロールを目当てに買い換えてもいい、といえるほどインパクトがある。

AirPods 4で、ワイヤレスイヤフォン市場を盤石に

AirPodsシリーズは、日本市場では上位を独占するワイヤレスヘッドホンだ。最も人気のあるAirPods Proは刷新されなかったが、入門モデルがAirPods 4として刷新された。

今回の目玉は、AirPods 4に追加されたアクティブノイズキャンセリングモデル。シリコンチップで耳を密閉するタイプではないAirPods 4でも、強力なノイズキャンセリングに対応する。


新たにノイズキャンセリングに対応したAirPods 4(筆者撮影)

実際に装着して試したが、ガヤガヤしていたハンズオンエリアに静寂が訪れ、人の声を感知するモードに切り替えると、説明員の声だけが浮かび上がってくる。それでいて、軽快な装着感で、日本での販売価格も税込3万円以下と、非常に魅力的な製品だ。

なお、アクティブノイズキャンセリングに対応しないAirPods 4も、2万1800円(税込)で販売されるが、ケースが異なり、ワイヤレス充電やスピーカー、「探す」機能が省かれている。

オーディオや「聴覚」に注力

今回の発表を通じて、一貫してテーマとなっていたのは、オーディオ、聴覚についてだ。

iPhone 16 Proでは、4つのマイクによるスタジオ品質の録音が可能となり、ビデオに映っている人の声のみを拾ったり、映画のように人の声が中央から聞こえるような効果を適用できるようになった。

これはまわりの雰囲気を記録したいのか、会話に注目したいのか、という意図を音声で再現することができる。

また、iPhoneを用いた聴力検査への対応や、AirPods Pro 2のアップデートで、聴力チェックを行い、聞こえにくい周波数帯を検査し、AirPods Pro 2に聴力補助を行う役割を持たせることができるようになる。

アップルは今回、他社が手がけている折りたたみ型の端末などは用意せず、これまで通りのスタイル、細長い長方形の板状のスマートフォンで勝負をした。

かつ、売りになるはずのAI機能「Apple Intelligence」は年内にはアメリカや英語圏での利用開始となり、日本を含むその他の国々ではマーケティング上の即効性を持たない。

一番の売りを封じられている状況にあっても、iPhone 16、iPhone 16 Proの双方で魅力的な機能を追加した。

カメラ機能とバッテリー性能は、アップルが長年取り組んできた、多くの人たちが共通して興味を持つ要素であり、そこがまだ進化する、ということに驚かされた。

単に1つの機能を向上させるのではなく、設計全体を最適化させながら、できることを増やしていく、そんな地道ながら着実なアップルの姿勢が、強く表れた発表だったのではないだろうか。


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(松村 太郎 : ジャーナリスト)