やる気のない人を「思い通りに動かす」方法を解説します(写真:miyuki ogura/PIXTA)

「人生」や「ビジネス」の問題にぶつかったとき、そこには、学校のテストの問題のように、1つの明確な答えは存在しないもの。そう語る作家の西沢泰生氏は、同時に、「明確な答えがない以上、たぶん、これが最良なのではないか?」という、自分なりの答えを導き出して対応するしかないとも語ります。

そんな「困難」の1つとして挙げられるのが「マネジメント」。ここでは、なかなか思うように動いてくれない人を上手にコントロールするためのヒントを、著名人の実際のエピソードを基にしながら、西沢氏が紹介します。

※本稿は、西沢氏の著書『一流は何を考えているのか その他大勢から抜きん出て、圧倒的な結果を生み出す「唯一無二の思考」』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

「フォアボールの数を倍増」させた岡田監督のひと言

2023年。プロ野球で日本一となった阪神タイガース。

その勝利の大きな要因の1つだったのが、相手ピッチャーから選んだフォアボール(四球)の多さでした。

前年まではボール球を振って三振するバッターも多かったにもかかわらず、突然、フォアボールを選ぶ選手が増えた理由。それは、開幕の前日に岡田監督が選手に伝えたあるひと言だったのです。

問題:選手に四球を選ばせるため、岡田監督が伝えたのはどんなひと言だったでしょう?

ヒント:「今シーズンの目標はボール球を打たないことや」ですって? 違います。

答え:「フロントにかけ合って、今シーズンは、フォアボールはヒットと同等の査定ポイントにしてもらった」と伝えた。

岡田監督は、四球が相手投手に与えるダメージの大きさを重視していました。

そこで、フロントにかけ合って、「フォアボールはヒットを打ったのと同じ査定にする」ことを認めさせ、シーズンが開幕する前日の全体ミーティングで、選手たちにそれを告げたのです。

どんなにコーチから「ボール球に手を出すな」と言われても、「ヒットを打ってナンボ」と思っていたら、選手は自然とバットを振ってしまいます。しかし、四球がヒットと同等に評価されるというなら話は別。現金な話ですが、阪神の選手たちは、ガラリとボール球を見逃すようになったのです。

2位に11.5ゲーム差をつけて、ぶっちぎりの優勝

結果、タイガースは、相手ピッチャーから1シーズンで494個のフォアボールを獲得。他のセ・リーグ5球団の平均が364個ですから、その多さがわかります。四球でランナーが溜まることで、得点力も大きくアップしたというわけです。

もちろん、優勝した理由は他にもあります。しかし、フォアボールによって得点力がアップしたことで、もともと防御率がよかった投手陣との歯車が合い、他の5球団すべてに勝ち越します。結果として2位の広島カープに、11.5ゲーム差をつけるぶっちぎりの優勝につながったのです。

これ、言わばお金で釣るというニンジン作戦です。

なんだかんだ言って、昔も今も「お金」は、仕事のモチベーションアップに直結するもの。誰だって、同じ仕事で給料が20万円の会社と50万円の会社だったら、やる気が倍以上違いますよね。

アメリカのあるビジネスコンサルタントの例ですが、こんな話もあります。

リストにあるお客様へ次々に電話をかけていく、いわゆる電話営業の会社のコンサルを依頼されたときのこと。従業員たちは、電話で相手から断られることに辟易していて、電話の手が止まっている状態でした。

そんな、すっかりやる気をなくしていた従業員たちに向かって、この営業コンサルタントは次のように言います。

「午前中、最初に50人に断られた者に、最高級のランチをご馳走しよう」

これを聞いた従業員たちは大喜び! われ先に営業の電話をかけ始めます。そして、相手に断られると「やった、1人断られた!」「よし、また1人断られた」と、どんどんテンションが上がっていきました。

