しっかりコストをかけて対応しなければ、結果的にコスト増や交通弱者の増加を招くとして取り組む

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ことでん(高松琴平電気鉄道)の高松築港駅にて(筆者撮影)

日本の都道府県の中でもっとも面積が小さい、香川県。その県庁所在地が、高松市である。この高松市が近年、「公共交通ネットワーク再構築」に積極的な町として知名度が上がっているという。その実態を取材すべく、高松市へ向かった。


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羽田空港から高松空港に到着すると、そこは讃岐山脈から続く丘陵地帯で、高松市街に向かって平野が広がっている。

空港から約10km走ると、東は徳島、西は愛媛につながる高松自動車道の下をくぐる。この周辺は、マンションや比較的新しい戸建て住宅があり、関東圏でもなじみのあるロードサイド飲食事業店も少なくない。

そこから約2km進むと、国の特別名勝に指定され、日本最大の広さを誇る文化財庭園「栗林公園(りつりんこうえん)」が左手に見えてくる。

その先は、香川県庁、高松市役所、ビジネス街、高松中央商店街などが集約するエリアとなる。高松中央商店街は、アーケードの総延長が2.7kmもあり、日本一長いアーケード商店街だと言われている

さらにその先は、瀬戸内海の小豆島、直島、女木島などとの定期航路を運航している高松港。そこに隣接する形でJR高松駅、および「ことでん(高松琴平電気鉄道)」の高松築港駅がある。


高松港に停泊していた小豆島フェリー、Olive Line(筆者撮影)

5つの鉄道が走る街

JRは、高松と愛媛を結ぶ予讃(よさん)線と、高松と徳島を結ぶ高徳(こうとく)線。また、私鉄のことでんが、琴平線、長尾線、そして志度線の3路線を香川県内で運行している。40万人規模の都市で、5つの鉄道路線を持つ都市はめずらしい。

これは、瀬戸大橋を走る鉄道が開通した1988年まで、本州と四国を結ぶ唯一の交通手段だった宇高連絡船(岡山県宇野駅〜高松駅)により、高松が四国の玄関口であったことに起因するものだ。

こうして、高松市街地周辺をめぐると、地理的な環境として「コンパクトな体系の町」というイメージが実感できる。

そんな高松市が実行しているまちづくりが、「高松モデル」だ。詳細について、高松市都市整備局交通政策課の皆さんから話を聞いた。


左から課長補佐の永木梨絵氏、課長の吉峰秀樹氏、主幹の片原光隆氏(筆者撮影)

高松市のまちづくりに対する変革のきっかけは、2010年11月に策定した「総合都市交通計画」だったという。2007年に就任し、現在5期目となる大西秀人市長のリーダーシップにより、議論が始まったものである。

同計画にともない、具体的に動き出したのが2013年9月。高松市公共交通利用促進条例の施行だ。

キーワードは「協働」。市、市民、公共交通事業者、そして一般的な事業者それぞれが、「私事として未来の生活を具体的に考えることを目指す」とした。

その中で、高松市は市の予算をしっかり使う施策を「積極的に行う」と記している。当時、公共交通の大規模な変革について、自治体が公言するケースはまだめずらしかったといえよう。


先行投資をしなければ、結果的にコスト増と交通弱者の増加などが起こるとの考え(高松モデルの資料より)

見方を変えれば、高松市の公共交通は、考え方次第で「大きく改善する余地があった」ともいえるのではないだろうか。

鉄道とバスの関係を再構築

もともと、高松市街から放射線状に比較的距離の長いバス路線が走っていたが、その多くが鉄道と並行した路線だった。

そこで、鉄道を軸として、交通結節点となる新駅を作るなどして、路線バスから鉄道に乗り換えてもらうような仕組みを考案。結果的には、バスを減便することになった。ただし、これは一気に進めたのではなく、社会情勢に応じて段階的に実施している。


交通結節点として新設された、伏石駅(筆者撮影)

2019年には路線バスの運転手不足に対応、2021年には交通結節拠点とした琴平線の新駅である伏石(ふせいし)駅を開設。そして本年度は、2024年問題などに対応して路線バスの大幅減便を実施している。

