火星はかつて生命にとって重要な水に覆われており、地表の水がなくなった現代でも地下に氷などの形で水が存在していると考えられています。新たな研究では、太陽系最大の火山でもある火星のオリンポス山や付近の山々に、あり得ないと思われていた「水の霜」が降りていることが判明しました。

Evidence for transient morning water frost deposits on the Tharsis volcanoes of Mars | Nature Geoscience

https://www.nature.com/articles/s41561-024-01457-7

In a significant first, researchers detect water frost on solar system’s tallest volcanoes | Brown University

https://www.brown.edu/news/2024-06-10/mars-frost

'We thought it was impossible:' Water frost on Mars discovered near Red Planet's equator | Space

https://www.space.com/mars-water-frost-equator-exomars-tharsis-olympus-mons

In an Extremely Unlikely First, Scientists Found Frost On the Peak of Mars’ Volcano Olympus Mons

https://www.inverse.com/science/frost-mars-mountain-olympus-mons-volcano

オリンポス山は火星の赤道付近に広がるタルシスと呼ばれる地域にあり、地表から約2万7000mの高さを誇ります。オリンポス山の付近にもアスクレウス山・パヴォニス山・アルシア山といった巨大な火山群(タルシス三山)が連なっています。

アメリカ・ブラウン大学の惑星科学者で、当時スイスのベルン大学の博士課程に在籍していたアドマス・ヴァレンティナス氏は、欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機であるトレース・ガス・オービターのデータを分析する研究を行いました。

トレース・ガス・オービターに搭載されたカラーステレオ表面画像システム(CaSSIS)という機器が撮影した3万枚以上の高解像度カラー画像を分析した結果、なんとオリンポス山やタルシス三山の頂上付近に「水の霜」があることが判明。この結果は、トレース・ガス・オービターに搭載された分光計(Nadir and Occultation for Mars Discovery)や、火星探査機のマーズ・エクスプレスに搭載された高解像度ステレオカメラでも検証されました。

以下の画像は、オリンポス山の山頂に降りた霜を高解像度カメラで撮影した写真です。火山の山頂やカルデラに降りる霜は火星の寒い時期にだけ、髪の毛ほどの薄さで、日の出前後に太陽熱で蒸発するまでのわずか数時間だけ形成されるとのこと。霜の層自体は非常に薄いものの、霜が降りる範囲がかなり広大であるため、全体の水分量は約1億1100万リットル(オリンピックプール60個分)に相当するそうです。



白枠で囲った霜の部分を拡大するとこんな感じ。



オリンポス山の山体と霜をシミュレートして作成した画像がこれ。今回の発見は、火星の赤道付近で水の霜が発見された初の事例だとのことで、これまで考えられてきた火星の気候力学に疑問を投げかけるものとなっています。



地球の感覚からすると、たとえ赤道付近とはいえ標高2万mを超える山の山頂であれば、霜が降りても不思議ではないように感じます。しかし、火星では大気の薄さに伴う大気圧の低さや日照条件などにより、山頂付近も平原とそれほど気温が変わらない環境であるため、標高が高くても霜が降りることはないと思われていたとのこと。ヴァレンティナス氏は、「火星の赤道付近で霜が発生する可能性は低いと考えていました」と述べました。

研究チームは、山頂付近やカルデラを通る空気の循環が、寒い朝に霜が降りるほど涼しく湿度のある気候を作り出しているのかもしれないと考えています。ヴァレンティナス氏は、「古代の火星には火山に降水や降雪があったのかもしれません。私たちが目にしているのは、古代の気候サイクルの名残かもしれないのです」とコメントしています。

今回の研究結果を基に、火星の赤道付近で霜がどのように形成されるのかをモデル化することで、火星の水がどこにあるのかといった謎を解明したり、生命探査に必要不可欠な火星の複雑な大気力学を理解したりする役に立つとみられています。