「発表が嫌」「友達が少ない」内向的な子にNGな言葉
さまざまな授業で発表する取り組みが増えていますが、内向的な性格の子どもには心理的な不安が大きいこともありそうです(写真:Fast&Slow / PIXTA)
内向的な子どもを育てている保護者は、子どもが「学校生活をちゃんと送れているのか」「友だち関係は大丈夫なのか」といった心配をしがちです。臨床心理士で公認心理師の吉田美智子さんの著書『声かけで伸ばす 内向的な子のすごい力』から一部を抜粋・再編集し、「クラスで発表できない」と「友達がいない、少ない」という悩みについて考えてみます(内向型とHSC型の説明は前記事でご確認ください)。
人前で発表するのを苦痛に感じているとき
親が子どもにクラスで発表してほしいと願う気持ちには、「失敗を恐れずにチャレンジできる人になってほしい」や「自分の意見を言える人になってほしい」という思いが込められています。
子どもが発表するかどうかは、先生の雰囲気づくりやクラスメートの顔ぶれといった子どもの性質以外の要因も関係しますから、無理強いせずにチャンスを待つことも大切です。
まず子どもへの対応として避けたほうがいいNGな接し方を見ていきましょう。ただし一度でも言ってはいけない/やってはいけないと思わなくて大丈夫です。つい言ってしまうことは誰にでもありますし、子どもにも傷つきから回復する力があります。
× 「みんな発表しているよ?」
誰かと比べる言葉は、「あなたにもできるよ」と応援したつもりでも「なぜあなたにはできないの?」という批判として子どもに伝わってしまいます。
これらの言葉は、子どもが嫉妬や劣等感を覚えたり、いらだちや怒りを生んだりします。子どもが自信をなくすので注意してください。「あなたにもできると思うな」と、親が子どもを信じる気持ちをシンプルに伝えてあげましょう。
× 「恥ずかしがらないで」「失敗を怖がるのはよくないよ」
恥ずかしさや失敗を怖いと感じる気持ちは自然なものですから、否定してはいけません。不安な気持ちを否定されると、子どもは不安をのみ込むようになります。
その様子は一見不安を克服しているように見えますが、蓋をしているだけなので、今後のチャレンジを避けるようになってしまいます。
× 「成績が落ちちゃうよ」
授業中に積極的に発言することは、意欲的な授業参加と評価されます。逆に発表できないと、成績に影響することがあるかもしれません。ただ、成績で脅して発表を無理強いすると内向型は反発して、HSC型は過度に成績を気にするようになります。
たとえその場はがんばれても、持続することは難しく、自信をなくしたり、よけいに発表を避けるようになることもあるので控えましょう。
不安な気持ちに寄り添ってあげて
何事もじっくり考えて、独自の視点がある内向型は、クラスに貢献できるよい意見を持っています。
でも、考えることに時間がかかるのでタイムリーに考えをまとめられなかったり、みんなと違う意見を主張する勇気が湧いてこなかったりと発表することへのハードルが高いのも事実です。
「別にわたしが言わなくてもいいんじゃないか」と消極的になったり、面倒くさくなったり、あきらめてしまうこともあるでしょう。
そのため、発表する・しないはいったん置いて、子どもが自分でしっかり考えることを優先するように話しましょう。
そのうえで、「こんなにしっかりと自分の考えがあるのだから、いい発表ができるようになるよ」「今は勇気がなくて言えないことも、少しずつ経験を重ねると言えるようになっていくものなんだよね」と成長の道筋と将来像を示してください。
一方、HSC型の子どもは、安心してふるまえる関係性の中では、失敗を恐れずに自分から発表することができます。
でも、失敗を笑ったり責めたりする雰囲気や、陰で馬鹿にする人間関係があるときは落ち着かなくなります。クラスの雰囲気を読んで、みんなに求められている発言をしたり、萎縮して何も言えなくなったりするのです。
まずは「雰囲気が悪いと誰だって自分の意見を言えなくなるよね」「自分が安心できる雰囲気のときに、またがんばればいいね」と伝えてあげましょう。
そして、不安を感じる雰囲気の授業の過ごし方について、親子で考えてみてください。人は誰でも不安だと目の前のことが手につかなくなるものだというスタンスは崩さずに、「でも、それだけだと悔しいから、できることをやってみない?」と提案します。
先生の話をしっかり聞く、ノートはしっかりとるなど、子どもができることを一緒に考えてあげましょう。何かに集中することで、不安や緊張にのみ込まれずに過ごせる経験を重ねると、子どもは少しずつ不安をコントロールする力をつけていけます。
友だちが少ないと心配になるけれど…
友だちがいると学校生活が楽しくなりますが、友だちづくりはなかなか難しいものです。友だち関係は、どのように見守ってあげるといいでしょうか。まずはNGな接し方から見ていきます。
× 「消極的なところを直そうよ」
