RGBのライティングが、唯一のアドバンテージかも...。
Photo: Kyle Barr / Gizmodo

まだまだ発展途上の携帯PCゲーム機市場。

もし、MSIが競合他社よりも機能を絞った低価格帯のデバイスを開発していたら、もっと人気が出ていたかもしれません。ただ、登場したMSI Claw A1Mは、現在発売されているLinuxまたはWindowsベースの携帯PCゲーム機の中で、最も高価なデバイスの1つでありながら、安っぽさすらある、課題の多い製品のように感じてしまいます。

MSI自体も課題を認めているようで、近いうちに新しい製品を発売する予定です。私がレビューした感覚では、パフォーマンスは決して悪いとは言えません。それでも、もし検討している人がいるなら、ぜひこのレビューを見ていただけたらと思います。

MSI Claw A1M

他の機種よりも大幅に安く手に入る機会がなければ、今年の後半に出る後継機を待つ方が良さそう。Intel Core Ultra 7モデルは750ドル(日本では11万円弱)から発売されています。今回のレビュー機は、1TB版800ドル(日本価格12万7000円)のモデルです。

これは何?

CPUにIntel Core Ultraを採用した携帯ゲーミングPC。最新のアップデートで一部にあった批判を払拭したものの、ライバルに勝る選択肢になるのは難しい。

長所

・フェイスボタンのRGBライティング

・最新のアップデートと「Over Boost」により全体的なパフォーマンスが大幅に向上

短所

・システム管理ソフト「MSI Center M」が使いにくい

・バッテリー寿命が微妙

・コスパが疑問

700ドルを超えるClawの2つバージョンには、Intel Core Ultraチップが搭載されています。過去数ヶ月間、Ultra 7モバイルチップをたくさん触ってきたので、携帯PCゲーム機でどのようなパフォーマンスになるのかおおよそ検討はついていました。

最新のアップデートを迎えたClaw。MSIは「ASUSのROG Allyよりも複数のタイトルでより良いパフォーマンスを発揮する」と約束してくれていたはず…。もちろんそうなれば、価格が他社製品に比べて高くても、買う理由になったはずです。

しかし、実際には、そうなっていなかったと言わざるを得ません。

MSI Clawにはスティックとボタンの両方にRGBライティングがあり、見た目はいい感じです。もちろん光らせるためにバッテリーは消費しますが、この見た目に心惹かれる人も少なくないはず。ただ、これだけが、他の主要な携帯PCゲーム機にはない、MSI Claw A1M唯一の特徴というのが、ちょっと悲しいところです。

700ドルのLenovo Legion Go(1TBストレージ付き)や、650ドルのROG Ally(AMD Ryzen Z1 Extreme搭載、最大512GBストレージ)のほうが、はるかに良い買い物のように思います。MSIのClawは大幅な価格の引き下げがない限り、選択肢から外れてしまうかもしれません。

私が現在使っているSteam Deck OLEDは、1TB版で650ドルの希望小売価格です。Intel Core Ultra 5チップを搭載した低性能のClawが700ドルで発売されても、なかなか他の主要ブランドとの競争力はないと感じてしまいます。

おそらく、MSIが後継機をリリースした時には、割引してくれるはず。実は、MSIはすでに8インチサイズのMSI Claw 8 AIの開発に取り組んでいると発表しました。MSIは「ユーザーのフィードバックを受け止めた」と述べており、新しい製品には次世代のより強力なIntel Lunar Lakeプロセッサが搭載される予定です。新しい製品にはバッテリーとThunderbolt 4サポートがあり、右左のバンパーも変更されスポンジ感が少なくなります。さらに、MSIの製品管理ディレクターであるクリフォード・チュン氏は今月初めに、新しい7インチバージョンも開発中であると述べました。

もしClaw 8がROG Ally Xのバッテリーとパフォーマンスに匹敵し、操作の問題を修正し、価格はそのままにソフトウェアをアップデートしてくれれば、強い競争力を持つかもしれません。ただ、残念ながら、今回のClawはベストな買い物とは言えません。