それまでは、相手に断られるたびに落ち込んでいたのに、高級ランチがかかった途端、「早く断ってくれないかな」と、気持ちが180度逆転しました。

結局、「数をこなせば、成約は増える」という営業活動における数の論理が働き、あっという間に売り上げが倍増したのです。

これも、相手の目の前にニンジンをぶらさげることで、テンションを上げることに成功した事例ですね。人に動いてもらいたいときのニンジン作戦は、単純ですが、かくのごとく効果バツグンなのです。

ポイント:「楽しくないこと」は、ご褒美で「楽しいこと」に変える

松丸亮吾を1日3時間の勉強に導いた「母親の策略」

テレビで大人気の謎解きクリエイター・松丸亮吾さん。学生時代から謎解きゲームに夢中で、勉強は大嫌いでした。

そんな松丸さんが勉強をするようになったのは、母親のひと言があったからだったのだとか。

お母さんは、あるひと言で、松丸さんに1日3時間、勉強させることに成功したそうです。

問題:ゲームに夢中だった松丸さんに、勉強をさせることに成功したお母さんのひと言とは、どんな言葉だったでしょう?

ヒント:お母さんは、ゲームをやることは禁止しませんでした。

答え:「勉強を3時間やったら、いくらでもゲームをしていいわよ」

実は松丸さん、何をやっても優秀だったお兄さん(メンタリストのDaiGoさん)への対抗意識から、小学生のときに「東大へ行く!」と宣言したことがあったそうで、受験して第1志望の中学校に入学。しかし、中学に入ってしまうと、宣言とは裏腹にゲーム三昧の日々に。

そんな自分に勉強をさせたお母さんの言葉について、松丸さんはこう回想しています。

「この設定が絶妙だったんです。母親は、やりたいことを人質にしたほうがいいって考えたんです」

これ、よく聞くのは、「ゲームは1日2時間までよ!」と、ゲームをやる時間を制限してしまう親です。でも、これだと、ゲームを2時間やったあとで、勉強をやるとは限りません。もしかしたら、漫画を読んでしまうかもしれない。

ですから、松丸さんのお母さんは、勉強を前に持ってきて、ゲームを後にしたんですね。これなら大好きな謎解きゲームをやるために、勉強しないわけにはいきません。

3時間勉強すれば、あとはいくらゲームをやっても文句を言われないのですから、「馬の目の前にニンジンをぶら下げている状態」。

この母親の策略にまんまとハマった松丸さんは、大好きな謎解きゲームをやりたいために、毎日、3時間の勉強を実行。もともと物覚えがよかったこともあって、成績はグングン上がったのだそうです。

高校2年生の冬に亡くなった母の日記

勉強嫌いだった松丸さんが、東大に合格することができたのには、もう1つ、やる気となった出来事がありました。

それは、お母さんが亡くなったこと。


「勉強を3時間やったら、いくらでもゲームをしていいわよ」と、松丸さんのやる気を引き出したお母さんは、松丸さんが高校2年生の冬に亡くなってしまいます。

その遺品を整理しているときのこと。松丸さんは、お母さんが残した日記のなかに、次のようなひと言を見つけてショックを受けたのです。

「亮吾が東大に受かるところが見てみたい」

お母さんは、小学生のときの松丸さんの宣言を覚えていて、楽しみにしていたのです。このひと言を見つけたことが、松丸さんにとっては、本格的に「東大に行こう」と決心するきっかけになりました。

結果、冬の学力テストでは、校内全体300人中298位だった順位が、春に猛勉強し、次の全校テストでは、校内順位が7位にまで上がったのです。

人間、本気でやる気になると、とんでもない力が出るもの。おかげで東大に合格した松丸さん。世に出るきっかけになったのは、「東大の謎解き超人」という称号でした。

お母さんが残してくれた日記にあったひと言が、現在の松丸さんをつくったのです。

ポイント:人に動いてもらう最もよい方法は、ご褒美をエサにすること

(西沢 泰生 : 作家・ライター・出版プロデューサー)