ことでんから高松市に対して、鉄道とバスの乗降データを開示してもらっていることで、施策の実効性が上がっているという。とはいえ、公共交通の利用者の中には、新しい仕組みに対する抵抗感を持つ人もいた。それを高松市は、次のような施策で解決している。

ひとつは、交通結節拠点での乗り継ぎの「利便性を上げる」ことだ。東京など大都市に住む人であれば、公共交通の乗り継ぎにあまり抵抗感はないだろう。

それが高松市のような地方都市になると、目的地まで「1本で行けることが当たり前」という考えを持つ人が少なくない。乗り継ぎは面倒であり、余計な時間がかかるという抵抗感があるのだ。

その解決方法として、路線バスと電車のダイヤを調整するなど、乗り継ぎ時の待ち時間縮小に努めた。あわせて、バスロケーションシステムを活用したデジタルサイネージを設置したり、自転車駐輪場を設置したりもしている。


高松市街地を走る、ことでんバス(筆者撮影)

また、中心部で起こる朝晩の渋滞を避けるため、都市部から少し離れた仏生山駅では、パークアンドライド用に116台の駐車場を設置。利用者が、年々増えている状況だ。

もうひとつは、乗り継ぐことで利用料が増加することを防ぐ施策で、ICカード「IruCa(イルカ)」を活用して、路線バスと電車の乗り継ぎ割引をそれまでの20円から100円に拡大している。また、路線バスとコミュニティバスの乗り換えでも、100円割引を公費で賄う形とした。

また、市内在住の70歳以上は、IruCaで電車、路線バス、コミュニティバス等の公共交通の利用料を半額にしている。2024年3月末時点で、70歳以上人口の約33.6%がIruCaを所有するまでに普及が進む。

新交通「バタクス」の実証試験も開始

こうした施策の効果は、はっきりと表れている。コロナ前に右肩上がりであった、ことでんの鉄道とバスと利用者数は、コロナ禍で一気に減少したものの、その後は現在に至るまで順調に回復している。

一方で、路線バスの利用数が極端に少ない、または鉄道の駅までかなり遠い地域など、いわゆる交通空白地域においては、新しい交通手段を考案した。

今年1月から実証試験を1年間行う「バタクス」だ。路線バスとタクシーの中間的な存在という意味合いから、そう名付けられた。

実証試験では、平日6便の定時定路線(ジャンボタクシー、乗り合わせ4人まで、200円定額)と、12時から17時まで、指定エリア内でどこでも行けるオンデマンド型路線(同一目的地であれば4人まで乗り合わせ可能、600円定額)の双方による検証を行っている。


実証試験中の「バタクス」。一般のタクシー車両を使う(写真:高松市)

前者は、市が運賃収入以外を全額負担。後者は、運行距離に応じたタクシー運賃から、運賃を控除した額の3分の2を高松市が、残り3分の1を事業者が負担する仕組みだ。どちらも運用は、交通事業者が緑ナンバー車で行う。

乗り合いタクシーは、市が事業者から借り上げる形が一般的だ。そのためバタクスでは、市の負担を大幅に軽減できる。

ただし、こうした仕組みは全国で前例がないため、高松市は現在、国と協議を進めている段階だ。高松市は、現時点で利用者数が少ないコミュニティバスの代替交通として、バタクスを使うことも視野に入れている。

先を見ながら「変革の可能性」を深掘りする

こうして、高松市の公共交通の再編計画の実態を知って感じるのは、「積極性と実効性の高さ」だ。

しかも、他の都市における公共交通と財政負担の割合からみれば、高松市の財政負担は最小限に抑えられている。2023年度の公共交通施策予算は年間約2億5000万円で、一般会計に占める割合は、約0.15%だった。

財政負担が多くなりがちな地域交通施策の中にあって、財政負担を抑えながら利便性を高めている点は、高松モデルで注目すべき部分だろう。


高松市は「持続可能な公共交通ネットワークを再構築」するとしている(高松モデルの資料より)

高松市は、高松モデルについて次のように説明している。

「既存ストックとICカードを活用し、ハード・ソフト両面からの施策により、一定のサービス水準を維持しながら、持続性の高い公共交通に変えつつ、需要に合わせた供給の最適化を行う」

社会の現実を直視し、一歩先を見ながら「変革の可能性」を深掘りする。それが「高松モデル」であると感じた。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)