メキシコのソノラ・リチウム粘土鉱床の埋蔵量は世界最大級とされるが、商用採掘の段階にはまだ至っていない(写真はバカノラリチウムのウェブサイトより)

メキシコのリチウム鉱山の採掘権益を取り消された中国企業が、メキシコ政府を相手取り国際機関に仲裁を申し立てた。

中国の民営リチウム大手の贛鋒鋰業(ガンフォンリチウム)は6月25日、世界銀行グループの投資紛争解決国際センター(ICSID)から、同社の申し立てが受理されたという通知を受け取ったと発表した。

贛鋒鋰業によれば、同社の申し立ては中国政府とメキシコ政府およびイギリス政府とメキシコ政府の間で取り交わさされた「投資促進及び相互保護に関する協定」を法的根拠にしている。贛鋒鋰業は、メキシコ政府がこの協定に違反して同社の権益を取り消したと主張し、損害賠償を求めた。

英企業を買収して権益確保

この紛争の発端は、メキシコ政府が2022年にリチウム資源の国有化を宣言したことだった。その3年前の2019年、贛鋒鋰業はメキシコ・ソノラ州のリチウム粘土鉱床の開発権を保有するイギリス企業、バカノラリチウムに資本参加した。

ソノラ州のプロジェクトは、民間資本が手がけるリチウム資源開発としてはメキシコで唯一の案件だった。その後、贛鋒鋰業はバカノラリチウムの株式を2度にわたって買い増し、2021年に完全子会社化した。

ソノラ・リチウム粘土鉱床は、炭酸リチウム換算の推定埋蔵量が約882万トンに上る世界最大級のリチウム鉱山だが、商用採掘の段階にはまだ至っていない。

贛鋒鋰業はバカノラリチウムの買収に累計2億5800万ポンド(約522億円)を費やし、第1期プロジェクトの稼働後に年間2万トンの炭酸リチウムを生産する計画だった。メキシコ政府は2021年12月、この買収(による採掘権益の移転)を認可していた。


贛鋒鋰業は海外のリチウム鉱山権益に積極投資を続けてきたが、メキシコでは躓いた。写真は同社が権益を持つオーストラリアのリチウム鉱山(同社ウェブサイトより)

ところが、当時のリチウム相場の急騰を受け、メキシコ政府は2022年4月に鉱業法を改正。メキシコ国内のリチウム資源の採掘権益を国有企業にのみ与える方針に転換した。

メキシコで行政訴訟も提起

贛鋒鋰業のソノラ・リチウム粘土鉱床の採掘権益は、鉱業法の改正前に認められたものだ。そのため、メキシコ憲法が認める法の不遡及の原則により、既存の権益は影響を受けないと同社は主張した。


本記事は「財新」の提供記事です。この連載の一覧はこちら

にもかかわらず、メキシコ鉱山総局は2023年8月、贛鋒鋰業の採掘権益の取り消しを通告。同社はそれに猛反発し、メキシコ経済省に行政不服審査を申し立てたが却下された。

そこで2024年1月、贛鋒鋰業はメキシコ連邦行政裁判所に行政訴訟を提起。申請はすでに受理され、審判を待っている状況だ。今回の仲裁申し立てはこれに続くもので、ICSIDの判断が注目される。

(財新記者:盧羽桐)
※原文の配信は6月26日

(財新 Biz&Tech)