最新作の「バチェロレッテ・ジャパン」シーズン3はインドネシア・バリ島が舞台。過去シリーズより恋愛熱は低温だ(画像:©2024 Warner Bros. International Television Production Limited. All Rights Reserved)

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

3代目は東大卒の元官僚リケジョ

ある意味、やっぱり裏切りません。婚活リアリティ番組「バチェラー・ジャパン」男女逆転版の最新シーズンが話題を呼んでいます。主役のバチェロレッテを前にして、過去に例を見ないほどスンっとなる男性陣の姿が斬新です。7月11日夜に全9話が揃ったところで、リアリティ味が増した婚活の旅を振り返ります。

2020年から始まった「バチェラー・ジャパン」男女逆転版の「バチェロレッテ・ジャパン」は本家に負けず劣らず人気を集めているシリーズです。結婚適齢期の独身女性が主役となって、多数の男性候補から未来の結婚相手を真剣に選び抜く内容は、リアリティ番組の中では硬派と言えるもの。一時の恋ではなく、真実の愛を求めることから、感動したいときにうってつけです。

今回もホロっと泣けてしまうことを期待しながら、Amazonのプライム・ビデオで6月27日から独占配信開始された最新作のシーズン3を見始めた人も多いのではないでしょうか。インドネシア・バリ島を舞台に非現実的な空間が広がる映像で気分を高めてくれますが、過去シリーズより恋愛熱は低温スタートです。


3代目バチェロレッテの武井亜樹さんのハイスペックぶりも話題に。東大卒、元官僚で、現在は宇宙事業に関わる(画像:©2024 Warner Bros. International Television Production Limited. All Rights Reserved)

3代目バチェロレッテを務めるのは武井亜樹(たけい あき)さん。切れ長の目を持ち、センター分け黒髪ストレートロングのアジアンビューティ系です。タレントのアンミカさんにどことなく似ています。ミスユニバース2022でセミファイナルにまで残った自信も伝わってきます。

確固たる自信は学歴、キャリアからも表れています。東京大学で航空宇宙工学を専攻し、大学卒業後は経済産業省に入省、現在はフリーランスとして日本で行われている宇宙関連のプロジェクトに携わっているそうです。これだけでも相当強そうな履歴書ですが、空手の黒帯まで持っています。どこまで掘っても最強の27歳(撮影時)なのです。

一方、「恋愛経験は多くない」と話すバチェロレッテ亜樹さん。15人の候補者男性たちと初めて対面するロマンチックなシーンで「緊張は驚くことにまったくしてない。楽しいことが始まるので、緊張する必要がない」と理路整然と語ってしまうその物言いから、隙がなくガードもしっかり堅そうです。

極めつきは「ローズを渡さないでほしい」

史上最強のバチェロレッテというフレーズに納得する場面は続きます。一方で「スンっとなる」男性陣の姿がいつまでも続いていきます。一人だけならまだしも、恋のトーンダウンが隠せない男性が次から次へと出てくるのです。まさにこの今までに見たことのない男性たちの離脱の姿に面食らってしまうのが話題の発端です。


「スンっとなる」男性陣の姿が斬新だ。恋のトーンダウンが隠せない男性が次から次へと出てくる(画像:©2024 Warner Bros. International Television Production Limited. All Rights Reserved)

仮に参加した男性陣が難だらけであれば、キャスティングミスとして避難の声が殺到するのは無理もありませんが、今回も多彩で魅力的な男性陣が揃っています。高学歴のバチェロレッテ亜樹さんに合わせてか、むしろ一般的にハイスペックと言われる面子が多めです。全15名のうち、医師が3人もいて、実業家や経営者を名乗っている人は5人。さらにヴィオラ奏者兼作曲家と物理化学者までいます。

性格まで温厚そうです。周りをかき乱すようなくせ者系はゼロ。番組の趣旨を理解して、男性陣もバチェロレッテ亜樹さんと向き合っているように見えるのですが、そのうえで出てくる言葉は「妹のようにしか見えない」「好きになっているかもしれない」「感情が入らない」といったもどかしさに溢れかえっています。


本来は番組最大の見せ場である「ローズセレモニー」が今回は全体的にあっさりとした印象を持たせる(画像:©2024 Warner Bros. International Television Production Limited. All Rights Reserved)

とある男性からは退散を意味する「ローズを渡さないでほしい」という極めつきの一言まで飛び出します。恋愛スイッチ全開の男性が見当たりません。撮影期間が過去のシリーズよりも短縮されて約1カ月ほどだったことが多少なりとも影響していそうですが、それにしてもです。

一方、男性陣の言葉尻や塩対応を逃さずにはいられないのか、バチェロレッテ亜樹さんは亜樹さんで果敢に詰めてきます。たとえばデート中の会話で、物理化学者の櫛田創(くしだ そう)さんが悪気なく「バチェロレッテたるゆえんを示せる場面があるけれど、それをやらないよね」と伝えると、亜樹さんは「普通の人に見えている」と解釈し、不満な様子。どうやら「普通」が地雷ワードだったようです。

何としても「普通」を撤回したい亜樹さんが、男性陣に向かって唐突にネイティブ並みの英語で語り始める場面は言うなれば自我との闘いです。熱い恋愛番組はどこに行ってしまったのだろうかと、たびたびあんぐりさせられます。

昭和から令和にアップデート

裏を返せば、ツッコミどころが多く、予想外を楽しむリアリティ番組の醍醐味を味わえます。ただし、バチェロレッテ亜樹さんに対する謎のマウントや過度な揶揄がSNS上で盛り上がってしまっていることは残念です。こうしたリスクはありつつも、最後の最後まで盛り上がりに欠けた恋愛にもかかわらず着実に話題になったのは、注目度が高い人気番組がなせる業なのかもしれません。

毎シーズン同じパターンが展開されるよりも、マンネリ化も防げます。撮影を終えた後に編集上で加えられる演出で新鮮味を出すこともでき、今回は煽る見せ方を極力避けているようでした。番組最大の見せ場である「ローズセレモニー」がサクサク進んでいくのです。バチェロレッテはいったい誰にローズを渡して、誰がローズを受け取って残るのか、本来は緊張感が高まる場面なのですが、音楽やカメラワークが割とあっさり気味の印象を持たせています。


デートシーンも会話が多め。バチェロレッテ亜樹さんの個性に合わせた演出なのだろうか(画像:©2024 Warner Bros. International Television Production Limited. All Rights Reserved)

これもバチェロレッテ亜樹さんのパーソナリティに合わせた演出なのかもしれません。既成概念に囚われないスタンスを持っているようですから、高嶺の花を巡る争奪戦という昭和的な構図よりも互いに対等な立場で対話を重視したと考えることができそうです。実際にとにかく話し合いを重ねています。令和版にアップデートした今回が今後のスタンダードになっていく可能性だってあります。もし、こってりした実家デートがこのままなくなってしまうとすると、それだけは寂しい気もします。

これまでの「今度は女が選ぶ番」というキャッチコピーで初代バチェロレッテの福田萌子さんが見せた愛のレッスンも、ディズニープリンセスのような2 代目尾粼美紀さんのモテぶりも個性そのものです。3代目亜樹さんもスンっに負けない強さがしっかり出ています。恋の化学反応が起きなかった現実をありのままに見せるという番組としての面白さがあるのです。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)