締め切りに追われているのに直前までダラダラしてしまったり、スケジュールに余裕があるからといって先延ばしにし続けたりして、ギリギリになって慌てて取り組むような経験をしたことがある人は多いはず。これは学生にありがちな行動として学生症候群(student syndrome)と呼ばれますが、職場のプロジェクトや個人の生活など、学生以外でもしばしば見られます。学生症候群の例や原因、対処法などについて、専門的に研究するケンブリッジ大学のイタマー・シャッツ氏が解説しています。

Student Syndrome: Why People Delay Until Right Before Deadlines - Solving Procrastination

https://solvingprocrastination.com/student-syndrome/



シャッツ氏によると、学生症候群は先延ばしクセの一種で、基本的には不必要な遅延であることが多いとのこと。学生症候群の典型的な例として、「夏休みの宿題を最終日にまとめてやる」など、長い猶予があるにも関わらず期限の直前まで着手を遅らせる学生をシャッツ氏は挙げています。このような遅延は学生に限った話ではなく、例えば宿題を採点する教師や、職場で重要な報告書を書かなければいけない管理職でも、期限直前まで作業を延期することがあります。



学生症候群の主な問題点として、シャッツ氏は以下の4点を挙げています。第一に、想定より難解だったり予期しないトラブルがあったりした際に、間に合うギリギリに着手すると時間的なマージンがないため、期限に間に合わなくなってしまうリスクが高まります。第二に、仮に期限には間に合ったとしても、期限が迫ったプレッシャーの中で慌てて進めたことで、勉強や仕事のパフォーマンスは低下しやすい点。第三に、締め切りが近いというストレスや、一夜漬けで睡眠不足や疲労に襲われるなど、感情的・精神的・身体的な問題が増加します。最後に、チームで取り組むタスクの場合、個人の学生症候群がグループのパフォーマンスに影響し、人間関係の問題につながる恐れもあります。

学生症候群に限定した統計はありませんが、先延ばし全般についてデポール大学の心理学者らが発表した論文によると、成人の約20%が慢性的に物事を先延ばしにしているそうです。また、アメリカ心理学会が調査したレポートでは、大学生の約50%が慢性的な先延ばしを経験しているほか、75%の学生が「自分は先延ばし癖がある」と考え、80%〜95%の学生が「実際に物事を先延ばしにしている」と回答したことが示されています。

また、先延ばしの詳細として、2001年の調査では約50%が「先延ばしをする間、インターネットを使用している」と回答。現代ではデジタル機器やインターネットがより生活やあらゆる分野と密接になっているため、「人々がインターネット上で先延ばしに費やす時間は、過去よりもはるかに長くなっている可能性が高いです」とシャッツ氏は指摘しています。



先延ばしの原因には多くの潜在的な原因があると考えられますが、シャッツ氏は主要な理由を2点に大別しています。ひとつは動機づけの問題で、将来の成果を軽視してしまったり、未来の幸福よりも今目の前にある楽しさを優先してしまったりと、タスクと成果の関連付けが難しいことに原因があるとのこと。もうひとつは心理的障害で、タスクに取り組む不安や恐怖、完了した後に否定的なフィードバックを得ることへの忌避などが、タスク自体への嫌悪として現れる場合があります。

締め切りが近づくまで取り組めない学生症候群は、裏を返せばギリギリには取り掛かることが多いと言えます。それは、動機づけが弱い場合でも締め切りが近づくと「締め切りまでに終えることができた」という短期的な成果が見えやすくなったり、タスクへの嫌悪感を抱いてたとしても締め切りへのプレッシャーがそれを上回ったりと、先延ばしの原因が取り除かれるため。一方で、うつ病や不安症によって将来の成果をより考えられなかったり、睡眠不足によって不安が悪化したりして、先延ばしの原因が悪化することも同様に考えられます。

先延ばしの原因を考えるキーワードとして、行動経済学の用語である「双曲割引」というものがあります。双曲割引とは、結果が将来に遠ざかるほど、追加の時間的余裕が重要でなくなることを示しており、端的には「今日と明日の違いは、明日と明後日の違いより大きい」と説明されます。そのため、締め切りが遠いと後回しにしてしまいますが、期限が目の前に迫ると焦って取り組むだけではなくむしろやる気が湧いてくるというような状態にもなります。

学生症候群の詳細を考えると、回避するためにはその原因を突き止めることが重要だとわかります。例えば、「10のタスクを1カ月後までにやる」という目標がしっくりこない場合は、「1のタスクを3日後までにやる」と分割して考えると、スケジュールと成果が見えやすくなります。また、インターネットは多くの場合に先延ばしの原因になるため、スマートフォンやSNSにアクセスするよりも勉強道具に手を伸ばしやすくするなど環境設計も重要です。そのほか、タスクにウェイトを設定して簡単な部分をさっさと取り組んだり難しい部分を先にクリアしてやりがいを感じたりすることも有用だとシャッツ氏は指摘しています。

その他、学生症候群を回避するテクニックとして、シャッツ氏は以下を挙げています。

・目標は「いつどれだけ何をやる」と具体的に設定する

・タスクは小さくて把握しやすいステップに分割する。タスクが重い場合は、中間地点を設定する

・自分の体調に合わせた活動しやすい時間など、生産性サイクルを特定する

・気が散るものを遠ざけたり、予定していたタスクにすぐ取り組めるよう準備したり、環境を整える

・まずは最初の1文を完了させることを重視したり、一番楽な部分もしくは一番しんどい部分から始めるなど、アプローチを変える

・2時間集中するよりも25分やったら5分間休憩するセットを4回繰り替えすなどポモドーロ・テクニックを活用する

・ToDoリストが埋まることを楽しんだり、一定の目標をクリアするごとにご褒美を自分で用意したり、仕事のやりがいを見つけてモチベーションを高める

・タスク自体ではなくタスクを完了させて達成できる目標に焦点を当て、その結果良い成績を収めた自分を想像する

・自分の作業が完璧ではないという状態を許容する

・うまくできないかもしれないという恐怖をはっきり認識し、自分への思いやりを養うことで、不安を取り払う

・うつ病や睡眠不足などが原因だと感じる場合は、専門家に相談する

シャッツ氏は「重要なのは、何が原因なのか特定してそれにあわせたテクニックを実行することです」と語っています。