友だちが少ないのは子どもの消極性のせいだと感じて、直してほしいと言ってしまいがちです。でも、欠点を指摘されたからといって、すぐに直せるわけではありません。
消極性を指摘されると、「やっぱり自分はよくないんだ」「変えたいけど変えられない自分はダメだ」と自信をなくしてしまいます。
子ども自身が自分を変えたいという気持ちになって、努力する日は必ずやってきます。中学生以降の新学期などに決意することが多いですから、それまでは、おおらかな気持ちで見守ってあげてください。
× 「自分勝手だから、仲良くしてもらえないんだよ」
順番を守って遊べない、負けを認められない、気持ちのコントロールが難しいなど、自分の子どもの言動に課題があると、それが対人関係に影響しているのではないかと心配になるでしょう。
そんなときは、「あなたが悪いところを直さないとダメだよ」と言いたくなる気持ちもとてもわかります。
しかし、これは子どもの性格の問題ではなく、成長がまだ追いついていないことが原因になっている可能性が高いのです。
小学校低学年までは、子どもたちはお互いに自分勝手なふるまいをするものです。小学校3、4年生になると「自分が人にどう思われるか」がわかるようになるので、自分の気持ちをコントロールして相手に嫌われないふるまいをするようになります。
子どもがこの段階に達していないときに注意したり叱ったりしても、自分の言動を変えることはまだ難しいでしょう。子どもの自尊心を傷つけてしまうことがあるので伝え方に注意が必要です。
本人が自然にできるようになるまでは、子どもを叱らずに、相手の子の気持ちを説明しながら困った事実を共有して、理解をうながしてみてください。何よりも子どもの成長を待ってあげることが大切です。
友だち関係に介入するより大事なこと
内向型の子どもは、友だちをたくさんつくってにぎやかに過ごすより、気の合う友だちとお互いが好きなことをして心地よく過ごすことを好みます。友だちの人数は少なめですし、仲良くなるのに時間もかかります。
しかし、関係性を大切にできるので、クラス替えがあっても疎遠にならずに継続した関係を保つことができます。
内向型は自分のペースで友だちづくりをするので、基本的に心配しなくてもいいですが、子どもが困ったり悩んでいるときには相談にのってください。
たとえば、子どもが「新学期の友だちづくりのタイミングに出遅れてしまった」と困っていたら、「このあと仲良くなる子を見つけるチャンスはくるから、あせらなくて大丈夫」と伝えましょう。
友だちに話しかけたいけれど勇気がでないときは、「目が合ったら、ニコッとしてみる?」や「好きなものが同じだね、と言ってみる?」のようにヒントを伝えます。
ただ、大人が細かく友だちのつくり方を伝授しても、子どもの世界でうまくいくとは限りませんので、あまり入り込まないように注意しましょう。
それよりも、子どもが困ったときは親が話を聞いてくれたり、一緒に考えたりしてくれるから心細くないと感じられるように接してみてください。
内向型は、自分が人と違うことを誇りに思う一方で、誰にもわかってもらえないと感じて悩んでしまうこともあります。
そういうときに言葉で「あなたの気持ちわかるよ」と言っても、うわすべりしてしまいます。
「うまくわかってあげられないかもしれないけど、あなたはとてもいい子だよ。大事に誇りに思っている。わたしは、いつもあなたの味方だよ」と、子どもを大切に思う気持ちを伝えてください。
他にも子どもの好きなおかずをつくる、おやつタイムを設けるなど、子どもがうれしいと感じることをするのもいい方法です。親が味方だと感じることは、子どもにとって何よりの支えになります。
子どもが不安を覚えるときは
一方、HSC型の子は、安心できる環境なら友だちづくりに困ることはありませんが、年齢や所属集団によって不安になるときがあります。
クラスの中にスクールカースト(生徒間で上下の序列)があるときや仲間はずれがあると、自分が意地悪されていなくても、萎縮して友だちづくりをあきらめてしまうかもしれません。
スクールカーストも仲間はずれも、思春期の子どもたちなりの秩序づくりで、いわば処世術です。いいことだとは言えませんが、子どもたちはいろいろなやり方で不安定な時期を乗り越えようとしています。
支配的な言動をとる子どもにも事情があること。また、意地悪をされた側には落ち度がないことを客観的にとらえられると、共感や許容はできなくても理解はできるようになります。すると、意地悪な雰囲気にのみ込まれるのではなく、精神的に周囲の環境から距離をとることができます。
この方法は簡単ではありませんが、自己理解、他者理解、対処法を考えることは、HSC型の子どもが逆風の環境下でもがんばれる力を育てます。
HSC型の子育てで親の負担が大きいときは、先生やスクールカウンセラー、信頼できるお友だちのお母さんなどに協力を依頼してみるのがおすすめです。
(吉田 美智子 : 臨床心理士・公認心理師)