MSI Clawのデザインとソフトウェア

リリース後3か月で求められた、大幅な改修
Photo: Kyle Barr / Gizmodo

MSI Clawの見た目はROG Allyに非常によく似ています。ただ、両者のわずかな違いが、使用感の快適さに大きな差を生んでいます。

各種ボタンと十字キーは問題なしですが、スティックがどうも馴染みません。私はLegion GoやAllyの細いスティックが好みではありませんでしたが、Clawのスティックもそれらに勝るとは思えません。耐久性に定評のあるホール効果ジョイスティックですが、操作したときの抵抗感が少なく、高価なデバイスに求める触感には程遠い。

トリガーは問題ありませんが、その上のL/Rボタンは現代のコントローラーの中で最悪の部類に入ります。スポンジのような感触で、均一に押し込むことができず、端の方だけを押しているように感じます。コントローラー裏側の設計が影響し、押しにくさがあるようです。

Clawは大人の手に合うように設計されているとは思えません。まるで、指が私たちの2倍も長いエイリアンのために設計されているようです。指が自然に背面の一部に回り込むようにしたいのですが、快適なグリップ感を得ることはできませんでした。背面には給気口となる大きなスリットがあり、長時間プレイしていると、指先が他の部分よりも少し暖かくなることもあります。

もう1つ、Windowsの携帯PCゲーム機が抱える問題も影響していると言えるでしょう。

搭載されているOSがそもそもより大きな画面用に作られたものであり、Microsoftがモバイル向けのOSを提供していないため、各社独自のソリューションを導入しています。AllyやLegion Goのように、Clawにはデバイス専用のソフトウェアが用意されています。

Center Mと呼ばれるこのソフトウェアは、私が使用してきたASUSのArmoury Crate SEやLegion Spaceと比べ劣ります。必要最低限の機能しかなく、不格好なインターフェースと過度にシンプルなゲーム選択メニューがあるだけ。

CPUやGPUの使用状況を表示ない、リアルタイムFPSモニタリングのオプションが1つだけあります。メニューを移動する時、ソフトウェアが遅延し、何度もフリーズすることがありました。

他にも多くの問題がClawでのゲーム体験を妨げてしまいます。入力に反応してくれないゲームがあり、何度も再起動したこともありました。ある時点で、音量ボタンを認識しなくなり、コントローラーが理由もなくPCコントロールに切り替わったことに気付いたこともありました。また、スリープモードにすると、RGBが消えずに点滅し続けることがあります。

MSI Clawのパフォーマンス

すべてを解決してくれたわけではなかったOver Boost
Photo: Kyle Barr / Gizmodo

MSI Clawのベンチマークは一苦労です。他の多くの携帯PCゲーム機と同様、一般的な電力設定項目を備えていますが、最新のアップデートで導入されたOver Boost設定によって、見違える改善が期待されました。私たちがテストしたところによると、Clawを限界まで使えば確かに良いパフォーマンスを発揮します。しかし、それでも競合する製品の設定を考慮すれば、そこまで優れているとは言い難いです。

Clawの53Wの大容量バッテリーは、TDP(熱設計電力)を最大40Wまで高めることができ、様々なタイトルでより良いパフォーマンスを発揮するはず。しかし、『サイバーパンク2077』のようなゲームでは、TDP 30Wと40Wを比べても、大きな違いは見られませんでした。確かにOver Boostは35-40W TDPを提供しますが、実感できるような違いはありません。

ClawはIntelチップを使用しているため、AMDの高画質化技術「FSR」との互換性がありません。これにより、多くのゲームでパフォーマンスに大きな差が生じてしまいます。たとえば、最近のタイトルである『アサシン クリード ヴァルハラ』は、Intelの高画質化技術XeSSをサポートしていません。

Steam Deckは他の携帯PCゲーム機の中でも異色な機種です。どのバージョンでもTDPは15Wどまり。

それでも、『サイバーパンク2077』のようなゲームに最適化されたSteam Deckは、標準の「Steam Deck」設定で30FPSを基本的に達成します。Clawでは、20Wで27FPSにしかいきません。30Wに上げると35FPSになりますが、それでもROG Allyの平均40FPSには及びません。Legion Goでも同じ電力と解像度の設定で近い結果が得られます。

『Forza Horizon 5』では、すべてのデバイスで同様の設定をした上で、Allyがベンチマークテストで60FPSを達成したのに対し、Clawは42FPS、Legion Goは59FPSでした。グラフィック設定を下げればスコアを上げることはできますが、ビジュアルの品質が低下した状態で、60FPS以上を求めたいわけではありません。

MSIは、Over Boost設定を有効にした場合、Steamのトップ100ゲームのほとんどでAllyよりも26%優れたパフォーマンスを発揮すると約束しました。そして実際に、『アサシン クリード ヴァルハラ』を上位設定でプレイできるようになりました。ほとんどのゲームでフレームレートが20〜30%向上しています。

すべてのベンチマークを再実行してみると、『サイバーパンク2077』で41FPSを達成しました。『Forza Horizon 5』では50FPSに達しましたが、それでもAllyの元々のベンチマークには及びません。

ただ、最後に付け加えたいのは、オーバークロック機能ではなく、AIアップスケーラー(高画質化技術)を活用して、フレームレートを向上させて欲しいということです。

『バルダーズ・ゲート3』を、上位設定とFSRのウルトラパフォーマンスモードで、50FPS以上を達成できるROG Allyに対し、同じエリアをプレイして、TDPを最大にし、さらにOver Boostをオンにしても、MSI Clawでは30FPS以下にしかなりません。

よりハイレベルな設定がバッテリー寿命に与える影響を考慮すると、無視できる結果とは言えません。

MSI Clawのサウンド、画面、バッテリー

すべてが平均的としか言いようがない
Photo: Kyle Barr / Gizmodo

携帯PCゲーム機での史上最高のゲーム体験は期待しないでほしいですが、Clawのビジュアルは、このタイプのデバイスとして十分だとは思います。7インチのIPS LCDスクリーンで、解像度は1920x1080、リフレッシュレートは120Hzで可変リフレッシュレートに対応しています。視覚的には、ClawのディスプレイはAllyと同等だと言えるでしょう。

ただ、他機種のスクリーンと比較して、特に優れているわけではありません。Steam DeckのOLEDにも、Legion Goの8インチスクリーンの高解像度にも勝てません。それでも、基本的な性能は備えています。

音質に関しては、Clawはまずまずです。驚くような低音は期待できませんが、このサイズの携帯PCゲーム機でそこまで期待するのは酷な話。AllyのDolby Atmosサポートはありませんが、それほど大きな違いはありません。

最後に、耐久性に関して言えば、53Whrのバッテリーは他のWindowsベースのマシンと比べてバッテリー性能がとりわけ優れているというわけでもありません。『ディスコ エリジウム』のようなゲームをプレイすると、再充電が必要になるまで約3時間プレイできました。『サイバーパンク2077』のようなグラフィックが強烈なゲームをプレイすると1時間以内でバッテリーが切れました。これは、特にグラフィックをデバイスがサポートできる限界まで引き上げた時の結果です。

幸いにも、Over Boostはバッテリーに大きな影響を与えませんでした。ただ、50Whrのバッテリーを持ち、OLEDスクリーンの消費電力が少ないDeck OLEDは、依然として勝者と言えるでしょう。

MSI Clawは見送りかも…

Photo: Kyle Barr / Gizmodo

MSI Clawの性能や仕様に対してがっかりするというよりも、むしろ退屈さを感じます。性能では他の機種に劣りますが、ほとんどのゲームタイトルを遊べるのは事実です。多くの面でSteam Deck OLEDよりも劣り、性能においてはROG Allyに届かない、というのが、個人的な感覚です。

もしこれが150ドルか200ドル安ければ、有力な競争相手になり得たでしょう。しかし、現状では、明らかに「もっと良い選択肢がある」ことがわかります。

次世代のClawが7インチでも8インチでも、既存の問題を単に修正する以上のことが行われることを願います。Center Mは、間違いなくさらなる改善が必要です。MSIがIntelを採用し続ける限り、アップスケーリングに頼ることができないため、同価格帯の他社製品よりも、ネイティブで、同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮する必要があるでしょう。あるいは、現在よりも価格競争力のある製品を作る方が良いのかも。

数ヶ月後、また同じことを繰り返してほしくないと強く願っています。

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